上昇トレンドにある居住用賃貸物件の賃料、2025年はどうなる!?

不動産市場関連トピックス vol.4

この記事の概要

  • 居住用賃貸物件の賃料(家賃)について、地域差はあるものの、このところほぼ全国の都市部で上昇を続けており、投資家にとっては利回り向上の大きな追い風になっています。一方で、賃料上昇の伸びが一服したエリアや賃貸物件のタイプもあるようです。投資家は賃料が今後どう推移していくと捉えているのでしょうか。2023〜24年の動きを基に、2025年の賃料について考えてみましょう。

上昇トレンドにある居住用賃貸物件の賃料、2025年はどうなる!?

賃貸物件の2023-24年の賃料は、上昇基調に

一般に物価変動などと比べて、賃料の動きは鈍いとされています。貸室が空室中か、賃貸中なら数年ごとの更新時期にしか賃料変更がなされにくいことや、賃料が1000円単位で設定するケースが多いことなどが変動を穏やかなものにしているようです。また、通常は入居需要と貸室の供給バランスに急激な変動が起きにくいことも、賃料の上昇・下降を緩やかに推移させる要因となります。

ところが、2020年からのコロナ禍は、人の移動を大きく制限したため賃貸需要が大きく下がり、全国的に賃料も下がりました。しかしその後コロナ禍が徐々に収束して人流が戻っていったこと、また近年の物価上昇などによって、賃料は再び上昇傾向を示しています。

2023〜24年の賃料の推移を振り返ると、「コロナ禍の収束と、物価上昇などを背景に、全国的な動きとして賃料の上昇傾向が進んでいった時期」といえます。2024年12月時点で最新データである2024年10月の平均賃料について、不動産ポータルのLIFULL HOME'Sの掲載物件を基に算出したものが下表になります。

[表1]LIFULL HOME'S 掲戟物件平均賃料(2024年10月・首都圏)

[表1]LIFULL HOME'S 掲戟物件平均賃料(2024年10月・首都圏)

※本表における首都圏:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県

※本表におけるタイプ分類
「シングル向き」:ワンルーム、1K、1DK、1LDK、2K
「ファミリー向き」:2DK、2LDK、3K、3DK、3LDK~

出典:LIFULL HOME'S PRESS調べ(2024年11月掲載)

首都圏の平均賃料は、シングル向きで5万7432円(神奈川県 その他)〜12万9291円(東京都 都心6区)、ファミリー向きで8万9607円(埼玉県全域)〜29万2820円(東京都 都心6区)と幅があるものの、すべてのエリアで前年比100%以上と上昇傾向を示しました。特に、ビジネスの中心地であり交通アクセスのよい東京都23区内においては、107〜119%という高い上昇率を示しています。

対して、近畿圏では、シングル向けはすべてのエリアで前年比100%を上回りましたが、ファミリー向けについては、前年を下回るエリアも見られました。神戸市の中心3区など、必ずしも郊外だけでないエリアでも前年比で100%を下回っているところがあり、上昇基調にありつつも踊り場を迎えている可能性も考えられます。

[表2]LIFULL HOME'S 掲戟物件平均賃料(2024年10月・近畿圏)

[表2]LIFULL HOME'S 掲戟物件平均賃料(2024年10月・近畿圏)

※本表における近畿圏:大阪府、兵庫県、京都府

出典:LIFULL HOME'S PRESS調べ(2024年11月掲載)

賃料の変動について、もう少し長いタームで確認してみましょう。下の図は、不動産ポータルのアットホームが取り扱った、ここ15年(2009〜2024年)のマンション賃料の推移を表したものです。2009年の1Q(第1四半期)を100とした時の、その後の平均賃料の推移になります。

[図1]賃料の推移(首都圏・総合、2009年Q1=100)

[図1]賃料の推移(首都圏・総合、2009年Q1=100)

出典:アットホーム「マンション賃料インデックス(2009年第1四半期〜2024年第2四半期)」

前記のLIFULL HOME'Sとは調査エリアが違いますが、2008年のリーマンショック以降、いったん停滞していた首都圏の賃料が、2013〜15年頃から緩やかに上昇に向かっていることが分かります。

[図2]賃料の推移(地方都市・総合、2009年Q1=100)

[図2]賃料の推移(地方都市・総合、2009年Q1=100)

出典:アットホーム「マンション賃料インデックス(2009年第1四半期〜2024年第2四半期)」

変動の時期は多少前後するものの、首都圏だけでなく全国の主要都市においても賃料はおおむね上昇傾向にあることが読み取れます。仙台市の賃料が早期に上昇開始したのは、2011年3月の東日本大震災の復興需要によるものでしょう。逆に名古屋市は2024年現在でも賃料が安定していますが、これは同エリアが都市部の中においては持ち家率の高いことや、郊外から中心市街地へのアクセスが良いことなどが背景にあると考えられます。

こうした賃料の推移を中長期タームで総括すると、リーマンショック(2008年)による景気後退で賃料は一時的に低下しましたが、2013年頃からアベノミクスによる経済回復で賃料は徐々に回復・上昇していきます。2020年のコロナ禍で全国的に賃貸需要が減少し、賃料が横ばい・低下したエリアが出たものの、2023年以降のコロナ禍の収束と経済回復などの影響で、都市部を中心に再び賃料が上昇している、という流れで整理できそうです。

長く続いたデフレ経済がインフレに向かっていることも、賃料の上昇を後押ししているようです。インフレの度合いを測るための重要な指標として「消費者物価指数」が挙げられますが、この消費者物価指数の10大費目の中に「住居」があり、賃貸物件の賃料指数を示す「民営家賃」も継続的に調査されています。その民営家賃の指数(2020年を100とした時の数値)について、2023年まで100を超えることがなかったのですが、2024年に入って上昇していることが分かります。

[図3]消費者物価指数における「民営家賃」の指標推移(2020年=100)

[図3]消費者物価指数における「民営家賃」の指標推移(2020年=100)

出典:総務省「消費者物価指数」

冒頭で、「物価変動と比べて、賃料の変動は鈍い」と記しましたが、その賃料の上昇ぶりが消費者物価指数でも確認できるということは、賃料の上昇傾向が単なる局面的なものではないことを意味しているといえます。

傍証としてもう1つ、多くの不動産会社も、居住用賃貸物件の賃料が近年上昇傾向にあることを実感しているようです。下の図は、不動産業などに従事する方が、3ヵ月前と比べて現在の賃料動向をどう感じているかの推移になります。

[図4]居住用賃貸物件の賃料の動向(「3ヵ月前に比べての実感」、全国)

[図4]居住用賃貸物件の賃料の動向(「3ヵ月前に比べての実感」、全国)

出典:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)、不動産総合研究所「不動産価格と不動産取引に関する調査報告書~不動産市況DI調査」

棒グラフの下部(オレンジ側)が「上昇傾向」、上部(ブルー側)が「下落傾向」と感じる方の割合です。2020年からのコロナ禍によって賃貸需要が下がったことで、賃料はいったん下落圧力が高まりましたが、2021年後半あたりから反転し、再び上昇傾向にあることがうかがえます。

賃料だけに目を奪われず、物件の競争力を正しく検討することが大切

さて、こうした賃料の上昇傾向について、賃貸マンションやアパートを保有する不動産投資家(オーナー)はどう捉えているのでしょうか。不動産投資と収益物件の総合情報サイト「健美家(けんびや)」の代表を務める倉内敬一氏に、近年の賃貸市場の動きをどう感じているかうかがいました。

——賃貸経営の“現場”で実際に運用されている投資家の方々も、ここ数年の賃料の上昇傾向について実感されていますか。

倉内:全国すべての状況までは追い切れないにしても、ここ2年ほど、都市部を中心として賃料が確実に上昇しているという実感はあります。当社でも会員の登録した投資物件の価格や利回りから収益物件の動向を定期的に追っていますが、デフレやコロナ禍などの理由から、長年賃料がなかなか上昇していかなかった時期を脱して、ようやく賃料が上がってきたという感じです。賃料の上昇は世界的にも真っ当なことのはずなんですが、日本の場合、平成以来のデフレで下がり続けていたことが当たり前になっており、ようやく適正な動きに戻ってきたという認識です。

——こうした賃料の上昇傾向は、今後も当面続いていくとお考えですか。

倉内:円レートや株価、政治情勢など不確定な要素はたくさんあるんですが、それでも賃料が全体的には上昇基調を続けていくと考えています。インフレで賃貸物件も建築コストが大幅にアップしていますし、管理やリフォーム費用なども値上がりが続いています。人件費の上昇圧力も考えると、賃貸物件の賃料も引き続き上昇傾向が続いていくと思います。入居者の賃金上昇は、賃料負担能力のアップとしても受け止められます。
加えて実は、居住用マンションと同様、収益物件もじわじわと値上がりしているんですね。首都圏とくに東京のマンションの物件価格の上昇が目につきます。

[図5]全国の住宅系収益不動産3種別(区分マンション/一棟アパート/一棟マンション)の物件価格と表面利回り

[図5]全国の住宅系収益不動産3種別(区分マンション/一棟アパート/一棟マンション)の物件価格と表面利回り

出典:不動産投資と収益物件の情報サイト 健美家「不動産投資レポート2024年12月」

※健美家会員の登録物件の推移であることに留意ください

投資家は物件価格に見合った利回りを設定していくので、自ずと賃料も高めになっていくはずです。新築物件の賃料に引っ張られるように、既存の賃貸物件も賃料が上昇していくはずです。賃料がアップしていくというのは、投資家にとっては明るいマインドといえます。

——ただ、賃料の上昇基調は全国一律ではありませんよね。

倉内:はい。ですから高止まりなエリアやタイプについては、賃料が上げ止まるところも出てくるはずです。都心のファミリー物件など、消費者が賃料的に高過ぎると受け止められれば需要が下がるでしょうし、逆にワンルームマンションが供給過剰になっているエリアもあります。

利回り等のシミュレーションの際、市場に見合っていない無理な賃料設定では検討になりません。これから収益物件を購入される方はエリア内の賃貸需要を確認するとともに、競合物件などと比較して検討物件の競争力をよく吟味し、十分に納得のうえ購入されることが大切です。投資不動産に明るい税理士や不動産会社、オーナー仲間など、個人でなく“チーム”として検討・運用していくことが、投資上のリスクヘッジにもつながっていくかと思います。

[表3]共同住宅賃料の前年変動率(2024年・23年)

[表3]共同住宅賃料の前年変動率(2024年・23年)

出典:日本不動産研究所「第29回全国賃料統計(2024年9月末現在)」

[図6]全国の住宅系収益不動産3種別(区分マンション/一棟アパート/一棟マンション)の物件価格と表面利回り

[図6]全国の住宅系収益不動産3種別(区分マンション/一棟アパート/一棟マンション)の物件価格と表面利回り

出典:日本不動産研究所「第29回全国賃料統計(2024年9月末現在)」

2025年の賃料は、全体的には前年に続いて上昇基調を続けていくと見込まれており、賃貸投資を検討されている方にとって、こうした動きは適正な賃料の確保という面で安心材料につながっていくかと思います。一方で、賃料はエリアや交通利便性、近隣環境といったロケーション面や、建物や部屋の築年数や広さ、間取り、設備といったスペック面など、さまざまな要因によって変動し、一律に上昇するものではありません。また、そのエリア内の需要や物件供給数によっても大きく左右されます。見かけの数字だけにとらわれず、慎重な検討でご自身の運用スタイルに合った物件を手に入れてください。

執筆

谷内 信彦(たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※2024年12月24日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。