不動産による相続前準備、リスクを考え、定期的にチェック

絶対に“争族”にしない!親子で考える相続(第5回)

この記事の概要

  • 前回までは、被相続人が持つ不動産をスムーズに相続するための考え方を紹介してきました。今回は、相続前準備としての不動産の活用の効果と問題点を解説します。相続税の支払いを心配した場合、不動産の活用は有力な対策の一つですが、かえってそれがマイナスに働くこともありますから注意が必要です。

相続とお金のイメージ画像

「相続前準備というと、相続財産の圧縮をすることばかり考えがちですが、それ以外に納税資金を確保すること、複数の相続人がいる場合には全員が納得するように分割できる状態にしておくことも必要です。この3つをバランスよく解決することを考えるべきです」と相続前準備を専門とする東京シティ税理士事務所の税理士は指摘します。

「不動産による相続前準備について、相続財産の圧縮をすることが効果的です。一方、納税資金を確保することや分割しやすい状態にすることについては、効果があまりなかったり、マイナスに働いたりすることもあるので、きちんと配慮する必要があるでしょう」と注意を促します。

現金よりも不動産で残したほうが得?

相続前準備の第一の目的である相続財産の圧縮をするためには、遺産額を減らすことが必要です。遺産額とは、相続や遺贈によって取得した財産の価額です。これを算出する際には、現金、預金、上場株式といった金融資産は時価(市場価格)で評価します。つまり現金を1億円相続する場合の評価は1億円です。

一方、建物や土地といった不動産の評価は、時価(市場価格)ではありません。宅地は路線価等、建物は固定資産税評価額によって評価します。すると多くの場合、時価よりも低くなります。したがって1億円を現金で遺すよりも、市場価格1億円の不動産を取得して相続させたほうが一般的には税額は少なくなります。

こうした時価と評価の違いだけでなく、不動産の相続には税務上の様々な特例があるので、金融資産よりもさらに有利になります。その代表が「小規模宅地等の特例」です。これは相続する土地のうち一定の広さまでは、一定の割合を減額して評価するというものです。この特例によって大きく相続財産を圧縮することができるのが、東京都心のような地価の高い場所に小規模な土地を持っているケースです。

また、土地をお持ちの高齢者は、相続前準備として賃貸住宅の建設を勧められることがあると思います。これは賃貸用建物が建っている土地は、相続時に一定の割合で減額して評価される制度があるからです。

納税資金の確保も可能に

賃貸不動産の建設や新たに不動産を取得すれば、相続前準備の第二の目的である納税資金の確保に関しても、有効なことがあります。家賃などの賃料収入があれば、納税資金を増やすことができるからです。

一方、第三の目的である分割しやすい状態にしておくことについては、不動産の活用は有効ではないことがあります。この連載で解説してきた通り、不動産は分割しにくく、売却に時間がかかることがあるからです。複数の相続人がいる場合には、遺産をどのように分けるのかを考慮して、不動産の活用に取り組まないと、後々、トラブルのもととなります。

せっかくの対策が逆効果になることも

分割しにくくなる以外の不動産を活用した相続前準備の問題点も説明しておきましょう。それは不動産価格の下落リスクです。預金保険制度により一定額まで元本保証された定期預金などと違って、不動産の価格は大幅に下落する可能性もあります。下落した場合、現金や預金などで持っていた方が結果的に相続人が手にする遺産は多くなる可能性があります。不動産の価格が値下がりすれば、“含み損”が発生し、資産ではなく債務が残される可能性さえあるのです。

相続前準備として賃貸用物件を購入したり、建設したりした場合もリスクを考えなくてはなりません。賃貸用物件を所有するということは賃貸ビジネスを始めるということです。ビジネスにはリスクは付き物。空室の発生や建物・設備の損壊・故障などにより、想定していた収益を上げることができない可能性もあります。相続前準備を考える高齢になってから、こうしたビジネスリスクを新たに背負うべきなのかは慎重に判断する必要があるでしょう。

ほかにも不動産による相続前準備を実行した場合に注意しなくてはならないことがあります。それは、定期的なチェックが必要だということです。借り入れで不動産を購入した場合には、返済により残額は毎月変わっていきます。賃貸用物件を所有した場合には、賃料収入で金融資産は増えていきます。こうしたことにより財産の状況は変化するのですから、その時点で相続前準備が適切であるか、定期的に確認する必要があるのです。

最後に税理士は次のようにアドバイスします。「相続前準備は残される相続人の幸せを願って被相続人がやることです。ですから被相続人は相続人とよく相談してから対策を実行してください。一人相撲は禁物です。例えば、賃貸ビジネスをやる気がない相続人に賃貸用物件を遺すのはあまりいい方法とはいえません。相続を“争族”にしないための一番のポイントは、とにかく親子でよく話し合っておくことです」。

協力・監修

東京シティ税理士事務所:不動産を所有する方の相続と不動産税務を専門とする多数の税理士が所属する税理士事務所。

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2018年1月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。