前の入居者が亡くなった物件の募集の仕方のポイント

「不動産投資」管理の重要なポイント (第29回)

この記事の概要

  • 不動産取引において長年問題となっていた心理的瑕疵に関し、国土交通省は「宅地建物取引業者による人の死に関する心理的瑕疵の取扱いに関するガイドライン」(案)をとりまとめました。これまで賃貸不動産で人が亡くなってしまった場合の告知に関するルールが定まっておらず、円滑な取引を阻害する要因になっていましたが、そこに一つの答えが出されようとしています。賃貸不動産オーナーにとっても重要な内容なので、ガイドライン(案)を確認しておきましょう。

前の入居者が亡くなった物件の募集の仕方のポイント

1.ガイドライン制定の背景

不動産業者は、宅地建物取引業法によって、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について告知する義務が課されています。いわゆる心理的瑕疵についてはどんな原因で発生したか、何年前に発生したかなどでも状況はかなり違い、借りる側の感じ方も人それぞれであるため、これまで告知のルールが定まっていませんでした。取り扱う不動産会社によっても対応が異なり、中には賃借人から「知っていたら借りなかった」と言われるのを恐れ、何年前であろうとどんな原因であろうと全てを調べ上げて告知するような過剰な対応をしている不動産業者も見受けられました。

また、告知が必要になると一般的には入居者募集や客付けがしにくくなり、賃貸条件も相場より安くなる傾向があるため、それを賃貸経営のリスクと捉えたオーナーや管理会社が、単身高齢者の入居を敬遠する理由となっていました。

超高齢化社会において、高齢者の住まい確保に支障が出ることは大きな社会問題でもあり、それを解決するためにも告知に関するルールの制定が切望されていたのです。

2.自然死は原則告知不要に

ガイドライン(案)では、不動産取引に際し説明義務違反を巡り多くの紛争が見られる他殺、自死、事故死、その他原因が明らかでない死については告知が必要とされましたが、老衰、病死などのいわゆる自然死については、原則的に告知不要とされました。これは、統計においても自然死は自宅での死因の9割を占めており、誰もが自分自身や家族の問題であること、過去の判例においても自然死について心理的瑕疵ではないとされたものがあることから、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす可能性は低いと考えられたからです。また、事故死の中でも転倒や誤嚥などの日常生活の中で生じた不慮の事故によるものについては、自然死と同様の考え方となりました。

しかし例外もあり、長期間に渡って発見されなかった場合には、取引の相手方への心理的な影響が大きいとみて、告知義務があるものとしました。

これを鑑みると、今後オーナーや不動産会社は、「万一の事態の早期発見」に力を入れるべきということになるでしょう。具体的には、賃借人と日常的に連絡を取り合ってくれる身内を確保することや、機械的な見守りシステムを導入することなどが考えられます。特に見守りシステムは多種多様なものが商品化されており、仕組みや費用も様々です。どのようなものがあるのか、今のうちに調べておくと良いでしょう。

空き賃貸物件のイメージ

3.告知期間は概ね3年間

賃貸借契約について、事案の発生からいつまで告知をするべきかについてはその事件性、周知性、社会に与えた影響等により変化すると考えられますが、過去の判例を見ても、時の経過や別の賃借人が居住した事実によって影響は薄まると考えられ、ガイドライン(案)では事案の発生から概ね3年間とされました。

これまで告知すべき期間についてもはっきり決まっていなかったため、事案が風化してもなお、いつまでも告知し続けるという不動産会社が見られる反面、別の賃借人が数か月入居しただけで次回は告知をしない不動産会社もあるなど、こちらも対応に大きく差がありました。そんな状況の中、期間がはっきり示されたのは非常に画期的なことと言えるでしょう。

注意したいのは、ガイドラインは民事上の責任回避を保証するものではないということです。個々の不動産取引において、心理的瑕疵の存在に関して紛争が生じた場合の民事上の責任については個別に判断されるべきものと考えられていますので、仲介をする不動産業者と個別に事案についてよく話し合い、告知の必要性や内容を取り決める必要があります。

また、ガイドラインは現時点で妥当と考えられる一般的な基準であり、新たな判例や取引実務の変化、社会情勢や人々の意識の変化に応じて適時に見直しを行うこととされています。

このガイドライン(案)については既に意見公募がなされ、その意見を踏まえて内容が固まり次第、正式なガイドラインとして公表されることとなっています。

近年、子世代が親世代を自宅近くの賃貸住宅に呼び寄せるケースも増えているため、誰もが賃借人側の立場になる可能性がありますが、このガイドラインが世の中に浸透すれば、高齢者にとっては今より賃貸住宅が借りやすくなると思われます。また、オーナーにとっては告知の曖昧さがなくなり、より安心して賃貸経営が行えることとなります。今後のガイドラインの動きに、ぜひ注目していただきたいと思います。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2021年6月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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