老朽戸建ての家じまい、みなどうしているの?

空き家関連トピックス vol.2

この記事の概要

  • 高度経済成長期の1970〜80年代に建築された大量の戸建て住宅は現在築40〜50年以上と老朽化し、所有者も高齢化しています。これらのストックは現在の建物に比べて性能が低いこともあって、適切に相続されなかったり、使用も適切な管理もなされず地域の景観や安全性を脅かす存在になったりします。こうした家屋を所有したり、近く相続予定の方はどうすればよいのでしょうか。当面使い途のない老朽ストックの“家じまい”の方法について考えてみましょう。

老朽戸建ての家じまい、みなどうしているの?

利活用予定のない空き家の多くは老朽戸建て住宅

日本の住宅と、そこに住まう世帯の居住状況について、総務省が5年ごとに実施する「住宅・土地統計調査」の令和5年調査結果(確報値)が2024年9月に公表されました。それによると現在の空き家数は900万2千戸と過去最多を更新、総住宅数のうちの空き家の占める割合である「空き家率」も13.8%と過去最高となりました。実に約7.25戸に1戸が空き家という状況です。1993年から今回調査の2023年までの30年間で、空き家数は約2倍にも達しています。

[図1]空き家数と空き家率の推移

[図1]空き家数と空き家率の推移

出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」

ただ、空き家といってもさまざまな種類・状態の空き家があり、総務省では空き家を以下の4種類で整理しています。

[表1]総務省が規定する空き家の種類

種類 概要
①賃貸用の空き家 新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅
②売却用の空き家 新築・中古を問わず、売却のために空き家になっている住宅
③二次的住宅 別荘 週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用される住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅
その他 ふだん住んでいる住宅とは別に、残業で遅くなったときに寝泊まりするなど、たまに寝泊まりしている人がいる住宅
④賃貸・売却用及び
二次的住宅を除く
空き家
賃貸用の空き家、売却用の空き家及び二次的住宅以外の人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など
(*空き家の種類の判断が困難な住宅を含む)

出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査『用語の解説』」を基に作成

①の「賃貸用の空き家」は、未入居ながら次の賃借人を待つ状況にある空き家、②の「売却用の空き家」は、現在の住まいを売却するための空き家で、いずれも次の借主や所有者を待っている状況です。①②ともに、住み替えのために一定数は必要な空き家であり、近い将来の利活用を前提にしている建物といえます。③の「二次的住宅」は、週末などに利用する別荘や、仕事で一時的に寝泊まりするセカンドハウスなど、毎日ではないものの一定の日数について使用されている住宅で、通常は空き家状態であるものの、実質的に利活用されている住宅といえます。

問題は④の「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」で、長期にわたって不在にしている住宅や、取り壊し予定の住宅など、①〜③に該当しない空き家が当てはまります。今回調査でこの「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は385万6千戸、全空き家の4割以上を占めるまでに至っています。

[図2]種類別の空き家数(2023年)

[図2]種類別の空き家数(2023年)

出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」

また、建物の工法で比較すると、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」は圧倒的に戸建て住宅が占めていることが分かります。

[図3]種類別の空き家比率(2023年・建て方別)

[図3]種類別の空き家比率(2023年・建て方別)

出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」

こうした空き家が、自己居住や賃貸などで利活用がなされず長年放置されていくと、建物の劣化や敷地の荒廃などによって資産価値が下がるだけでなく、事故や犯罪の発生原因になる、まちの景観に影響をきたすなど、地域に悪影響を与えてしまいます。

そのような悪影響に加え「人口の2025年問題」もあります。これは日本の人口構成をリードしてきた団塊の世代(1947~1949年生まれ)が2025年にすべて75歳以上の後期高齢者になり、日本の高齢化率が高まるという懸念です。そしてそう遠くない将来、団塊世代の死去によって大量の持ち家の相続が発生しますが、人口減少や住宅の都心集約化などもあって次の世代が建物を使用せず、空き家がますます増加していくことが確実視されています。

維持管理、税金…使わない空き家は重荷になるばかり…

こうした空き家について、何らかの形で使用されていけば問題ありません。利活用の方法としては、新たな所有者が自己居住する、賃貸住宅として貸し出す、住宅を集会所やオフィス、宿泊施設などに転用するなどのほか、売却するなどの方法が考えられます。

何らかの形で利活用できれば問題ないのですが、一番の問題は、当面利活用の当てのない空き家でしょう。実際に居住していなくても維持管理の手間はかかりますし、放置するとあっという間に建物が傷み、敷地も建物も荒れてしまいます。利活用していなくても固定資産税や都市計画税などのコストがかさんでしまい、所有者にとってお荷物の“負動産”となってしまいます。こうした管理を嫌ってか、近年「放置空き家」の増加が社会問題化しています。

急増する放置空き家対策として、国は「空家等対策の推進に関する特別措置法(いわゆる“空き家法”)」を2023年に改正し、不適切な空き家について地方自治体が「管理不完全空き家」「特定空家」として認定できるようにしました。

[表2]空き家対策特別措置法で規定される空き家の種別

種別 対象となる空き家の状態 行政の権限
管理不全空家 管理が不十分で、そのままにしておくと「特定空家」になる恐れのある空き家 ・指導・勧告措置を行える
・勧告措置による固定資産税の住宅用地特例の解除
特定空家 倒壊などの危険性が高い、衛生上の問題が大きいなど、周辺の生活環境に悪影響を及ぼす空き家 ・助言・指導・勧告・命令措置を行える
・倒壊の危険性などがあるため、行政が除却等の代執行が可能
・勧告措置による固定資産税の住宅用地特例の解除

出典:国土交通省公表資料を抜粋

[図4]放置空き家に対する行政の対応と手続き

[図4]放置空き家に対する行政の対応と手続き

出典:政府広報オンライン

「管理不完全空き家」「特定空家」に認定される最大のデメリットとしては、固定資産税の減額措置が受けられなくなってしまう可能性があることでしょう。住宅用の土地は、建物が建っていることで土地の固定資産税が課税標準の最大6分の1に減額されていますが、これらの認定によって特例から外れてしまい、固定資産税や都市計画税が一気にアップしてしまいます。

[表3]住宅用地における固定資産税・都市計画税の軽減措置

税の種類 小規模住宅用地
(200㎡以下)
一般住宅用地
(200㎡超)
固定資産税 課税標準の6分の1に減額 課税標準の3分の1に減額
都市計画税 課税標準の3分の1に減額 課税標準の3分の2に減額

出典:総務省「地方税」資料を基に作成

また、元所有者の死去後に適切な相続登記が行われず、所有者不明の土地も急増していることから、国は2024年4月より相続登記の申請を義務化しました。親の実家を相続した場合、これまで相続登記は義務ではありませんでしたが、今後は正当事由なく登記しなかった場合、10万円以下の過料が命じられることになります。

このように、今や実家の空き家の放置は難しいものになっています。親の資産だからといって知らんぷり、逃げ得はできないということです。

利活用できなければ手放すことも検討しよう

このように、当面使う予定のない空き家は、維持管理の手間や税金などさまざまな種類の負担を余儀なくされます。“負動産”化を免れる方法としては、売却も含めた利活用=不動産流通市場に載るストックとして活用することに尽きます。

[表4]相続した住宅の主な利活用方法

利活用の方法 考え方 メリット例
所有 住む ・所有者自身が住まう
・別荘や帰省用に使用
・現在の住まいと合わせて二地域居住として使用
・引き続き不動産資産として保有
・暮らしの質の向上に寄与
貸す ・賃貸住宅として第三者に貸し出す
・住宅以外の用途に転用しての賃貸化も(場合によっては建物を更地にして駐車場にするなども考えられる)
・地域の空き家活用サービスを利用する
・賃料として資産化が図れる
売却 ・空き家を売却し、所有することを止める ・維持管理の手間が省ける
・不動産を売却代金として換金できる

とはいえ、こうした空き家が地方部であったり、需要の少ない地域では、相続人がそのまま所有しての利活用が難しいケースもあると思います。その場合、現実的な落とし所として「売却」の検討も必要になっていくことでしょう。

[表5]相続した住宅(土地・建物)を売却するメリット例

・使用しない土地や住宅の維持管理の手間や負担がなくなる
・不動産売却による換金が期待できる
・一定の要件を満たせば「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」が活用できる
・固定資産税や都市計画税の支払いが不要になる

こうした事情を抱えた皆さまがどのような対応を取っているかの一例として、LIFULL
(ライフル)とオープンハウスが共同で実施、2024年9月に公表した「家じまいに関する意識調査」の結果を一部ご紹介させていただきます。これは親の実家など、空き家をそのまま維持し続けるのでなく、売却という具体的なアクションに進んだ方の意識調査であり、現在空き家を持て余している方にとって非常に参考になるように思います。

(以下、「2025年『大相続時代』に備え、オープンハウスとLIFULL HOME‘Sが『家じまい』に関する共同調査を実施」から調査結果の引用になります。)

[図5]売却を検討し始めたきっかけ

[図5]売却を検討し始めたきっかけ

まず、売却を検討し始めたきっかけですが、「使う見込みがなく、家の維持・修繕が大変になった」が第1位となっています。ほかに、家族や親族の高齢化や死別、施設入居などによってご家族のライフステージが変化したことが大きなタイミングのようです。

売却の動機として、「高く売却できそう」といったポジティブな理由が少ないのも、空き家の家じまいの特徴でしょうか。実際、「売却の際に苦労したこと、後悔したこと」を確認すると、価格面での不満が散見され、手間の割に資産として手元に残らないものと多くの方が感じているようです。

[図6]売却した際に苦労したことや後悔したこと

[図6]売却した際に苦労したことや後悔したこと

[図7]売却を検討する中で心配や不安なこと

[図7]売却を検討する中で心配や不安なこと

売却検討者も、「希望の値段で売れるか」という価格面を不安視していますが、賃貸など利活用しづらい土地や建物は、そもそも売却も難しいことを念頭に置いておきましょう。むしろ売却価格の高低でなく、空き家を保有し続けることで抱え続ける手間やコスト、心理的な煩わしさから解放されるメリットを重要視し、売却をポジティブに捉えた方がよいように思います。

ただ、「もう少し時間をかけたらもっと高く売れたかも…」などと、金銭的な不満は後々まで残りがちです。売却の方法も「現状のままで売却」「更地にして売却」「リフォームなど手間をかけた後に売却」など、さまざまな方法があります。売却後、最終的に「これでよかった…」という納得感を獲得することが何よりも大切ではないでしょうか。ほとんどの方が空き家の売却に関する知識や手間については未知でしょうから、信用・信頼の置ける不動産業者を選ぶことが大切になっていくかと思います。

[図8]経験者の売却方法

[図8]経験者の売却方法

空き家バンクのある自治体も増えており、決して個人売買ができないわけではありませんが、最終的な契約や登記段階で不動産会社の助けが必要になっていきます。何よりエリア内の不動産相場など、多くの方が気にかける「価格」に対する情報をよく知っており、地域の実情に応じた適切なアドバイスが受けられるメリットは大きいといえます。

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執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年11月26日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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