単身高齢者の入居受け入れに朗報!残置物の処理等に関するモデル契約条項が公表

「不動産投資」管理の重要なポイント (第30回)

この記事の概要

  • 単身高齢者の住まいの安定確保を図るため、国土交通省および法務省より「残置物の処理等に関するモデル契約条項」が公表されました。これにより、入居者が亡くなった後に賃貸契約の解約がスムーズになり、居室内に残された家財等が円滑に処理できるようになります。内容について詳しく見ていきましょう。

単身高齢者の入居受け入れに朗報!残置物の処理等に関するモデル契約条項が公表

1.これまで何が問題だったのか

単身の高齢入居者が亡くなった際に起こる問題点について考えてみましょう。

入居者が亡くなった場合、お部屋の中には生前の生活家財がそのまま残されています。次の入居者募集をするためには、建物の賃貸借契約を解除して、室内に残った家財を片づけなければなりません。しかし、民法第896条には「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定されており、賃借権と残された家財の所有権は相続の対象となるため、オーナーが自由に契約を解約したり、家財を処分したりすることは出来ません。原則として賃貸借契約の解除の通知は相続人全員に対して行う必要があり、被相続人の家財をどうするかも相続人全員で決めてもらわなくてはならないことになります。

実務上では、連帯保証人がお子さんなど相続人の1人であれば、その方に相続人の方々の代表窓口になって頂き、賃貸借契約の解約や家財処分について手続きを進めることになるでしょう。しかし、連帯保証人も高齢で既に亡くなっていることが判明した場合には、他の相続人の方々を探さなくてはなりません。これには大変な手間と費用が掛かるため、このようなリスクが原因となって、単身の高齢者に対してお部屋を貸したくないと考えるオーナーが少なくなかったのです。

単身高齢者のイメージ

2.高まる単身高齢者の住まい確保ニーズ

内閣府が公表している2021年版高齢社会白書によると、65 歳以上の一人暮らしの高齢者は男女ともに年々増加し、2015年には男性約192万人、女性約400万人となっています。そんな中、単身の高齢者が居住している民間の賃貸住宅の数は120万戸超とも言われており、今後ますますそのニーズが高まっていくことが予測されます。

単身の高齢者の住まいの安定確保は今や深刻な社会課題となっており、入居者が亡くなった際の契約解除と残った家財の処理の問題を解決し、賃貸住宅のオーナーの不安感を払拭する必要がありました。そのために国土交通省と法務省が協力し、今回の「モデル契約条項」が作成されたという訳なのです。

「モデル契約条項」の具体的な内容は、賃貸借契約の解約と残った家財の処理に関して「死後事務委任契約」を締結しておくというものです。一般的に知られている「死後事務委任契約」は、単身者や子供のいない夫婦等、身近に頼れる家族がいない人が、自分が亡くなった後の葬儀や遺品整理などを専門家に委任するもので、その費用は数10万~100万円位と高額であり、誰もが気軽に締結出来るものではありません。しかし今回の「モデル契約条項」では、委任の内容を①賃貸借契約の解除と②残置物の処理に限定し、その費用については特に規定していませんので、非常に利用しやすくなっています。

3.「モデル契約条項」の具体的な内容

「モデル契約条項」は60歳以上の単身の高齢者と契約することを想定しており、新たに単身高齢者と賃貸借契約を締結するときや、既存入居者が高齢となったときの更新のタイミングに賃貸借契約に追加して契約を締結します。

また、受任者として望ましいとされているのは入居者の推定相続人ですが、それが困難な場合には居住支援法人や、管理会社等の第三者を想定しています。オーナー自身が受任者となることは、入居者や相続人と利益相反となってしまうので避けるべきです。賃貸借契約の連帯保証人や緊急連絡先が推定相続人の1人であれば、その人が受任者として適任ということになるでしょう。

ちなみに、同じ単身者だからと若い入居者に利用すると、高齢者に貸す場合と比べてオーナーの不安感が生じにくいケースと判断され、民法や消費者契約法に違反して無効となる可能性があるので注意してください。賃貸借契約の解除と残った家財の処理の問題は入居者やその相続人の利害に大きく影響するため、死後事務委任契約は慎重に行う必要があるのです。

入居者が亡くなった際には、受任者は把握できている相続人の意向を確認した上で、賃貸借契約を解除することができます。残った家財に関しては、廃棄するものについては賃貸借契約が終了した後に処理し、廃棄しないものについては入居者から指定された相手に送付することとなります。

「モデル契約条項」は使用が法令で義務づけられているものではありませんが、これを利用することにより、オーナーが安心して単身高齢者にお部屋を貸すことができるようになることが期待されています。新たな契約だけでなく、現在入居中の高齢者にも利用できますので、今後の賃貸経営のために導入を検討してみるのも良いのではないでしょうか。

似たようなお話で、オーナーが安心して単身高齢者にお部屋を貸すために、入居者が亡くなった場合の告知に関するガイドライン(案)も国交省がとりまとめています。ポイントを確かめたい方はこちらの記事もご覧ください。

「前の入居者が亡くなった物件の募集の仕方のポイント」

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年7月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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