地価公示から探る、これからの住宅価格の動きNew

不動産エコノミストが解説 2023年地価公示

この記事の概要

  • 2023年3月23日、国土交通省は「令和5年地価公示」を公表しました。地価公示は、全国の都市計画区域等における標準地を選定し、毎年1月1日時点の1㎡当たりの正常な価格を判定、公示するものです。実際の土地売買における「実勢価格」とは相違がありますが、一般の土地の取引価格の指標にもなる重要な数値です。今年の地価公示の変動率の動きから、住宅に関する動向を中心に整理してみました。

地価公示から探る、これからの住宅価格の動き

一律ではないが、コロナ禍からの回復傾向はより鮮明に

今年の地価公示は、三大都市圏、地方圏とも、全用途平均・住宅地・商業地のいずれにおいても2年連続で上昇し、その率も拡大しました。国交省は「地域や用途などにより差があるものの、コロナ前への回復傾向が顕著」と発表しています。確かに、2021年はコロナ禍の影響で全国の多くが下落しましたが、2022年にはすぐに反転し、2023年も全エリアで2022年以上の上昇率を見せています。

(表)令和5年地価公示 圏域別対前年平均変動率(単位:%)

(表)令和5年地価公示 圏域別対前年平均変動率(単位:%)

出典:国土交通省「令和5年地価公示」

日本不動産研究所の上席主幹を務める櫻田直樹さんは、用途や地域によって回復の仕方に濃淡があることに留意すべきと指摘します。

「2021年はコロナ禍によって住宅地、商業地ともに全国的な地価下落を記録しましたが、そこから2022年、2023年と回復基調に向かっていることは確かです。コロナ禍以前の状況にまで回復しているかどうかを客観的に確認するためには、2020年と2023年の対前年地価変動率(以下、変動率)を比較し、2020年の変動率にまで回復しているのかという検証が有効です」(櫻田さん)

下表は2020年~2023年の地価公示の都道府県別平均変動率の推移を示したものです。櫻田さんの指摘に沿って、2020年/2021年の変動率と比較し、2023年度の変動率変動率が大きい(0.4%以上)都道府県について色付けしました。確かに、地域や用途によって回復ぶりにかなりの相違があることが見て取れます。

(表)令和2~5年の地価公示による都道府県別対前年平均変動率の比較(単位:%)

(表)令和2年~令和5年の地価公示のよる都道府県別対前年平均変動率の比較(単位:%)

色付きの欄は比較年から大きく上昇した都道府県(+0.4%以上を色付け)

出典:国土交通省「令和5年地価公示」

住宅地における推移について櫻田さんは、「北陸や四国など、現時点でコロナ前の変動率にまで戻っていない都県もありますが、2020年との差異は少なく、住宅地の地価動向は2020年頃の長期的な上昇などの回復過程の軌道に回帰しているのではないか」と見ています。商業地については、「2020年と2023年との比較において変動率が概ね戻った都道府県は少なく、コロナ禍前の軌道に回帰したとは言いがたい状況」と指摘します。その理由として、コロナ禍などの社会経済状況の影響が住宅地以上に大きく作用していることを挙げました。

「コロナ禍の落ち着きや経済振興策の効果とともに、今後は特別な行動制限が当面予測されないことから、経済活動や消費行動のマイナス面が急速に弱まるはずです。住宅地よりも少し遅れてのことになるでしょうが、商業地の地価動向は、回復過程を引き続き緩やかに進んでいくものと考えられます」(櫻田さん)

都市部と郊外部が伸張、地方移住の動きは限定的なものか

住宅地における地域差や傾向について、もう少し掘り下げてみましょう。下図は、今年の地価公示の変動率を色別で示したものです。暖色が変動率の上昇したエリア、寒色が下落または横ばいのエリアです。

(図)令和5年地価公示都道府県別変動率

(図)令和5年地価公示都道府県別変動率

出典:国土交通省「令和5年地価公示」

上昇、下落エリアとも全国に点在していることがうかがえますが、櫻田さんは東京圏、大阪圏、名古屋圏の三大都市圏の上昇傾向に加えて、地方四市の安定した上昇傾向が目立つなど、地方都市でも拠点性の強い都市の地価動向が安定していると指摘します。特に市街地再開発事業などの拠点開発やインフラ整備が進む地域などでは、地価の上昇傾向が見られるとのことです。

地方四市 2020年 2021年 2022年 2023年
札幌市 7.1% 4.3% 9.3% 15.0%
仙台市 5.7% 2.0% 4.4% 5.9%
広島市 3.1% 0.4% 1.4% 1.7%
福岡市 6.8% 3.3% 6.1% 8.0%

出典:国土交通省「令和5年地価公示」

加えて、そうした傾向が大都市圏中心部の周辺や地方四市の隣接都市などにまで拡大しているといいます。

「地方四市は地方圏であっても一定の経済力や教育水準を有し、居住環境も良好なエリアを備えているなど、人口流入の要素を持ち合わせており、前出のとおり安定した地価の上昇傾向が見られます。中心部はオフィスエリアに隣接して、タワーマンションなど高度な住機能を有した住宅地としての開発が進展しています。そうした動きと呼応するように、都心へのアクセスのよい郊外部においても地価が上昇するエリアが確認されます。例えば、札幌市の変動率は15.0%と大きく、江別市や北広島市、恵庭市など周辺都市の上昇傾向も目立ちます。スポーツ施設の開発効果も加わって、令和5年地価公示における住宅地の全国の上昇率ベスト10を独占しました」(櫻田さん)

ところで、コロナ禍によるリモートワークの普及やワークライフバランスなどへの対応から、それまで通勤利便性を重視していたビジネスマンなどが、郊外や地方に移住するケースを多く聞きます。こうしたトレンドから、地方圏でも地価上昇の動きが期待されましたが、近年の地価公示を見る限りそこまでの影響は見られません。櫻田さんは、ご自身の感覚的な面も含めての意見として、大都市圏から地方圏への移住の動きは限定的ではないかと考えています。

「確かに2020年以降、東京都への転入者数の減少と転出者の増加ペースが加速し、転出超過に転じたことがニュースとなりました。しかし、転出超過は東京都だけの動向であって、東京圏全体で見ると、2020年から2022年というコロナ禍の間でも8万人を超える転入超過となっていました。東京都が転出超過となっている時期でも、東京圏全体で見れば相変わらず安定的な転入超過の状況が続いていたわけです」(櫻田さん)

(図)地価公示市区町村別【東京圏・住宅地】変動率

(図)地価公示市区町村別【東京圏・住宅地】変動率

出典:国土交通省「令和2年地価公示」「令和3年地価公示」

「2020年の地価公示では、23区も含めた東京都中心部の上昇率は極めて高い(暖色)ものでしたが、コロナ禍の影響を受けた2021年は下落に転じ(寒色)、こうした動きが東京都中心部からの人口流出の傍証とされたりもしました。一方で、浦安、市川、松戸、川口、蕨、戸田、川崎、横浜市の一部など、都心を取り囲むように地価上昇が続いていることが分かります。多少の人口移動があったにせよ、同じ大都市圏内にとどまったということが重要だと思います」(櫻田さん)

都市と地方の交流・移住・定住を支える移住相談センターを運営する「NPO 法人ふるさと回帰支援センター」の調べ(2021年7〜8月)によると、首都圏の地方移住希望者は309万人との推計もありますが、こうした首都圏の動向を考えると、大都市圏での地方移住のうねりというものはそれほど大きなボリュームになっておらず、少なくとも地価公示の上昇率を強めるほどではないようです。

築浅、高性能の中古マンションの引き合いが強くなっていく!?

こうした地価公示のトレンドを受け、分譲マンションなど持ち家の価格は今後どのような動きを見せていくのでしょう。櫻田さんは、ざっくりとした見方と断りつつも、「住宅価格は当面下落に向かう要素が確認できず、大都市圏を中心に上昇傾向が続いていくのでは」と捉えています。ただ、「現在の地価がかなり高水準に達しているエリアもあり、今後上昇幅が小幅になっていくケースも考えられます。住宅取得層の方々の『取得能力の限界(住宅にこれ以上コストをかけられないという上限)』という要素からも、上昇幅の縮小につながる可能性があります」と、大都市圏を中心に、一部加熱している地価上昇の上げ幅が落ち着いていく可能性も示唆しています。

建物については、高騰している原材料費や人件費などについて下落要素が見つからず、建物価格が低下するという予測は難しいというのが櫻田さんの見立てです。「土地・建物一体で考えても、新築住宅については当面、現在の上昇基調は続くものと考えられます」(櫻田さん)。そうなると、今後は既存(中古)住宅にも注目が集まり、価格が上昇していく可能性が出てきそうです。

「新築住宅同様、耐用年数が相対的に長い中古マンションの取引価格も当面上昇基調が続くと思われます。それまで新築を検討していた方が、中古マンションの取得に切り替え、耐用年数などの建物の品質、維持管理の状況などを考慮して、良質な築浅物件を取得することが考えられるため、中古マンションの価格動向は注視しておいた方がよいのではないでしょうか」(櫻田さん)

解説

櫻田直樹氏プロフィール

一般財団法人日本不動産研究所研究部上席主幹。1992年財団法人日本不動産研究所(2011年一般財団法人に移行)に入所、2013年財務省理財局に出向、2015年より現職。国や地方公共団体等の調査研究業務、民間企業の都市開発事業等に関するコンサルティング業務に従事。不動産鑑定士、技術士(建設部門 都市および地方計画)、一級建築士。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討いただく際の考え方の一例です。

※ 2023年4月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。