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この記事の概要
従来よりも相続税が課税されるケースは増えています。こうしたことから、相続税の支払いを心配する方が増えているようです。
相続を無事に済ませるには以下の3つのポイントがあります
相続対策を専門とする東京シティ税理士事務所の税理士は、「当事務所へ相続税の支払いを心配して相談にいらっしゃる方がこの数年、非常に多くなっています」と状況を説明します。「ただ実際には、『相続税が納税できるか』ではなく、『残されたパートナー、ご家族、ご親族の暮らしを考えた』うえで、『円満に遺産分割ができるか』が問題になることが多いのです」と警鐘を鳴らしてくれました。
国税庁の統計によると、税制改正後の平成27年に相続税を課税された被相続人(亡くなった方)は10万3403人でした。これは前年の5万6239人の約1.8倍に当たります。このデータを見ると、確かに相続税課税を心配する方が増えるのも納得です。
課税対象となった被相続人の課税財産額をみると5000万円以下が8997人、5000万円超1億円以下が5万1241人で、合わせると6割近くを占めています。さらに1億円超2億円以下が2万7766人ですから、ここまで合計すると85%以上になります。
それでは、こうした財産を相続した方がどのくらいの相続税を納税しているのでしょうか。被相続人1人当たりの平均納税額は、財産額5000万円以下が約60万円、5000万円超1億円以下で約243万円、1億円超2億円以下でも1089万円でした。「少額とはいえないかもしれませんが、受け継ぐ財産額を考えれば、納税を心配する必要はそれほどないことが分かっていただけると思います」(税理士)
それではなぜ、遺産分割が問題なのか。「実際にもめることが珍しくないからです」(税理士)。最新の裁判所の資料によると、平成28年に裁判所に持ち込まれた遺産分割事件数は1万4662件で、平成23年から6年連続で1万4000件を超えています(グラフ1)。
(最高裁判所:「家庭裁判所における家事事件の概況および実情並びに人事訴訟事件の概況等」より作成)
相続に当たっては、遺族が遺産の分割を相談する「遺産分割協議」を行います。そこで合意できないと、家庭裁判所の調停や審判に持ち込まれて「遺産分割事件」になります。「このように裁判所までいくのは氷山の一角です。そこまでいかなくても、遺産分割協議でもめて仲が良かった家族や親族の関係がおかしくなるケースは珍しくありません。“裁判にならない争族”はもっと多いのです」(税理士)。
しかも、こうした遺産分割事件が莫大な遺産を取り合ってもめたのかというとそうではないのです。これについて参考になる最新データは、平成27年度に遺産分割裁判が終局した事件をまとめた司法統計です。それによると遺産分割事件の遺産額は約32%が1000万円以下、約44%が1000万円超5000万円以下でした(グラフ2)。裁判になってしまった“争族”の3分の1は1000万円以下の取り合いであり、全体の4分の3は5000万円以下の取り合いだったのです。
(司法統計:平成27年度 家事:遺産分割事件より作成。許容・調停が成立した事件の内訳)
さらに、遺産分割事件における遺産額というのは納税額を算出する際に用いる相続税評価額とは違うことも知っておく必要があります。相続税評価額は、様々な特例により相続する財産額よりも低くなるケースが珍しくないことはお分かりでしょう。特に不動産ではそれが顕著で、たとえ時価3000万円の自宅マンションでも各種の特例が適用できれば相続税評価額は大幅に下がり、控除額の範囲に収まって相続税の心配はなくなることもあります。
それに対して遺産分割事件の遺産額は裁判所の判断によるもので、相続税算出で使われる特例を考慮しないこともあります。ですから、3000万円の自宅マンションが遺されたら、裁判所の判断次第では遺産額も3000万円になることもあります。「つまり持ち家があるだけで、必ずある程度の遺産額になってしまいます。それくらいの遺産でも争いのタネになりかねないことを説明すると、かなりの相談者が分割を心配されます」(税理士)。
遺産分割事件の件数や遺産額から、「うちの家族は仲が良い。大きな財産がないから、争いにはならない」と甘く考えては危険だということがお分かりいただけたと思います。
税理士は、「遺産分割をスムーズに進める相続のポイントは、不動産の取り扱いにあります。遺産の中で不動産の占める比率は高いうえに、価値が分かりにくく、分割しにくいからです。しかも、納税のために換金する場合にも時間がかかります」と指摘します。
平成27年に終局した遺産分割事件の遺産の内容を見ても、85.3%は不動産(土地・建物)が含まれています。金融資産や動産などだけの事件は14.7%だけでした(グラフ3)。
不動産価格の目安は、公的なものとして基準地価、路線価などがありますが、実勢価格と乖離しているケースも多いことも問題です。実勢価格が分かりやすい金融資産などと合わせて、相続人全員が不公平感を持たない分割案を作ることは容易ではありません。
また、不動産は分割しにくく、複数の相続人に分けることが難しいこともあります。そうした場合、売却して分けることになりますが、それには時間と手間がかかります。遺産の中で金融資産が少なく、不動産が大半を占める場合には、相続税を納税するために売却しなくてはならないケースもありますが、その場合も同じことです。
こうした不動産が、生活や収入の基盤でもあることも、相続を難しくする要素です。冒頭に説明した通り、相続の第一のポイントは「残されたパートナーなど遺族の暮らしを考える」ことです。被相続人が亡くなり感情的にもダメージを受けているのに、生活が不安定になったり、不便になったりしたら大変です。それを防ぐためにも、不動産の取り扱いは慎重にする必要があります。
協力・監修
東京シティ税理士事務所:不動産を所有する方の相続と不動産税務を専門とする多数の税理士が所属する税理士事務所。
※2017年8月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。
※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
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