富裕層は確定申告を戦略的に活用している!New

投資用不動産トピックス

この記事の概要

  • 毎年2月から3月にかけて行う確定申告。一見手間にも思える作業ですが、所得税などの税額を軽減できたり、不動産事業での収益性の向上につなげられたりできます。不動産を多数保有する富裕層にとって、確定申告はどう位置づけるべきでしょうか。確定申告の意義や活用法について改めて考えてみましょう。

富裕層は確定申告を戦略的に活用している!

確定申告に「納税」以外の意味をつくる

確定申告とは、1年間の売上や支出を基に所得と所得税額を計算し、税務署に申告・納税するための手続きです。不動産所有者、とりわけ賃貸投資家にとっても毎年の必須業務ですが、富裕層にとっては単なる納税額の確定作業以上の意味合いを持ちます。

例えば富裕層にとって、確定申告は以下のようにも位置づけることができます。

(表1)不動産所有者にとっての確定申告の位置づけ(例)

  1. ①優遇措置や控除の適切な活用
  2. ②保有資産の確認と次なる資産形成計画づくり
  3. ③相続・事業承継に向けての布石
    など

まず①の「優遇措置や控除の適切な活用」ですが、多額の所得や資産を有する富裕層にとって、税制優遇措置などの活用メリットは、非常に大きなものになります。確定申告は、これら複雑かつ多岐にわたる制度を漏れなく適用する絶好の機会となり得ます。

②の「保有資産の確認」と「次なる資産形成計画づくり」というのは、給与や事業、投資などで得るさまざまな所得に加え、保有する資産について、確定申告がその種類や額などについて確認する機会となります。納税額は手元のキャッシュフローにも直結します。こうした現況資産の確認を基に、翌年の投資計画や資産移転など、資産を拡張させるための戦略を検討していくことが大切です。

③の「相続・事業承継に向けての布石」は、確定申告によって現在の所得や資産状況を正確に把握・申告しておくことで、将来的な相続や事業承継など、次の世代への円滑な資産移転に向けた長期戦略にもつなげられます。

賃貸オーナーにとっては一年の損益確定作業、プロの活用も視野に

不動産経営を行う方にとって、確定申告は年間の損益を確定させるための重要作業となります。不動産所得は、大まかに「賃料等の収入−経費」によって算出し、一年分の損益計算書を作成していきます。収入については入居者の賃料など明快でしょうが、経費についてはさまざまな支出項目があり、それらの正確な把握が欠かせません。

(表2)不動産所得の申告に必要な「収入・経費関連書類」の例

  • ・賃貸借契約書(家賃収入の根拠として)
  • ・預金通帳・家賃送金明細書など(家賃の入金額、入金日を示す書類として)
  • ・管理費、修繕費、共用部の水道光熱費、広告宣伝費などの領収書や請求書(各種経費)
  • ・固定資産税・都市計画税の納税通知書・領収書
  • ・各種控除関連書類(地震保険料、生命保険料、社会保険料等の控除証明書、領収書等)
  • ・借入金の契約書・返済予定表・明細書(経費となる支払利息)
  • ・購入建物やリース機器、対象機器取得時の契約書・領収書(減価償却費の計算・確認用)
    など

不動産投資を行っている方が確定申告時に活用可能な制度としては、減価償却、損益通算、青色申告特別控除などが挙げられます。

減価償却とは、土地以外の建物や建物附属設備などの購入費用について、耐用年数に応じて毎年経費として計上できる制度です。中古物件は新築より耐用年数が短いため、短期間で大きな減価償却費を経費として計上できます。損益通算とは、不動産投資で発生した赤字を給与所得や事業所得などの他の所得と相殺できる制度です。赤字分だけ課税所得が減るため、所得税や住民税の減税につなげられます。
また、青色申告が白色申告より税制上有利なことは広く知られています。簡易簿記に基づく青色申告は控除額が10万円ですが、複式簿記で記帳することで最大65万円の特別控除が受けられます。

不動産の税務に精通する村岡清樹氏(税理士法人 東京シティ税理士事務所・副所長)は、「不動産経営は1〜数戸であれば個人での対応もそう手間ではありませんが、年間の収支だけでなく、投資用不動産のバリューアップ対策や買い替え・買い増し、将来の相続など多面的な経営視点が必要です。投資効率を最適化・最大化していくためにも、またご自身の省力化のためにもプロの力を最大限活用してほしい」と語ります。

以上見てきたように、不動産保有者にとっての確定申告とは、さまざまな所得の損益を確定させたうえで、保有する資産の額や種類の確認をしたり、バランスの検討や投資計画の戦略づくりや見直しをしたりなど、資産戦略最適化のタイミングといえます。

確定申告書の計算・作成はややこしいうえ、その年独自の控除制度など毎年計算方法が変わる煩雑な作業ではありますが、税制上のメリットも多いことは疑いありません。せっかくのこの機会、ただ納税のために使うのではなく、資産運用や保有資産の拡大、将来の承継のためといった、戦略的なステップとしてお役立てください。

協力・監修

東京シティ税理士事務所

不動産を所有する方の相続と不動産税務を専門とする多数の税理士が所属する税理士事務所。

執筆

谷内 信彦(たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上を主テーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)。

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※2025年12月23日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。