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この記事の概要
住宅は1軒1軒立地も違えば、広さ、建物の工法、間取りも違い、2つとして同じもののない商品です。中古になれば、前所有者の暮らし方や維持管理方法などでコンディションも大きく違ってきます。多様な住宅の中から、気に入った住宅に出会えるかは、まさに一期一会といえるかもしれません。
購入を検討する際には、さまざまな条件や要望があるでしょう。希望するエリアに始まり、マンションか戸建か、広さや間取り・部屋数、建物の築年数や維持管理状況・リフォームの必要性、そしてなによりも予算と、多くの「こだわり」をお持ちのはずです。それを満足させる物件を探すのは非常に難しいので、見つかった場合には喜びのあまり、できるだけ早く自分のものにしたくなるのではないでしょうか。
しかし、住宅は高額な買い物です。購入に際してはできる限り慎重になる必要があります。一度購入し、引き渡しを受けてからの契約解除は難しく、万一できたとしてもさまざまな手間やコストがかかります。今回は住宅購入までのトラブルを極力回避するためのポイントを紹介します。
全国の宅地建物取引業者(不動産会社)は約12万3000社あり、ここ3年微増傾向にあります。住宅購入に際してはこうした宅地建物取引業者に媒介や代理などを依頼するのが一般的ですから、そこでトラブルが発生することも考えられます。どんなトラブルが起こっているのでしょうか。
最新である平成27年度の宅地建物取引業法 施行状況調査によると、国土交通省などで対応した宅地建物取引業者の関与する宅地建物取引に関する相談件数は2164件。うち1527件が本局・本庁(本課)が対応した件数になります(他は来庁相談に留まった件数)。これは役所に持ち込まれた件数なので、水面下のトラブルはこれよりもっと多い可能性もあります。
1527件の苦情・紛争相談の内訳を見ると、「売買時における媒介・代理」について40.7%と最も多くなっています。「売買に係る」(宅地建物取引業者自らが売主として関与する)数値と合わせると7割を超える数字になります(表1)。
出典:国土交通省 (各地方整備局等および47都道府県の宅地建物取引業法主管課における来庁相談対応件数) *以下同
これらについて、物件の種類別で見てみましょう(表2)。色帯で示したように、中古住宅の比率が高いことが分かります。不動産会社が直接販売する場合でも、戸建・マンション合わせて35.5%、仲介になると53.5%にも達します。
中古住宅、とくに戸建住宅については、新築より実際の住宅性能が見えないことなどがトラブルの多い要因として考えられます。マンションの場合、構造部などは共用部分として区分所有者全体で管理していますから、ある程度の維持管理が行われ、大規模修繕の実績等でメンテナンス状況を把握できますが、戸建住宅の場合は維持管理を記録した資料が少なく、なかなか判断できません。それゆえ内見やインスペクション(建物状況調査)が重要になってくるわけです。
本格的なインスペクションを実施しないまでも、建物の現状の性能をつかむためのチェックや質問は不可欠です。検討時や内見時に、マンションの総会議事録や会計報告書、大規模修繕記録、戸建住宅の場合は維持管理記録や実施したリフォーム資料などを入手し、住宅性能についてある程度までの判断をしておきたいところです。内見や図面チェック等と併せて、不明な点については不動産仲介会社にきちんと尋ねることが重要です。
次の上記のトラブルの原因について確認していきましょう。原因別に整理したのが表3になります。件数の多い順に並べました。
※宅地建物取引業法47条
「重要事項の説明等」「契約の解除」「報酬」「瑕疵問題」が上位を占め、これら4原因でトラブル6割近くを占めていることになります。とくに「重要事項の説明等」は、それだけで原因の1/3を占める大きな原因となっています。これらの数値を先ほど同様、賃貸を除いた「売買」「売買の媒介・代理」別に細かく整理してみましょう(表4)。
色帯部分が、「売買」より「売買の媒介・代理」の数値が高い項目です。「売買」と「売買の媒介・代理」の順位は変わりませんが、比率で見ると、第4位の「瑕疵問題」について、「売買」が全体の3.0%なのに対し「売買の媒介・代理」は7.7%と、2.6倍の高さとなっています。このことからも、先にご説明した「現状住宅性能の把握」が重要であることが読み取れるかと思います。
トラブル原因の第1位となった「重要事項の説明等」について、購入側はどう対処すればよいのでしょう。
重要事項説明とは、土地・建物の売買契約、不動産仲介の媒介契約等、その契約内容のあらましについて買主に対して説明するプロセスです。中古住宅購入の場合、主に「購入物件の概要」と「契約条件」について示されます。ただ、不動産や法律、建築等の専門用語が並ぶため、一般人には分かりにくいのも事実です。
トラブルが起こる原因として、不動産会社・買主双方が説明を面倒に思って適当に済ませてしまうことが考えられます。重要事項説明は、契約上、後々のトラブルを防止するための重大ポイントです。単なる手続きの手順とせず、内容についてきちんと理解する姿勢を持つことが大切です。
こうした手間を面倒だと考えると、後で「言った・言わない」などのトラブルになりかねません。後々のトラブルリスクを減らすためにも、重要事項説明時に限らず、購入検討者の些細な疑問にも丁寧な説明を心がける不動産会社をパートナーにしたいものです。
2位の「契約の解除」は、様々な理由で契約不成立や契約解除になった際に、手付金や仲介手数料等、報酬に関するトラブルが起きたりしているものと考えられます。不動産は売買契約時に手付金を入れてから、物件引き渡し時に残りを支払うまでにある程度の時間がかかるのが一般的です。その間に気が変わったり、資金計画に変更があったりすることも考えられます。
買主の都合で契約解除を行う場合、売主に責任はありませんので、売主が既に履行に着手していた場合、手付金の放棄や仲介手数料の支払いが求められることがあります。契約解除に関するルールや条件をきちんと確認することが不可欠です。
以上のデータから、住宅購入の際のトラブル防止策を考えると、2つのポイントが挙げられるでしょう。1つは「納得いくまで説明してくれる信頼の置ける不動産仲介会社と付き合うこと」、もう1つが「面倒がらずに説明を聞いて、疑問点を徹底的につぶすこと」です。
信頼の置ける不動産仲介会社というのは、買主側に寄り添い、豊富な情報と丁寧な説明などによって、その方にとって最適の住まいを安全に提供するという姿勢を持つ会社といえます。また、インスペクションの実施や、住宅性能について評価やアドバイスもできるなど、建築面にも精通していることも大切です。
買主側は、少しでも疑問に思ったことは質問や資料請求などで確認し、曖昧な部分をなくして心から納得して契約を結ぶことが大切です。「後で確認すればいい」「悪いようにはしないはず」「一般的にはこうなるはず」といった安易な気持ちでの契約は、後にトラブルにつながりかねません。
谷内信彦 (たにうち・のぶひこ)
建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)
※ 2017年9月29日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。 ※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
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