売却のトラブル防止は不動産選びがポイントに

思わぬ落とし穴に注意!住宅売買トラブルに注意(第3回)

この記事の概要

  •  住み替えで自宅を売却する、親から相続した土地や建物を手放すなど、不動産の売却には様々なケースがあります。ただ、売却の機会は人生でそれほど多くはないので、経験値が貯まりにくいことも事実です。したがって、トラブルに巻き込まれないように、あらかじめ注意点を知っておく必要があります。今回は売却時のトラブル防止について説明しましょう。

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不動産の売却をする際、一般的なのは「仲介」です。「仲介」を簡単に言えば、不動産会社が新たな買主を探す手伝いをしてくれるものです。売主と不動産会社で「媒介契約」を締結し、売却活動をしてもらうわけですが、その契約には「専属専任媒介」、「専任媒介」、「一般媒介」の3つのスタイルがあり、それぞれ内容を把握して選ばないとトラブルの原因になります。

「専属専任媒介」は、売却のための活動を1社の不動産会社に依頼する契約です。この契約を結んだ場合、売主が自分で買主を見つけても、依頼した不動産会社を通して取引することが義務づけられています。「契約期間は3カ月以内(更新可能)」で、依頼された不動産会社は「物件情報のレインズ*への登録」「1週間に1回以上の活動報告の義務」などが法的に課せられています。
*「レインズ」:Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)の略称で、国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピュータ・ネットワーク・システムです。

「専任媒介」も同じく1社に依頼する契約です。ただ、売主が買主を自力で見つけた場合には、依頼した不動産会社を通して契約する必要はありません。また活動報告は「2週間に1回以上」となっています。

「一般媒介」は同時に複数の不動産会社に依頼できる方法です。多数の不動産会社が取り扱う分、購入希望者の目に止まる可能性は高くなるかもしれませんが、依頼を受けた不動産会社が、専任媒介ほどの熱意で業務に当たってくれるのかは分かりません。

以上の説明でお分かりいただけるように、専属専任媒介契約を結んでおきながら、自分で見つけた買主に、その不動産会社を通さずに売却したり、専任契約を結んでいなから別の不動産会社にも売却を依頼したりすればトラブルになります。一般媒介契約で複数の不動産会社に依頼した結果、情報整理に失敗して、トラブルになることも考えられます。自分の事情にあった仲介契約の方法を真剣に考える必要があります。

「金額」「タイミング」がトラブルの種

価格に関するトラブルとしては、希望する額に届かなかったり、最終的な手取り額が期待するほどでなかったりというようなことが起こります。

売主が、そのエリアの類似物件の一般的な取引相場をきちんと把握せず、無理な希望額を想定していれば希望額に届かないのは当たり前です。しかし、不動産会社の都合で安く売却させられては問題です。売買価格の設定や変更については、理由をよく確認し、慎重に実行する必要があるでしょう。

不動産売却には様々な費用が掛かります。それを認識にしておかないと、手取り額が思ったり少なくて、不満を感じてしまうことになります。不動産売却には、一般的に下表のような費用が発生します。

不動産売却時にかかる費用例

ステップ 発生する費用等
不動産売却前
  • クリーニング費用
  • インスペクション費用
  • 修繕・リフォーム費用
  • 測量費用
売却時
  • 不動産仲介手数料(半額。決済時に全額の場合も)
決済・引き渡し時
  • 不動産仲介手数料(残額または一括)
  • 登記費用(所有権移転、住宅ローン抵当権抹消、司法書士報酬など)
  • 印紙税
売却後
  • 譲渡所得税(所有期間、買い換えの場合等の特例あり)

不動産の売却には時間がかかることがあります。それを意識しておかないとトラブルのもとです。多くの場合、売主はいついつまでに売却したいという希望があるかと思います。特に住み替えで、現在住んでいる物件の売却代金を次の物件購入資金に充てるような場合、売却日が延びると希望物件の購入が実行できないといった問題が起こります。

住まいの買い換えでは、売却と購入のタイミングが重要です。持ち家の売却と新居の購入タイミングが合わないと、さまざまなロスや手間が発生してしまいます。持ち家の売却後に新たな住まいを見つけるのでは、場合によっては新居入居までに仮住まいが必要になる可能性がありますし、新規物件取得が早めだと売却を急がなくてはならず、結果的に価格が低くなることがあります。

売却する際は、「最悪いつまでに、最低どれだけの額で」という目標設定が不可欠です。こうした目標は市場の相場とマッチしていなくては絵に描いた餅になってしまいますから、客観的な情報と冷静な判断が必要になります。

買主からのクレームにはどう対処する?

前回の購入トラブルでも「瑕疵担保責任」に触れましたが、売却全般において重要な注意点です。買主が住み始めていろいろ不具合に気づき、クレームやトラブルに発展するケースがあるからです。こうしたトラブルを避けるためには、事前のコンディションチェックと、必要カ所の修繕やリフォームが効果的です。

価格のアップや早期の売却を期待して、建物の見栄えを良くしても瑕疵担保責任のリスクを減らす効果はあまりありません。それより売却前に建物をしっかりチェックして不具合を確認し、手入れをした方が後々の心配が軽減できます。

瑕疵担保責任は、売主が個人である場合、特約で免責することも可能です。後々のトラブルやクレームを避けるために、「売主が瑕疵担保責任を負わない」とする特約を契約書の中に入れることもできるのです。ただ、この特約は買主にとって不利な条項ですから、売りにくくなることは否めません。

引き渡しの際、買主と一緒に現状確認をすることも後々のクレーム防止に有効です。買主が後で「知らされていなかった」などとクレームの出ないよう、建物や設備機器のコンディションを一緒に確認するわけです。「給湯の勢いが弱い」といった故障とまではいかない機器の不調や、「マンションのゴミ出しルール」や「隣人関係」の慣習などから生じるクレームを避けることができるはずです。

トラブル未然に防ぐための3カ条とは

最後に未然にトラブルを防ぐための3カ条を紹介します。

その1:金額や時期は相場を調べて納得のいく目標を設定する

「○月までには売れるだろう」「○○万円くらいで売れるだろう」といった根拠のない思い込みは、実現しなかった時に大きなストレスとなり、トラブルに発展しかねません。正確で豊富な情報を持つ不動産会社と相談して、納得のいく売却目標の設定をしましょう。

その2:費用は覚悟してでも売却後のリスクヘッジを事前に行う

売却後に買い主から「隠れていた瑕疵が見つかった」というクレームが入り、「補修してほしい」、「弁償してほしい」、「減額してほしい」といった要求が来て苦しむことがないように事前に手を打っておきましょう。インスペクションなどを実施し、最低限の補修や設備更新をしておくことが、後々の面倒なトラブルを防止することになります。

その3:信用できる不動産会社に依頼する

トラブルのないスムーズな売却を実現する最大のポイントは、信頼のおける不動産会社を味方につけることです。価格設定はもちろん、適切な諸手続き、売却後のトラブルリスク軽減など、様々なノウハウを持った不動産会社を選ぶことが売却成功の秘訣です。

執筆

谷内信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。