50代の売却。~親から相続した不動産を売却するまでのステップ~第七話「生前から備えられるかがポイント。家族信託の活用編」

漫画で見る不動産購入・売却のポイントvol.71

この記事の概要

  •  2007年に改正した信託法。信託銀行などだけでなく、家族にも信託できる「家族信託」ができるようになった。
  •  家族信託は、家族で話し合って納得することが大切。
  •  信託契約書は証明力や執行力がある公正証書を作成し、公証役場で保管してもらう。
  •  親が元気なうちに信託契約を結んでおくと、認知症になって判断ができなくなっても安心。
  •  家族信託は、後見制度よりも柔軟に財産管理が実現できる。

50代の売却。~親から相続した不動産を売却するまでのステップ~第七話「生前から備えられるかがポイント。家族信託の活用編」50代の売却。~親から相続した不動産を売却するまでのステップ~第七話「生前から備えられるかがポイント。家族信託の活用編」

【Gさん】
Gさんの父親は30年前に他界。母親は20年前まで都内の中心部にある一戸建てで暮らしていましたが、整備計画により売却。そこで得た現金で、都内に区分所有マンションを三戸(一戸は自宅、二戸は賃貸)購入し、所有していました。そのような中、母親が室内で転倒し骨折。入院生活で次第に体力が低下し、他界してしまいます。遺言書はなく、慌てる2人兄弟のGさんとGさんのお兄さん。遺言書があればな・・・、不動産の組み換えをすすめておけばよかったな・・・など後悔しながら、売却へ向けて動き出しているところです。

2007年より、財産管理が家族にも信託できるように

信託とは、大切な財産を信頼できる人に託し、管理や処分をしてもらう制度のことです。
1922年に個人の財産管理等を考えて「信託法」が制定されましたが、以来80年以上改定されていませんでした。大正時代に作られたこの法律は、現代社会においては実態にそぐわない部分もあったため、2007年に改正。信託銀行などだけでなく、家族にも信託できる「家族信託」ができるようになりました。これにより、家族による認知症対策や相続対策がしやすくなりました。
今回は財産管理等のひとつの方法である、家族信託の仕組みや特徴について解説していきます。

家族信託は、話し合いからスタート

家族信託は、

  • ①委託者:財産を所有している人
  • ②受託者:信託財産を管理・処分できる人
  • ③受益者;信託財産で利益を得られる人

で構成されます。
本シリーズのテーマで考えてみると、いずれは親が子に財産を引き継ぐのであれば、①がお母さんで、②がお兄さんかGさんになります。③はお母さんでも構いませんし、それ以外の家族でも可能です。
委託者である親は受託者の子と信託契約を結ぶことになりますが、最初にしておきたいのは、だれが受託者・受益者になるのか、契約内容はどうするのか、どの範囲までを信託財産とするのか、死亡後にどのように財産を分けるのかなどを家族内で話し合うこと。100%当初の望みがかなわない人も出てくるかもしれませんが、最終的に全員が納得することが重要です。話し合いは面倒に感じることもありますが、ここをいい加減にしてしまうとトラブルに発展してしまうこともあるので注意しましょう。

信託契約書は公正証書に

話し合いでいろいろなことを決めたら、信託契約書を作成します。ただし、家族間で作成し、内容を確認したら終わりではありません。より確実なものとするためには公正証書として残し、公証役場で保管するようにします。公正証書とは法務大臣に任命された公証人が作成する公文書で、証明力や執行力があるのが特徴です。記載されている内容は裁判で判決が出たものと同等の効力があるため、誰かが勝手に内容を書き換えたり、異論を唱えたりはできないことになっています。公正証書の作成は、最寄りの公証役場に常駐している公証人に相談しながら進めていきます。さらに、信託財産は名義変更が必要です。名義変更後は、不動産であれば信託する不動産登記情報(甲区)へ形式的に受託者の氏名が記載されます。

受益者が委託者と同一人物であれば、自宅にはそのまま住み続けられる

受益者が委託者と同一人物の場合、自宅や賃貸物件などの不動産を信託財産として契約を結んでも、自宅に住み続けることは可能です。また、賃貸物件を貸し出している場合の家賃収入、処分した場合の売却益を受け取るのも受益者になります。
信託契約は親が元気なうちに結んでおくことがポイント。こうしておくことで、もし親が認知症になって自己判断ができなくなっても、受託者が不動産を管理したり、処分したりすることが可能となります。贈与税や不動産所得税はこの時点では発生しません。(あくまでも、委託者〈お母さん〉=受益者〈お母さん〉の自益信託の場合です。)

「家族信託」の主な特徴

家族信託は、後見制度によりも柔軟に財産管理が実現できるというのも特徴。受託者によって、資産を積極的に活用したさまざまな対策が可能です。子などへの1次相続だけでなく、委託者が希望し家族が納得すれば、直系親族である孫を2次相続先として指定できます。また、近年問題になっている、争族問題にあらかじめ対応しておけるのも家族信託のメリット。受託者に財産管理や処分をする権限があるので、相続人全員の総意がないと話が進まない・・・ということが発生しません。

家族信託についてお伝えしてきましたが、手続きは専門知識が必要なシーンもあります。費用はかかりますが、専門家に手続きを依頼すると安心でしょう。

執筆

橋本 岳子 (はしもと・たかこ)

20年勤めた不動産情報サービスの会社での経験を活かし、住まい探しが初めての方にも分かりやすい、生活者の目線に立った記事の執筆活動を手がける。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2020年11月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。