不動産の相続は時間との勝負であることを意識する

絶対に“争族”にしない!親子で考える相続(第4回)

この記事の概要

  • 前回まで、相続をスムーズに進めるには不動産の取り扱いが大切であることを説明しました。それでは具体的にどのようにすればいいのでしょうか。不動産のまま相続して別途、納税資金を用意するべきか、売却して相続税を支払うべきか。相続の事情がそれぞれ異なる中で、最善の道を選ぶポイントを紹介します。

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「不動産相続というと複雑そうですが、突き詰めると基本的な選択肢は2つしかありません。一つは、相続時に売却して現金化すること。もう一つは相続人が不動産として相続することです」(相続対策を専門とする東京シティ税理士事務所の税理士)。どちらを選択すべきかを考えてみましょう。

まず、考慮すべきは相続税が用意できるかどうかです。相続税の納付は、物納などの例外的な手段はありますが現金が基本です。遺産の中の現金や換金性の高い株式といった金融資産では納税額に足りず、相続人が別に現金を用意できないケースでは、不動産資産を売却する選択肢が有力になります。

売却しないでも、相続した不動産を担保に金融機関から借り入れて、相続税を支払うこともできなくはありませんが、審査や手続きにある程度の時間がかかり、手数料も必要になることから、あまり一般的ではありません。

不動産を売らなくても相続税が支払えるなら、2番目の選択肢も選べます。ただ、税理士は「だからといって安易に不動産のまま相続すればいいわけではありません。不動産として相続することに相続人全員の同意がとれるか、財産価値を落とさないかどうかを検討する必要があります」とアドバイスします。

不動産として相続することに合意をとりやすいのは、相続財産に複数の不動産があるケースです。相続人がそれぞれ分けて承継し、多少の金額の調整は現金などの金融資産で行えば納得がえやすいでしょう。この場合、納税資金が用意できない相続人だけ、売却することもできます。

安易な分割や共有で不動産価値を落とす可能性も

問題は、不動産が複数あっても、不動産のままの分割案に関して相続人の合意が成立しない場合や、不動産のまま分割を実行した場合には価値を落としてしまう可能性が高い場合です。こうした時には一括して売却するという選択肢が浮上して来るでしょう。

特に、不動産を分割した場合に価値を落としてしまうことがないかが検討のポイントです。相続において不動産のまま分割する場合、土地なら遺産分割案にもとづいて分筆し登記する、建物なら遺産分割案にもとづいて区分所有権に分けて登記するという方法があります。

ただ、あまり広くない土地の場合、安易に分筆して登記すると、小さくなりすぎて使いやすい建物が建てられなくなったり、接道条件が悪くなったりすることで、不動産としての価値が落ちるケースがあります。

建物の場合、複数戸数のマンション1棟を対象に区分所有権に分けて相続するというのはありえます。しかし、相続財産は基本的に一戸建てやマンションの1戸なので区分所有権に分けるというのは現実的ではありません。

上記のようにうまく分筆や区分所有権による分割がしにくい不動産を複数の相続人が受け継ぐ場合、別のやり方として、遺産分割案に基づき持分を決めて「共有」にするという方法もあります。この方法には、遺産分割案通りに権利を分けやすいというメリットがあります。

しかし、「共有にして相続するのはあまりいい方法とはいえません。大きな理由は不動産としての利用価値が落ちてしまうケースが多いからです」と税理士は警告します。共有にすると、一部の相続人の持分のみを処分する場合、売りにくくなったり、買いたたかれたりすることが珍しくありません。また、不動産全部を売却したい場合には共有者全員の合意が必要です。さらに相続人が亡くなり次の相続が発生した際には、権利関係がより複雑になってしまい、利用価値がさらに落ちる可能性があります。

以上のように、不動産のまま無理に分割したり、共有にしたりするよりは、売却して代金を遺産分割案の通りに分けた方が、価値を損なうことなく、相続人全員が納得でき、後悔しない相続が実現できる可能性は高いといえるでしょう。

売却する場合には期限を意識する必要がある

それでは次に相続財産の不動産を売却する際の流れや注意点を解説しましょう。もちろん被相続人の名義では売却できません。まず相続人の名義に変更する必要があります。そのためには、相続人や遺産を精査し、遺産分割案を作成して合意を得るのが前提条件になります。

遺産分割案の合意までにもめるケースが少なくないことは、本連載1回目で紹介した通りです。分割比率だけでなく、相続人それぞれで、懐事情や不動産市場の先行きに対する見方などが違いますから、売却するか、不動産として相続するかという考えが異なり、その調整が必要になるケースもでてきます。遺産分割案の合意形成でかなりの時間を覚悟する必要があります。

ようやく合意形成ができたとしても、それに従って相続人の共有名義にして一旦、登記し売却しなくてはなりません。少しでも高く売ろうと思えば、時間をかけて買主を探したいところですが、相続税の納税には、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月という期限があるのでいつまでも探しているわけにはいきません。なんとか買主が見つけて、契約を成立させて代金を受け取って、相続税を納税。「こうした一連の作業を期限内に行うためにはスピードが大切なことはお分かりいただけると思います」(税理士)。

将来、値上がりする不動産か、値下がりする不動産か

相続時に、不動産を売却してしまうか、不動産として相続し保有し続けるかについては、将来の価値に関する予測も関係してきます。今後、値下がりしそうな不動産なら、相続時にできるだけ早く売却した方が得です。値上がりしそうな不動産なら相続時点で売却せずに保有しておくことを考えてもいいでしょう。

近年は、地価が上がる場所は上がり続けて、下がる場所は下がり続ける傾向があります。下がっている場所が反転して上昇するのは、鉄道の新線が開通するといった特殊事情があったケースが多いようです。つまり、現状、地価が下がっている場所の不動産を相続することになった場合、使用する必要がなければ、早く売った方が金銭的なメリットは大きい可能性が高いのではないでしょうか。

「一旦、不動産として相続してしまえば、売却には手間も時間もかかるので、なかなか手をつけることができず、使わずに放置して固定資産税などを支払い続けることになりかねません」(税理士)。相続という機会にどうすれば一番メリットがあるのか納得いくまで検討しましょう。

協力・監修

東京シティ税理士事務所:不動産を所有する方の相続と不動産税務を専門とする多数の税理士が所属する税理士事務所。

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。