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この記事の概要
曹:2023年11月までのデータになりますが、新築マンションの供給数は、前年同期で比べると発売戸数は減少傾向である反面、価格は上昇傾向が続いています。
(図1)新築分譲マンションの月間供給数推移(首都圏・2022-23年)
出典:(株)不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」を基に作成
(図2)新築マンション価格の推移(首都圏・近畿圏)2022年~23年
とくに東京の都心部では2億円以上のマンションの販売が続き、それが平均価格を大きく押し上げているようです。近畿圏と比べてみても、上昇傾向であることがうかがえるかと思います。
(表1)首都圏・近畿圏の新築マンション主要市場指標(2023年度上半期)
出典:(株)不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向〜主要市場指標〜2023年度上半期(2023年4月〜9月)」
曹:首都圏など、今、大型分譲マンションのデベロッパーは大手ばかりです。中小だと早期の資金回収のために短いスパンで売り切るよう弾力的な価格付けもあるのですが、大手は資金力がありますから、時間をかけてでも採算のとれる開発方法を採っていきます。土地の取得費や資材調達費、建設人工など、開発コストすべてが高騰していますから、当面は新築マンションの分譲価格が全体的に下がっていくというのはちょっと考えにくいですね。マンションの在庫数が昨年比でも大きく変わっておらず、また今後についても、供給が絞られている感じが見られますので、2024年も新築は高止まりの傾向が続いていくように思われます。
東京23区内などの都心部では現在、高級マンションの方が売れ行きがよいという現象も見られます。資産家や富裕層の節税対策や資産の入れ替えなどとして購入されたりするような側面もあるようです。そして、都心物件の高騰ぶりは、今や高額所得者やパワーカップル、親からの援助のある方など、限られた消費者しか購入できないくらいのところにまで来ているのではないでしょうか。
曹:10年くらい前に新築でマンションを購入しようと考える方は新築物件しか検討していませんでしたが、現在は分譲価格が高くなっていますし、供給も少ないということもあって、徐々に中古マンションが新築マンションの購入が困難となった需要者の受け皿になってきています。
曹:新築マンションに引っ張られるように、中古マンションも平均価格が上昇しています。中古マンションの平米単価について、2022年までは70万円を切っていましたが、2023年は73万円まで上昇しています。中古マンションの平米単価が70万円を超えるのは初めてのことです。
(図3)中古マンションの1㎡当たり単価推移(首都圏)
出典:(公財)東日本不動産流通機構(レインズ)「首都圏不動産流通市場の動向(2022年度)」
ただ、新築と違って、中古マンションの場合はエリアや築年などによって人気の度合いに差があり、価格が上昇するマンションと落ち着いているマンションと、両極化が進行しているようです。
曹:人気のエリアであっても、駅から遠かったり、築年が古めだったりするマンションは、それほど値上がりしていません。もともと中古マンションは経年とともに価格はゆっくりと下がっていくものです。人気エリアであっても、ほぼ同条件の物件なら、駅から近いマンションの方が競争力が高いわけです。また、同じ駅でも、玄関口と裏口とでは似た条件のマンションでも価格差があったりします。
なお、弊社は住宅マーケットインデックスとして賃貸住宅の推移も調査していますが、首都圏の賃料は近年上昇しています。コロナ禍で都心の人口が流出し、東京の人口が減少したと話題になりましたが、2021年に一瞬減少しただけで、22年以降は再び増加に転じています。ただ、都内に回帰した方については、住宅価格は高騰しているので、一部の生活者は住宅購入をちょっと見送り、賃貸住宅に流れ込んでいるのではないかと読み取っています。
曹:確かに現在は価格上昇の局面ではありますが、住宅ローン金利のまだまだ低い2024年は、依然住宅購入のタイミングとしてはいい時期かと思います。
金融緩和政策の継続によって、国が引き続き住宅市場を下支えしていることはほとんどの方が認識しているかと思います。一般需要者の借入住宅ローンの金利を見ると、フラット35の金利は2016年に最低水準となった後、若干上昇したものの、全体的には低い水準を維持しています。22年後半からは最低1.5%、最高3%前後の幅で推移しました。23年12月現在のフラット35の最低金利を調べると、返済期間:15年~20年では1.430%、21年~35年:1.910%となっています。この最低金利はフラット35を提供する取扱金融機関各行の最頻金利でもあります。
(図4)【フラット35】借入金利(最低)の推移
出典:(独)住宅金融支援機構「【フラット35】借入金利の推移」
「住宅ローン利用者の実態調査(23年4月)」では、住宅ローンの金利タイプは変動金利が約7割、固定金利が約2割、全期間固定金利が約1割で20年から推移していることから、固定金利より変動金利の変化が住宅市場への影響が大きいことが分かります。なお、主な金融機関の変動金利は0.3%~0.6%を維持しているところが多く、バブル期の8%台の金利と比べると低水準です。今後、金融緩和政策の見直しとともに住宅ローン固定金利はさらに上昇する可能性がありますが、しばらく変動金利は低位に推移すると予想されており、2024年も超低金利が一定の下支えになるでしょう。
住宅ローン減税など、持ち家取得のための支援制度も2024年は引き続き用意されています。また、ダブルインカムの共働きカップルは、女性が出産で休む時期があるかもしれませんが、産休・育休後に会社に戻りやすい仕組みができつつあり、こういう制度が住宅取得の後押しになっていきそうです。今ではペアローン商品も充実しています。
曹:先程から申し上げていますが、新築は価格が相当高く、その割に専有面積は少し狭めになっており、割高な状況が続きそうです。開発コストの上昇もあって、デベロッパーが値下げしてまで売る要素は今のところ見当たりません。
ただ、中古住宅は、売り主の多くが個人であり、場合によっては早めに現金を手にしたい事情などもありますし、新築と比べて値下げ交渉の余地があります。新築より価格が安いことや、物件選びのエリアから価格まで選択肢が多いことから、中古マンションは引き続き狙い目かと思っています。
また、持ち家の購入は、結婚や子育てなど、自分たちの人生のライフイベントというタイミングに合わせて手に入れるものでしょうから、あまり値下げのタイミングを待つのでなく、必要な時期にできるだけよい条件で手に入れればよいのではないでしょうか。ただ、高い買い物ですし、ローンの返済も何十年にわたるわけですから、ご自分たちの生活をきちんと見つめて、条件に合ったマンションを購入していただきたいですね。
曹:ただ、資産性は意識してください。マンションは戸建てより市場流通性が高く、将来売却しやすいストックともいえます。したがって、自分たちが暮らすための消費財にせず、耐久財としての資産価値の部分も意識してほしいですね。
室内はリフォームなどでグレードアップできますが、駅からの距離などは物理的に変えられません。利便性はご自分たちの暮らしやすさにもつながっていきます。将来住み替えのための売却の可能性もあるわけですから、ただ安いだけでなく、価値ある物件を選んでほしいと思います。
曹雲珍氏
(一財)日本不動産研究所 研究部。中国内陸、香港、韓国などアジア不動産流通市場の研究調査、アジア地域不動産国際交流会議と共同研究のコーディネートおよび日本の住宅マーケットインデックス調査業務を担当。不動産学博士。明海大学不動産学部非常勤講師
谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)
建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※ 2024年1月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。
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