ご存じですか、分譲マンションの“駐車場問題”[後編]

マンションを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第8回)

この記事の概要

  • 近年、都心部の分譲マンションの中には、駐車場の空き区画の増加が原因で、会計に支障を来す管理組合が出てきています。前編ではこうした駐車場問題の現状をレポートしましたが、後編では管理組合が取るべき具体的な方策について、マンション管理業者を会員として構成する一般社団法人マンション管理業協会の事務局に話をうかがいました。

ご存じですか、分譲マンションの“駐車場問題”[後編]

駐車場の維持管理が管理組合会計の重荷に

今回、駐車場問題の対策方法についてうかがったのは、マンションの管理会社を会員とする団体、マンション管理業協会。マンションの管理システムや管理技術などの調査・研究を通じてマンション管理の質の向上に努めるとともに、年間6000〜7000件ものマンション管理に関する一般相談や苦情受付の実績を持ち併せています。川田晶彦氏、池田朋広氏お二方に実態と解決方法をうかがいました。

——昨今、都心部の分譲マンションなどで、いわゆる“駐車場問題”が起きているとうかがいましたが、マンション管理業協会の方でもそうした実態をご存じでしょうか。

池田:はい。私どもの実感としては、10年ほど前から顕在化し始め、ここ数年、都市部の分譲マンションの課題として一般化している印象です。大規模マンションほど駐車区画も多いため、空き区画問題も深刻化しているようです。

マンションの居住者で組織される管理組合の大きな収入源の1つである駐車場使用料が、利用者の減少によって収入減となり、管理組合の会計を逼迫(ひっぱく)するというのが、分譲マンションにおける駐車場問題です。機械式の駐車設備は維持管理することが必要となりますが、メンテナンス費用が捻出できないなど、単に収入減になるだけでなく、設備の維持に汲々(きゅうきゅう)としているマンションが出てきているわけです。

——なぜ最近は駐車場の利用者が減少してきているのでしょうか。

池田:1つは、もともと所有していた方の高齢化が挙げられます。免許を返納してマイカーを売却したり、駅近の利便性のよいマンションに住み替えるなどによって、空き区画が出てくるわけです。もちろん同居するご子息が車を持つケースもありますが、最近はレンタカーやカーシェアリングで済ませ、必ずしもマイカーを所有しない方も目立つようになりました。それと、近年のミニバンブームで車高の高いマイカーを持つ方も増えており、古い機械式駐車場にはサイズ(高さ制限など)の問題から搭載できないという物理的な制約も出ていたりするようです。

——駐車場の維持管理コストというのは、結構かかるものなのでしょうか。

川田:平面式であれば保守の必要はほとんどなく、区画や番号などの再塗装くらいで済みますが、機械式となると毎月の保守やメンテナンスに相応のコストがかかります。とくにタワー型や地下循環式の駐車場は点検やメンテナンス箇所が多いのが難点です。点検だけでも1パレットあたり3000〜4000円程度かかり、年間にして4〜12回程度の点検は必要となります。駐車台数を勘案すると年間では相当額の出費になってしまうのです。破損や老朽化した部品が見つかれば、当然修繕費用もかかります。

——放置したままというわけにもいきませんね。となると、駐車場問題の改善策としては、一般的にどのような方法が取られるのでしょうか。

川田:大きくは、既存の設備を継続使用するケースと、更新時期に合わせてスリム化するなどの方法が考えられます。

居住者以外への貸出には納税義務が発生する

——既存の駐車施設を継続使用する場合、どのような対策が考えられますか。

川田:どの対策にもいえることですが、「出費を減らす」ことと「入金を増やす」こと、この2つについて考える必要があります。

既存の駐車場を当面使用し続けていくとなると、撤去費用は不要なものの、一定の維持管理費用が発生し続けます。この場合、メンテナンスの間隔を空けたり、保守契約をシンプルなサービスに変えたり、管理委託先をメーカー系から独立系の管理会社に替えたりするなどして、少しでも出費を抑える方法が考えられます。機械式駐車場には車検制度のようなものはありませんが、安全性維持のため最低限の保守は必要で、その内容を見直すというわけです。

一方、入金を増やすための方策として、マンションの居住者以外の方にも駐車場利用を認めることで、空き区画を減らす方法があります。ただし、マンションの居住者以外に貸出を行うと営利事業となるため、所得に応じた納税が必要になります。

また、マンション敷地内に居住者以外の方が出入りできるようにするとセキュリティ上あまり好ましくありません。ですが、背に腹は代えられないと外部に開放するマンションもあります。例えば、管理組合として、5台、10台を一括してサブリース会社に貸し出し、業者側で利用者を探してもらう形態を取るケースもあります。

——なるほど、現状の設備の中ででき得る対策を取って、バランスシートを改善していくというわけですね。

池田:はい。その間に修繕積立金を見直したり、駐車場更新や撤去のための費用を捻出したりするなど、次に備えての準備を行っていただくわけです。

機械式駐車場がある場合の修繕積立金の加算額目安

機械式駐車場の機種 修繕工事費の目安(1台当たり月額)
2段(ピット1段)昇降式 7,085円/台・月
3段(ピット2段)昇降式 6,040円/台・月
3段(ピット1段)昇降横行式 8,540円/台・月
2段(ピット2段)昇降横行式 14,165円/台・月

出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」

駐車場問題の解決方法はマンションによって異なる

——分譲マンションの“駐車場問題”の抜本的な対策は、やはり設備更新のタイミングで小型化や撤去などによってスリム化することなのでしょうか。

川田:はい。機械式駐車場の場合、一般的に20年程度で更新する必要があります。この更新時期に合わせて、駐車規模を縮小したり、別の駐車方式に替えるなど、マンションの実情に合ったスリム化を図ることが大切になります。

平置きでも十分足りるのであれば、既存の機械式駐車設備を撤去して舗装し直し、白線を引くなどして再区画します。一番シンプルな更新方法です。ただ平置きでは足りない場合、機械式駐車場の規模を見直し、導入コスト・維持管理コスト共に負担の少ない設備に更新します。

その際、単に台数の確保だけでなく、サイズなどの見直しも必要です。例えば、これまでセダンしか入らない3層式の立体駐車場を2層式にすることで、ミニバンなど車高のあるクルマでも利用可能にすれば、利用率も高まるでしょうし、将来の空きリスクも減らすことができます。

——マンションには行政の「附置義務」があり、一定数の駐車場を確保しなくてはなりません。勝手に台数を減らせないケースもあると聞いています。その場合の対処法はありますか。

池田:役所に実情を伝え、相談・陳情することで、確保する駐車台数の減少が認められる場合があります。その際、管理会社任せにせず、理事長や組合員も同席するなど“市民の困りごと”として相談することが、行政を動かす一因になったりするようです。附置義務が現在の実情にそぐわないことを示せれば、台数緩和の余地はあると思います。

住人間のコミュニティ醸成の機会に

——それにしても駐車場問題は根が深く、問題解決のためには多大なエネルギーがかかりそうです。管理会社任せでなく、管理組合やすべての住人の協力なしにはまとまらないと感じましたがいかがでしょうか。

池田:そもそも駐車場の更新は「共用部分の変更」となるため、重要事項決議として管理組合総会で戸数・議決権数それぞれの3/4以上の賛成による成立が必要になります。ハードルが相当高いので、居住者間の合意形成が何よりも重要になってきます。

駐車場は分譲マンションの所有物となる設備のため、通常は維持管理費用を利用者だけで負担するのでなく、全所有者で按分(あんぶん)しています。利用しない方の資産でもありますから、まずはアンケートを通じて、全戸の使用意向や要望を確認することが重要です。他にも、撤去/更新/そのまま使用する場合の中長期的な費用負担を比べられるように図表化したり、複数の更新プランを示したり、相見積もりを取って費用の妥当性を明確にしたりするなど、透明性を高める取り組みがポイントになります。

——管理組合と委託管理業者とのパートナーシップはどのように築いていくのでしょうか。

川田:今やマンション管理会社は、清掃などの日常管理だけでなく、こうした問題解決のためのコンサルティング力が必要になってきています。同様に、居住者の皆さまも管理費を払って業者任せにするのでなく、自主性を持つことがマンションの居住快適性を高めるためにつながるかと考えています。

駐車場問題に限らず、マンションの管理運営は多大なエネルギーが必要です。一方では、こうした問題をきっかけに、居住者間で交流を深めるために、管理組合がマンション内での防災訓練や清掃活動などを企画することでコミュニティ形成を図るケースも見られるようになりました。マンションで持ち上がる課題の多くは、居住者、管理組合、管理会社の3者で解決していくものですので、最終的にマンション内のコミュニティを少しでも豊かなものにしていただければと思います。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築&不動産ライター。主に住宅を舞台に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマとしている。近年は空き家活用や地域コミュニティにも領域を広げている。『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2022年7月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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