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この記事の概要
ガイドラインには大きく以下3つのポイントがあります。
ガイドラインでは、「原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
ガイドラインでは、原状回復義務ありの場合でも、「設備等の耐用年数と、経過した年数に応じた減価償却を考慮する」、つまり、設備等が古くなり価値が減少した部分は除いて賃借人の負担割合を計算するとされています。耐用年数は設備等の種類ごとに決まっており、賃借人負担となる部分の考え方は、設備の耐用年数に応じて残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、年数が経過することによる減価償却部分は除いて負担割合を算定します。
ただし、長期間の使用に耐えられ、部分補修が可能なフローリングや、消耗品である襖紙、障子紙、畳表などは経過年数の考えになじまないため、経過年数は考慮されないので注意が必要です。
ガイドラインでは、入居者負担額を計算する基礎となる原状回復工事は、「補修工事が可能な最低限度の施工単位とする」とされています。原状回復は賃借人が汚損・破損させてしまった部分の復旧のため、賃借人の負担する部分は必要最低限度の工事費用に限定することが基本です。
原状回復義務が発生しがちな壁紙を例にとると、傷の部分だけ張替えても目立ってしまい、価値が復旧できていない状態と考えられますが、部屋全体を張替えるのはグレートアップに当たり過剰とされ、最低限度の工事は1面単位となっています。
民法やガイドラインで定められている原状回復義務を超える負担を賃借人に課す特約が設けられることがあります。これは、民法521条の「契約自由の原則」によるものです。しかし、特約が有効に成立するためには3つの要件を満たす必要があります。
1つ目は、「特約の必要性があり、かつ、暴利的でないことなど客観的、合理的理由が存在すること」です。例えば、家賃を周辺相場に比較して明らかに安価に設定する代わりに、賃借人に特別な負担を課す場合等が考えられますが、限定的なものと解すべきとしています。「壁紙の全面張替え代を入居者負担とする」などの特約は行き過ぎたものとして無効となります。
2つ目は、「賃借人が特約によって通常の原状回復義務を越えた修繕等の義務を負うことについて認識していること」です。民法やガイドラインで定められている原状回復義務を超えて賃借人が負担することとなる通常損耗等の範囲が、きちんと契約書に明記され、賃借人がその内容を理解していることが必要です。
3つ目は、「賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること」です。原状回復義務を超える負担が契約内容になっていることを明確に合意していることが必要です。
特約で一般的なものとして、ハウスクリーニング特約やエアコン特約が挙げられます。ハウスクリーニング特約は、賃借人の清掃状態にかかわらず、部屋の広さや間取りに応じて定額の費用を負担するという内容が多く、エアコンクリーニング特約は、賃借人がフィルター等の清掃をしていたか否かに関わらず、一定金額を負担するという内容が多いです。ペット飼育特約や、タバコ特約のように、ペットによるひどいキズや汚れ、ヤニでの変色や臭いについて、経過年数を考慮せず賃借人負担とするといった特約が設けられている場合もあります。
【「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料】には、特にトラブルになりやすい部位として、壁紙と床の事例が挙げられ、具体的な原状回復費用の算定方法が示されています。
それぞれ経過年数の考慮や賃借人の負担対象範囲、原状回復費用の入居者負担の計算例が掲載されており、より詳細なケーススタディでは、以下のような具体的事例における原状回復費用の賃借人負担部分の計算方法が示されています。
原状回復費用について賃貸人や管理会社の主張と、賃借人の主張が折り合わなかった場合の紛争解決手法についても、通常訴訟、少額訴訟、民事調停、ADR(裁判外紛争解決手続き)のそれぞれの要件やメリット・デメリット、手数料等が掲載されており、とても実用的な内容になっています。
入居者側の「敷金は返ってくるもの」という意識はますます強まってくると思われ、インターネット検索すればすぐ手に入るこれらの知識をもった入居者と、原状回復費用について交渉する場面は増えてくると思われます。理論的に交渉するためには、オーナー側も正しい知識を持つことが必要です。
間違った主張をしてしまわないよう、賃貸不動産オーナーも【「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料】の内容を確認されることをお勧めします。
伊部 尚子
公認不動産コンサルティングマスター、CFP® 独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務し、賃貸仲介・管理業に20年従事。現在は不動産の利活用や相続支援業務を行っている。金融機関・業界団体等での講演多数。
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※ 2023年7月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。
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