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この記事の概要
住宅価格の上昇の影響もあって、新築以外に中古住宅も検討対象に加えている方も多くなっていると思います。新築と中古では、内装、設備、間取り、省エネ性能など様々な違いがあります。その中でも気になるのは、耐震性の違いではないでしょうか。
耐震性は設備や内装などと違い、日々利便性や快適性を直接感じるような性能ではありませんから、日常生活ではあまり意識されにくいものです。ただし、安心・安全な暮らしを実現するためには非常に重要な性能です。
耐震性をチェックする方法に、建築確認の時期を確認する方法があります。現在の耐震性能は1981年6月の建築基準法改定によって規定されているため「新耐震基準」と呼ばれ、それ以前、1981年5月以前に建築確認を受けた建築物は「旧耐震基準」とされます。新耐震基準の建物ならば、一定の耐震性があるとされています。
もう一つの区分が、2000年6月以降です。この時期も建築基準法改定があり、より細かな規定が設けられたからです。1981年6月以降と2000年6月以降は、ともに新耐震基準を満たした建物ですが、大きな地震が起こった際、損壊状況に大きな差がでる可能性があります。
下のグラフは2016年の熊本地震の木造住宅の損壊状況を建築時期別に分けたものです。1981年6月〜2000年5月に確認申請した住宅は、無被害の住宅は20.4%に留まりました。一方、建築基準法改訂以後の2000年6月以降は無被害が61.4%と3倍以上に達しています。1981年6月〜2000年5月に確認申請をした中古住宅は、新耐震基準ですができれば「耐震性を確認したい物件」ということになります。
(熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書より作成、暫定データ)
国土交通省が総務省のデータをもとにまとめたデータによると、2013年の時点で、戸建て(持家)のストックは、1980年以前が約920万戸、1981年~2000年が約1026万戸ありました。2001年~2013年9月の605万戸と比べると、2000年以前のストックは3倍以上です。耐震性をチェックすべき中古住宅が多いことがお分かりいただけると思います。
(国土交通省:平成28年度住宅関連データ 築年別の住宅ストック総数より作成)
ただし、時期による耐震性のチェックはあくまでも「大まかな目安」となります。2000年6月以降の基準で設計されていても、施工やメンテナンスなどの問題で耐震性が弱くなっていることもあります。
前掲の熊本地震の調査データでも「大まかな目安」であることがわかります。旧耐震基準の時期の建物で、約半分が「軽微・小破・中破」の被害を受けました。一方、2000年6月以降の基準の建物でも約3分の1が「軽微・小破・中破」の被害を受けているのです。注目すべき両者の大きな違いは「大破」「倒壊・崩壊」という深刻な被害の比率です。旧耐震基準は約46%にもなっている深刻な被害が、2000年6月以降の基準では6%に留まっています。
建築時期が目安でしかないなら、どうすれば安心なのか。購入の前に建物調査(インスペクション)を実施し、耐震性能や、劣化状況の確認をするべきでしょう。戸建て住宅の場合、前所有者の維持管理状況が不明なケースも珍しくありません。購入後にトラブルなく長く暮らすためには、通常分からない部分をプロにチェックしてもらう必要があります。
インスペクションも調査項目や内容によって規模がさまざまですが、旧耐震基準の戸建て住宅なら、耐震診断も取り扱う本格的な調査・診断をお薦めします。
『気に入った中古物件が見つかり、建物も外見では建て替えないでも使えそうだった。ただ、インスペクションで現行の耐震性を満たしていないことが判明した。』こんなケースにどう対処すべきでしょうか。
「壊して新築する」、「自己責任でそのまま住む」、「耐震リフォームを実施する」という選択肢があります。これらの中で、満足度が高くコストも安く済む方法を選択するわけですが、その際に一番、イメージしにくいのが耐震リフォームの内容とコストだと思います。それを簡単に紹介しましょう。
具体的な耐震リフォームの工事内容ですが、建物の状況によって、基礎、構造部、壁などに手を入れます。
まず、建物と地面をつなぐ基礎の性能を強化します。無筋の基礎でしたら、コンクリートを増し打ちしたり、アラミド繊維シートを巻き付けるなどの方法で補強します。基礎の性能が著しく低い場合、基礎の打ち替え(新設)する場合もあります。
構造部というのは、柱や梁などのことで、建物の骨格部分。腐食や蟻害(シロアリ)などで柱材の強度が劣化している場合、柱の一部または全部を交換し、耐震金物でしっかりと固定します。柱と梁の間に対角線に筋交いを入れたり、構造用合板を張ることで、左右の揺れに対しての強度を高めます。柱や梁の抜けがないよう、こちらも耐震金物で接合します。配置バランスもありますが、壁の量が増えるほど耐震性は高まりますから、窓を小さくしたり、開口部を減らすなどの方法もあります。
建物は屋根が重いと地震に弱くなります。そのため重い瓦ぶきを軽い材料に変更することで建物の重心を下げ、構造体にかかる負担を減らすことができます。
気になる耐震改修の費用ですが、財団法人日本建築防災協会の調査では、木造戸建て住宅で100〜150万円未満の工事が一番多くなっています。いずれにしても、築年数や工法、面積によって差があるので、工事会社などに見積りをお願いしましょう。
こうした耐震リフォームによる出費は少なくすることも可能です。まず、多くの自治体には耐震診断や耐震工事への補助制度が用意されています。そうした制度の多くはインターネットで検索可能ですから、チェックするといいでしょう。例えば東京都なら「東京都耐震ポータルサイト」を用意し、区市町村の補助金を調べることができるようになっています。
中古住宅を選択肢に加えることで、住まいの大切な要素である立地や広さに満足のいく物件を見つけることができる可能性は非常に高くなります。弱点である耐震性についても、インスペクションとリフォームでカバーすることができます。ぜひとも、中古+耐震リフォームで住まい選びの選択肢を拡げてください。
谷内信彦 (たにうち・のぶひこ)
建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、暮らしや資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)
※ 2017年8月31日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。 ※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
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