デュアルライフ(二拠点生活)のすすめ―自宅にない機能と価値を手に入れるNew

中古住宅トピックス

この記事の概要

  • 自宅の居心地を高めていくことも大切ですが、一方で自宅のある地域や、自宅建物にない新たな環境を手に入れるため、別の拠点を手に入れる「デュアルライフ」という暮らし方もポピュラーになってきました。働き方改革でリモートワークが可能になったり、長期休暇が取りやすくなったりする等、デュアルライフを実施しやすい環境も整備されてきています。自宅以外に居場所をつくる意義について考えてみましょう。

デュアルライフ(二拠点生活)のすすめ―自宅にない機能と価値を手に入れる

ワークライフバランスについて考える機会となったコロナ禍

2019年に発生し、世界規模でのパンデミックを引き起こしたコロナウイルスは、私たちの生活を大きく変えました。日本でも緊急事態宣言が発出され、「ステイホーム」の名の下、実に1年半もの間、外出が大きく制限されました。多くのビジネスパーソンはオフィス通勤ができず、代わって自宅や近隣のコワーキングスペース等で仕事をするという、リモートワークという働き方が誕生しました。

ただ、このコロナ禍は、私たちがワークライフバランス(仕事と生活の双方を充実させる暮らし方)について考えるいい機会にもなりました。いかに人生を豊かに過ごすか、価値観の模索につながったともいえます。そして同時に、「家」という場所は日常生活のプラットフォームであり、自宅の快適性が私たちの暮らしの質に直結することを再確認できたように思います。

しかし、コロナ発生以前の住まいにリモートワークのスペースが考慮されていなかったように、自宅が必ずしもパーフェクトな空間なわけではありません。地域によって自然環境や生活利便性は大きく異なりますし、それ以前に各々の志向する空間も違います。「都市」と「自然」、「コミュニティー」と「プライバシー」等、相反しがちな要素の両者を求めたりもします。

「旅」は、そんな日常生活を補完する行為の1つなのでしょう。旅の非日常性によって心身がリフレッシュされ、帰宅後の日常生活を再び輝かせてくれるわけです。コロナ禍の期間、移動が大きく制限されたため、国内・国外共に旅行者数は大きく減少しましたが、2022年頃から緩やかに回復しています。以下のグラフは、宿泊・日帰り旅行の延べ人数の推移を示したものです。

(図1)日本人国内宿泊旅行延べ人数及び国内日帰り旅行延べ人数の推移

(図1)日本人国内宿泊旅行延べ人数及び国内日帰り旅行延べ人数の推移

出典:観光庁『旅行・観光消費動向調査(2024年年間値)』

2024年の数値を見ると、日本人の国内旅行人数はコロナ発生前の2019年と比べても、近い水準にまで回復しています。昨今のインバウンド状況から見るに、早晩コロナ禍前の状態に戻るのは疑いありません。ちなみに支出金額ベースでは、既にコロナ禍以前の状態に戻っています(2019年:21.9兆円⇒2024年:25.1兆円)。

もう1つの居場所をつくり、自宅にない環境を手に入れる

旅への希求は多くの方が持っているものですが、コロナ禍以降は単なる休暇消費の手段やレジャーといった娯楽性だけでなく、日常生活のワークライフバランスを実現する手段としても活用されているようです。例えば、都心の喧騒を離れ、週末は森の中の別荘で過ごす。そんな“時間の使い方”こそが、これからの豊かさの象徴なのかもしれません。

「デュアルライフ」という言葉があります。二地域居住、多拠点生活等、自宅とは別に拠点を持つ暮らしを指しますが、こうしたライフスタイルが日本でも暮らし方のスタイルとして認知されてきました。2つの拠点の行き来もまた「旅」であり、旅の目的が、仕事もプライベートも含めた多彩なものとなってきました。

その「旅」のスタイルですが、短期間に多くの場所を訪れる「周遊型」が減り、近年1つのエリアに長期滞在する「滞在型」や、リピーターとして繰り返し訪れる「反復型」が増えているようです。

1カ所に長期滞在、定期訪問するライフスタイルであるのなら、その拠点はホテル等の宿泊施設に限らず、個人の絶対的なプライベートスペースとして、いっそ別荘やリゾートホテル等、持ち家として取得し、デュアルライフを実現するという暮らし方もあるかと思います。

(ホテル滞在でなく)別荘やリゾートマンション、地方の戸建て住宅等を所有するメリット例

  • ・滞在型・反復型双方の旅のスタイルを愉しめる拠点として機能する
  • ・完全なプライベート空間として使用可能
  • ・自宅に不要な生活用品やコレクション等をまとめて格納できる
  • ・災害時等のリスクへの備えにもなる
  • ・リタイア後の生活のシミュレーションにもなる
  • ・資産形成にもつなげられる
  • ・不動産投資のストックとしても使用可能(個人使用期間外の民泊活用等)
    ※民泊活用には届け出等が必要です。

もちろん清掃や維持管理等の手間やコストもありますし、ハイクラスホテル等の定宿を持ち、洗練されたサービスを受けるのも気持ちいいものです。ただ、自宅とは別にお気に入りの地にもう1つの住まいを所有することは、ホテルと違って常に同じ住環境を手に入れられ、また他者に煩わされることなく使用できるというベネフィットも享受できます。ホテル等への宿泊が「消費」に近い性質のものであるのに対し、デュアルライフは自宅の居住環境の拡張であり、より暮らしに直結した行為ともいえないでしょうか。

また、セカンドハウスは単なる“住まい”ではなく、家族と過ごす時間の舞台であり、将来的には次世代へと受け継がれる“ストック”ともなり得ます。所有することで上質な暮らしを手にするだけでなく、資産形成や、資産承継の手段としても活用できるわけです。

ただし、既存のリゾート物件や地方の戸建て住宅は、都市部ほど流動性に富んでいません。将来の売却時や資産形成面を考えると、所有する際は一定の需要のあるエリア内で良質な物件を吟味することが大切です。

こうしたストックの中には破格なリゾート物件が見つかることもありますが、管理が行き届いていない・管理費の滞納が多い(マンションタイプ)、現状のコンディションが不明(戸建ての別荘タイプ)なものは将来の“負動産”になりかねず、たとえ販売価格が安かろうと購入には慎重な判断が必要です。とはいっても、気に入ったログハウス等、DIYで時間をかけて気ままにリノベーションさせていくような暮らし方、愉しみ方も存在します。

近年、夏の猛暑が厳しく、期間も年々長くなっているように思います。皆さんも灼熱(しゃくねつ)の照り返しを受けるアスファルトの上を歩きつつ、「ああ、1週間だけでも都心を脱出して避暑地で過ごしたい…」とため息をついたりしませんでしたか?

日本では、ヨーロッパ諸国のように1カ月以上の長期バカンスを当然の権利と考えるライフスタイルはまだまだ先のことになりそうですが、日本は祝日が多いこともあり、短めの休みを繰り返して取りやすいともいえます。今や働き方改革等によって仕事の従事場所も選びやすくなってきており、自宅にない住環境を手にできるデュアルライフは、この時代こその新たな暮らし方ともいえそうです。

執筆

谷内 信彦(たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上を主テーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)。

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※2025年10月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。