住宅ローンを考慮し子育て資金をシミュレーション
~いつごろ危ないのかが一目瞭然に~

子育てを考えた住まいの購入ポイントvol.1

この記事の概要

  •  住宅取得の動機として、非常に多いのが「子どものため」です。子育ての舞台として、それにふさわしい住宅を購入しようと考える方は少なくありません。しかし、一方で、子育てにはお金がかかるのも事実。住宅購入の結果、子育て資金に影響が出るのも問題です。そうならないためには、どのような点に注意すればいいのか、教育資金に詳しい、ファイナンシャルプランナー(CFP)の竹下さくらさんに伺いました。

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子育てと住宅購入は不可分、両方を考える必要がある

–住まいを購入する動機として「子どものため」とおっしゃる方が少なくありません。

竹下:子育てしやすい広さや周辺環境が住まい選びの重要な要素になっているだけでなく、立地を選ぶ際に、将来の子どもの進学まで想定する方も珍しくありません。子育てと住宅購入は不可分になっています。ただ、両方ともお金がかかることですから、収入を考えてバランスをとる必要があります。

人生に必要な多額の資金は3つあります。住宅資金、子育て資金、老後資金です。もちろん老後資金も若いうちから考えておく必要がありますが、まずは住宅資金と子育て資金の両立を考えなくてはなりません。

–そのために必要なことはなんでしょうか。

竹下:住宅購入の際、返済可能かどうか住宅ローンのシミュレーションをしない方はいないと思います。一方、子どもの教育にかかる費用をシミュレーションする方はけっして多くありません。それはどのくらいかかるか分からないと考えてしまうからのようです。そこで私は、一般的な目安から、両方合わせたシミュレーションをしてみることをお勧めしています。実際、私も相談者からの依頼を受けて、収入と支出の見通しを定年くらいまで想定したシミュレーション表を作成しています(表1)。

表1 シミュレーション表(白紙)

家族の年齢 年間収入 年間支出 可処分所得と年間支出の差額
第1子 第2子 夫(額面) 妻(額面) うち可処分所得 生活費 教育費(第1子) 教育費(第2子)
  (うち家賃・住宅ローン)
                       
                       
                       
                       
                       
                       

これを作れば、どのタイミングでどのくらい費用がかかるのか、家計がどの程度余裕があるのかなどがあらかじめイメージできるので、対策を立てやすくなります。

文部科学省の調査データを活用する

–シミュレーション表は誰でも作れるものでしょうか。

竹下:詳細なものを作るには専門家の助けを借りるべきですが、概算は難しくありません。まずは収入ですが、額面でなく社会保険料や税金などを除いた可処分所得(給与取得者の場合、いわゆる手取り)で考えるのがポイントです。支出については現状の生活費をまず記入し、それを維持するという仮定でまずは作成してみましょう。精度を上げるなら、子どもの生活費の分、増えていくことを想定してください。節約のためには生活費の中をきちんと分類して考えるのもお勧めしたいのですが、まずは住宅費の比率がどの程度なのか分かる程度にしたほうが作成しやすいでしょう。

問題となる教育費ですが、これは、文部科学省の「子どもの学習費調査」などの平均値を入れていきます。同調査では幼稚園、小学校、中学校に支払う学費と給食費に加え、学習塾費などの「学校外活動費」も含めて全国平均額を出しています。それも公立と私立に分けてあるので、子どもの進路をどう考えているかで、シミュレーションをすることができます。同調査のデータを簡略化したデータを紹介しておきます(表2)。

表2 幼稚園から高校までの教育費の目安(1年間)

  公立 私立
幼稚園 24 49
小学校 33 153
中学校 48 133
高校 45 104

(文部科学省「子どもの学習費調査」2016年度をもとに作成、単位:万円)

大学についての費用も文部科学省のデータから平均値を調べることができます。ただし、こちらは学費だけです。自宅外から通学する際の費用については別途、考える必要があります(表3)。

表3 大学の学費の目安

    1年目 2年目以降
国立大 82 54
公立大 94 54
私立大 文系 117 94
理系 154 129

文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」「私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」2017年度をもとに作成、1年目は授業料と入学料の合計、単位:万円)

子育てを考えた住まいの購入

公立を選んでも大変、私立はもっと大変

–実際にシミュレーションしてみるとどういう傾向が読み取れるのでしょうか。

竹下:夫が30歳、妻が27歳で第1子をもうけ、その3年後に第2子を出産したケースを想定し、30年間を試算してみました。専業主婦で保育園は利用せず、4歳から幼稚園に入れることにしています。30歳時の夫の給与は手取り500万円。第1子の誕生を機に住宅を探し始めて購入、年間120万円、住宅ローンを返済しています。ただし、そのタイミングで家計を少し引き締め、生活費全体は増やしていない堅実なご夫婦です。

シミュレーション(1)は、2人の子どもが両方とも、幼稚園から高校まですべて公立で、大学も国立文系という一番、費用が掛からないケースです(表4)。

表4 シミュレーション(1)すべて国公立に進学したパターン

家族の年齢 年間収入 年間支出 可処分所得と年間支出の差額
第1子 第2子 夫(額面) 妻(額面) うち可処分所得 生活費 教育費(第1子) 教育費(第2子)
  (うち家賃・住宅ローン)
30 27     500   390 360 100     30
31 28 0   500   390 360 100     30
32 29 1   500   390 360 120     30
33 30 2   500   390 360 120     30
34 31 3 0 500   390 360 120     30
35 32 4 1 580   450 360 120 24   66
36 33 5 2 580   450 360 120 24   66
37 34 6 3 580   450 360 120 24   66
38 35 7 4 580   450 360 120 33 24 33
39 36 8 5 580   450 360 120 33 24 33
40 37 9 6 620   480 360 120 33 24 63
41 38 10 7 620   480 360 120 33 33 54
42 39 11 8 620   480 360 120 33 33 54
43 40 12 9 620   480 360 120 33 33 54
44 41 13 10 620   480 360 120 48 33 39
45 42 14 11 650   500 360 120 48 33 59
46 43 15 12 650   500 360 120 48 33 59
47 44 16 13 650   500 360 120 45 48 47
48 45 17 14 650   500 360 120 45 48 47
49 46 18 15 650   500 360 120 45 48 47
50 47 19 16 650   500 360 120 82 45 13
51 48 20 17 650   500 360 120 54 45 41
52 49 21 18 650   500 360 120 54 45 41
53 50 22 19 650   500 360 120 54 82 4
54 51 23 20 650   500 360 120   54 86
55 52 24 21 650   500 360 120   54 86
56 53 25 22 610   480 360 120   54 86
57 54 26 23 610   480 360 120     120
58 55 27 24 610   480 360 120     120
59 55 27 24 610   480 360 120     120

(可処分所得は額面から社会保険料や税金を除いた概算値)

この場合、一番、厳しい男性53歳の時もわずかながら黒字になっています。ただご覧になれば分かるように、収入面では50歳代半ばまで順調に伸びると仮定しています。支出面では、子どもの分の生活費増加を見込んでいません。その分は夫婦の倹約で相殺するということです。また、大学受験の費用も計算に入れていません。こうしたことを考えると、費用が一番かからないこのケースでも、節約を心がけなければ子どもの大学卒業まで老後資金を貯めるのはそれなりに難しいといえるでしょう。

–そうなると、子どもを私立の学校に通わせるとかなり苦しくなりそうですね。

竹下:収入面や生活費は変えずに、子どもを二人とも中学から大学まで私立に通わせたケースがシミュレーション(2)です。第1子は文系で大学4年間ですが、第2子は理系で大学院に進み6年間在学する仮定です(大学院の学費は大学と同額に設定)。この場合、第1子が公立小学校に通っている男性43歳時点まではかろうじて黒字ですが、そこから赤字になってしまいます。男性43歳時点までの黒字を全部貯金していたとしても519万円で、その後の赤字は補完できません。30年間の可処分所得と年間所得の合計の差はマイナス10万円。老後資金を貯めることは非常に難しいことが分かります。

表5 シミュレーション(2)中学以降は私立に進学したパターン

家族の年齢 年間収入 年間支出 可処分所得と年間支出の差額
第1子 第2子 夫(額面) 妻(額面) うち可処分所得 生活費 教育費(第1子) 教育費(第2子)
  (うち家賃・住宅ローン)
30 27     500   390 360 100     30
31 28 0   500   390 360 100     30
32 29 1   500   390 360 120     30
33 30 2   500   390 360 120     30
34 31 3 0 500   390 360 120     30
35 32 4 1 580   450 360 120 24   66
36 33 5 2 580   450 360 120 24   66
37 34 6 3 580   450 360 120 24   66
38 35 7 4 580   450 360 120 33 24 33
39 36 8 5 580   450 360 120 33 24 33
40 37 9 6 620   480 360 120 33 24 33
41 38 10 7 620   480 360 120 33 33 24
42 39 11 8 620   480 360 120 33 33 24
43 40 12 9 620   480 360 120 33 33 24
44 41 13 10 620   480 360 120 133 33 -46
45 42 14 11 650   500 360 120 133 33 -26
46 43 15 12 650   500 360 120 133 33 -26
47 44 16 13 650   500 360 120 104 133 -97
48 45 17 14 650   500 360 120 104 133 -97
49 46 18 15 650   500 360 120 104 133 -97
50 47 19 16 650   500 360 120 117 104 -81
51 48 20 17 650   500 360 120 94 104 -58
52 49 21 18 650   500 360 120 94 104 -58
53 50 22 19 650   500 360 120 94 154 -58
54 51 23 20 650   500 360 120   129 11
55 52 24 21 650   500 360 120   129 11
56 53 25 22 610   480 360 120   129 -9
57 54 26 23 610   480 360 120   129 -9
58 55 27 24 610   480 360 120   129 -9
59 56 28 25 610   480 360 120     120

(可処分所得は額面から社会保険料や税金を除いた概算値)

しかも、このコースを選択した場合、私立中学受験のため、小学校の高学年の時に進学塾に通わせる費用が必要になります。これは、文部科学省の「学校外活動費」を大きく上回り、概算では3年間で200万円ほどかかるケースが多いようです。それが2人ですから400万円。私立では交通費なども生活費も増加しますから、なんらかの対策をとらない限り、家計が破たんする可能性が高まります。

早くから備えて、収入を増やす

–非常に厳しい試算ですね。ただ、大都市圏では子どもを中学から私立に通わせるのはそれほど特別なことではありません。また大学進学では、私立のほうが多数派です。どうしたらいいのでしょう。

竹下:大学進学はともかく、中学進学から私立の学校を視野に入れなければならない大都市圏の子育ては資金面で非常に大変です。シミュレーションに使っている文部科学省のデータは全国平均ですから、大都市圏では学習塾費などがさらにかさむことが考えられます。加えて最近は生活費も増えています。例えばスマホ代、子ども2人にそれぞれ待たせれば年間に10万円程度の出費になりかねません。

破たんしないためのアドバイスは二つあります。まずは早くから備えること。シミュレーション表を見てください。第1子が小学校に通うまでは、それなりの余裕があることが分かります。その時に無駄遣いをしないことが肝心です。後のことを考えて節約して貯蓄しておきましょう。このタイミングで余裕があるからといって住宅ローンの繰り上げ返済をやりすぎてしまうと、後で教育資金のために新たにローンを考えることになりかねませんから注意が必要です。

もう一つのアドバイスは収入を増やすことです。シミュレーションでは妻は専業主婦で収入はないと仮定しています。妻に収入があれば収支は大きく変わってきます。それも家計が苦しくなってから働き始めるのではなく、育児の手間が減ったらすぐに働き始め、将来に向けて貯蓄しておくことをお勧めします。すでに共働きをしているなど、夫婦の収入の伸びしろが少ない場合には、親に援助を求めたり、奨学金を探したりする方法も考えられます。

執筆

竹下 さくら (たけした・さくら)

ファイナンシャルプランナー(CFP)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。千葉商科大学大学院(会計ファイナンス研究科、MBA課程)客員教授。
慶應義塾大学商学部にて保険学を専攻。損害保険会社の営業推進部および火災新種業務部を経て、子会社の生命保険会社に出向し引受診査部門を担当。1998年よりFPとして独立、現在に至る。主に個人のコンサルティングを行うかたわら、講師・執筆活動を行っている。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。