新築マンションより割安な中古マンション供給量が増え、選択肢も広がるNew

アナリストが分析、マンション市場の展望(2023年前期)

この記事の概要

  • 新型コロナウイルスの収束の気配が見え始めた2022年度下半期。この時期のマンション市況を振り返り、2023年度上半期の見通しを一般財団法人日本不動産研究所の研究部主任研究員、曹雲珍(そう うんちん)さんに聞きました。

価格上昇は継続も各自のライフスタイルの変化を機に買い時を決める

2022年下半期から2023年春のトピック

コロナ禍も3年目となった2022年度下半期ですが、新築マンションや中古マンション市場にはどのような傾向がみられましたか。

曹:首都圏のマンション市場は前年同時期と同様、堅調に推移しました。中古マンションについての成約件数でご説明しましょう。公益財団法人東日本不動産流通機構によると、2022年10~3月の成約件数は計1万7,967件です。ここ数年と比較すると、最高水準を示した2021年10~3月の計1万9,048件に及ばないものの高水準の結果となりました。

■2021年10月~2022年3月の首都圏における中古マンションの成約件数

2021年10月~2022年3月の首都圏における中古マンションの成約件数

出典:公益財団法人 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)

■2022年10月~2023年3月の首都圏における中古マンションの成約件数

2022年10月~2023年3月の首都圏における中古マンションの成約件数

出典:公益財団法人 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)

共働き世帯の増加を背景に、マンション市場は新築も中古も交通や生活利便性を一層重視する傾向が続いていましたが、コロナ禍におけるテレワークの定着で在宅時間が長くなり、近年は自然環境や住宅の広さといった暮らしやすさを求める傾向が強まっていました。

ところが、2022年後半のコロナ収束に伴うテレワーク実施率の縮小傾向から、利便性を重視する層が再び増えてきたと推測されます。東京都の人口動態をみると、2018年に11万9,092人増加、2019年に10万9,765人増加、2020年に2万1,808人増加しましたが、コロナ禍の2021年には4万1,209人減少となりました。ただ、2022年には4万4,126人再び増加傾向に転じたことでも、交通・生活利便性を重視する層が確実に増えていることが読み取れます。

中古マンションがニーズの主流に

コロナ禍でもマンション市場は活況を呈していたということですね。新築マンションと中古マンションとでは、どちらが主流だったのでしょうか。

曹:首都圏のマンション市場において新築マンション価格の高止まり傾向が続くなか、中古マンションは新築マンションに代わる受け皿となっています。近年は中古マンションの成約戸数が新築を超え、その後も中古の成約戸数が新築を上回る状況が続いています。

今後も中古マンションの成約戸数が新築を上回る可能性が予想されます。その理由として、新築分譲マンション価格の高止まり、中古マンション供給量の増加、購入希望者の意識変化という3つが挙げられます。順に説明しましょう。

①新築分譲マンション価格の高止まり

首都圏新築分譲マンションの平均販売価格は上昇しており、一方、発売戸数は以前と比べて大幅に減少している。

②中古マンション供給量の増加

中古マンションの供給量は新築に比べて圧倒的に多い。新築と比べた割安感も中古マンション成約戸数が増加する大きな要因と考えられる。

③購入希望者の意識変化

政府は中古住宅流通・リフォーム市場の拡大・活性化のための特例措置の創設・拡充について積極的に取り込んでいる。中古住宅の仲介を手掛ける住宅販売会社も、購入後の保証などのサービスを充実させている。金融機関もリフォームと住宅購入資金をまとめて融資することで、従来に比べて安い金利で貸し出しができるようになった。このような官民の取り組みによって一般消費者の意識が変化し、中古住宅を活性化して暮らす考え方が浸透した。中古住宅のリノベーションやDIYも1つの文化として定着しつつある。

マンション価格は新築・中古ともに前年同期より上昇

社会全体がポストコロナに移行する中、今後のマンション市場はどうなるとお考えですか。

曹:2022年3月のまん延防止等重点措置解除後、企業のテレワーク実施率が縮小する一方、従来の通勤や生活の利便性への需要が再び高まってきていることが2022年下半期の特徴とお話ししました。このような状況下、ニューノーマル時代に向けた生活スタイルの変化に伴い、住宅ニーズも多様化しています。

マンション価格は、新築および中古ともに、上昇していくことが予想されます。下記表は中古マンションの価格動向ですが、上昇傾向が伺えます。

■不動研住宅価格指数(2023年2月値最新データ)

(単位:ポイント 2000年1月=100、前年比、前月比:%)

■不動研住宅価格指数(2023年2月値最新データ)

※当月指数値の計算に伴い、前月公表値と差異が生じている指数を表す。公表値の表示桁数と計算上の有効桁数は異なる

※記事執筆時点における直近の公表日は2023年4月25日

上昇を受けての1つのトピックスですが、賃貸住宅を選択する層が増えていることが明らかになってきています。

日本不動産研究所が2023年3月に公表した「住宅マーケットインデックス」に基づいて作成した指数によると、「80㎡以上」の賃料上昇幅が最も大きくなっています。つまり、ファミリータイプの賃貸マンションの需要が高くなっているのです。これは、住宅価格の高騰により、一部の購入検討者が賃貸住宅を選択した結果だと推測されます。

■住宅マーケットインデックスにおける賃料指数の推移(2018上半期=100)

■住宅マーケットインデックスにおける賃料指数の推移(2018上半期=100)

出典:一般財団法人日本不動産研究所「住宅マーケットインデックス」

そのような状況下で、今後のマンション選びはどのような点に注意すればいいでしょうか。

曹:「価格が上昇するから購入する」のではなく、各自のライフスタイルの変化を機に買い時を決めていただきたいと思います。

また、居住エリアを決める際には、共働きであれば、子育てのサポートを期待して夫や妻の実家との距離を考慮するのも1つの考え方です。購入後のライフスタイルをイメージして住まい選びを考えていただきたいと思います。

取材協力

曹 雲珍(そう・うんちん)

一般財団法人日本不動産研究所研究部主任研究員。2009年財団法人日本不動産研究所(2011年一般財団法人に移行)入所。不動研住宅価格指数、住宅マーケットインデックス、全国賃料統計など、定期調査業務や中国内陸、香港、韓国などアジア地域不動産国際交流会議と共同研究業務に従事。博士(不動産学)

記事制作

日経BPコンサルティング

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討いただく際の考え方の一例です。

※ 2023年5月30日時点の情報に基づき作成しています。情報更新により内容が変更となる場合があります。