せっかくの対策が逆効果になることも
分割しにくくなる以外の不動産を活用した相続前準備の問題点も説明しておきましょう。それは不動産価格の下落リスクです。預金保険制度により一定額まで元本保証された定期預金などと違って、不動産の価格は大幅に下落する可能性もあります。下落した場合、現金や預金などで持っていた方が結果的に相続人が手にする遺産は多くなる可能性があります。不動産の価格が値下がりすれば、“含み損”が発生し、資産ではなく債務が残される可能性さえあるのです。
相続前準備として賃貸用物件を購入したり、建設したりした場合もリスクを考えなくてはなりません。賃貸用物件を所有するということは賃貸ビジネスを始めるということです。ビジネスにはリスクは付き物。空室の発生や建物・設備の損壊・故障などにより、想定していた収益を上げることができない可能性もあります。相続前準備を考える高齢になってから、こうしたビジネスリスクを新たに背負うべきなのかは慎重に判断する必要があるでしょう。
ほかにも不動産による相続前準備を実行した場合に注意しなくてはならないことがあります。それは、定期的なチェックが必要だということです。借り入れで不動産を購入した場合には、返済により残額は毎月変わっていきます。賃貸用物件を所有した場合には、賃料収入で金融資産は増えていきます。こうしたことにより財産の状況は変化するのですから、その時点で相続前準備が適切であるか、定期的に確認する必要があるのです。
最後に税理士は次のようにアドバイスします。「相続前準備は残される相続人の幸せを願って被相続人がやることです。ですから被相続人は相続人とよく相談してから対策を実行してください。一人相撲は禁物です。例えば、賃貸ビジネスをやる気がない相続人に賃貸用物件を遺すのはあまりいい方法とはいえません。相続を“争族”にしないための一番のポイントは、とにかく親子でよく話し合っておくことです」。