ご存じですか、分譲マンションの“駐車場問題”[前編]

マンションを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第7回)

この記事の概要

  • 近年、都心部では自動車の保有世帯が減少傾向にあります。分譲マンションでも駐車場の空き区画の増加に伴って、管理組合の会計に支障を来すマンションも出ており、社会問題化し始めています。マンション所有者にとって見過ごせなくなってきた駐車場問題について、現状や課題、対策例などを2回にわたってご紹介します。

ご存じですか、分譲マンションの“駐車場問題”[前編]

空き区画が増えているのは本当か?

一般社団法人自動車検査登録情報協会によると、2021年3月末現在における自家用自動車の世帯あたりの普及率は、全国平均で103.7%であり、1世帯に対し1台以上保有していることになります。しかし、実際の普及率は地域によって相当の差があり、概して地方部では普及率が高く、都市部では低くなる傾向にあります。

普及率が100%未満は8都道府県あり、東京、大阪、神奈川、京都、兵庫、埼玉、千葉、北海道と、いずれも大きな都市を抱えたエリアといえます。都心部は地方部より単身者や核家族が多く、世帯数の多さが普及率の低さを後押ししている側面もありますが、都心部は公共交通のネットワークが充実していることから、地方部より自動車の所有率は低くなる傾向にあります。

世帯あたりの自家用乗用車普及率(2021年3月末現在)

普及率の高い都道府県 普及率の低い都道府県
都道府県 普及率 都道府県 普及率
第1位 福井 171.5% 東京 42.2%
第2位 富山 166.0% 大阪 63.3%
第3位 山形 165.4% 神奈川 68.9%
第4位 群馬 160.2% 京都 81.0%
第5位 栃木 158.1% 兵庫 89.9%

出典:(一社)自動車検査登録情報協会

都心部ではレンタカーやカーシェアリングも充実しており、「必要な時にだけ乗る」というライフスタイルは若い方を中心に目立ってきています。マイカーの保有より、住宅ローンの返済を優先したり、手元に現金資産を残しておきたいと考える方も増えているのではないでしょうか。

駐車区画に「空き」が増えるリスクとは

前述の「必要な時にだけ乗る」などライフスタイルの変化にて普及率が低下したことにより、当初適正な駐車区画で建築したマンションは、駐車区画が余る状態も散見されるようになってきました。
駐車区画に「空き」が増えることは、マンション管理組合(=所有者)にとってどのようなリスクとなるのでしょう。

まず、駐車場代の減収によって、管理組合の会計に支障を来たします。人件費の高騰もあって管理委託費などは増加傾向にあり、これまで比較的安定収入源であった駐車場代の減収は管理組合にとって大きな痛手です。

空きの出た駐車施設の維持管理コストの増加も、頭の痛い問題です。分譲マンションの駐車場は、大きく「平面駐車場」「自走式立体駐車場」「機械式立体駐車場」に分けられます。このうち、タワー型やクレーン型などの機械式駐車場は相応のメンテナンス費用がかかります。利用者の少ない駐車場維持のためにメンテナンス費用といったコストをかけるのは、組合員として心穏やかではないことでしょう。

一方で、住人に借り手がいないからといって、マンション住人以外に貸し出すとなると、敷地内に第三者を入れることとなり、セキュリティ面から賛同を得るのが難しいのが実情です。

駐車区画を容易に減らせない3つの障壁

リスクを減らすため、駐車区画を減らすという考え方も浮上してきます。維持コストのかかる機械式駐車場を撤去し、平面式駐車場などにしてランニングコストを下げようとするものです。しかしそれを実現するためには、実はさまざまな障壁が立ちはだかってくるのです。

障壁の1つ目は、撤去コスト。機械式駐車場など、規模によって差はありますが、100万円台〜1000万円台単位の撤去費用がかかります。現在会計が安定している管理組合であっても、こうした巨額の捻出は容易ではありません。地下式の駐車場の場合は、敷地の埋め戻しや舗装費用もかかります。

障壁の2つ目は、住人間の合意形成。駐車区画の変更のためには管理組合総会での可決が必要です。こうした変更は「共用部分の変更」や「管理規約の改定」に当たり、「特別決議」での可決が必要です。過半数の賛成で可決される普通決議と違い、特別決議は区分所有者数と議決権数の3/4以上の賛成が必要な事項。全住人にお知らせを送ったうえで説明会を開くなどして理解を求め、場合によっては臨時総会を開いての決議となるなど、議案提出から実施までに時間がかかってしまうのが実情でしょう。

最後に、法律による制約もあります。実は、大都市を中心とした多くの地方公共団体は駐車場法に基づいた条例を制定しており、分譲マンションを含む一定規模以上の大規模建築物を新築する際には一定数の駐車施設の附置(ふち)を義務付けているのです。これは一般的に「附置義務」と呼ばれ、この条例に示された区画以下に駐車区画を減らすことはできません。

そのような中、分譲マンションでの空き区画の増加が社会問題化していることもあって、駐車区画を緩和する自治体も出てきました。ただ、そのためには特定行政庁と事前協議を経たうえで管理規約を改定し、再度正式な申請を経るといった手順があり、いずれにしても容易な作業ではありません。

このように、「コスト」「合意形成」「法規対応」といった3つの障壁をクリアして初めて、駐車区画をコンパクトにできるわけです。全住人、とりわけ管理組合に多大なエネルギーがかかることは容易に想像できるのではないでしょうか。

では実際、駐車場問題に直面したマンションではどのように解決しているのでしょう。次回「後編」では、マンション管理業協会に話をうかがい、駐車場問題の実際と解決のためのアプローチ、実際のケーススタディなどを紹介します。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年6月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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