売却時に差の出る「所有形態」と「維持管理」の違い
共同所有の「マンション」、単独所有の「一戸建て」。同じ「持ち家」でもマンションと一戸建てでは所有形態や建物の工法等に差異があるため、同じ「土地と建物所有」であっても資産の考え方や流通価値も異なります。
「集合住宅」ともいわれるように、マンションは土地・建物ともに区分所有者全戸による共同所有になります。建物については、構造部や玄関・エレベーターなど設備は「共用部」として全戸で所有・管理し、各戸「専有部」を所有者が独占的に使用する形態を取っています。一方、一戸建ては原則として土地・建物とも単独で所有します。
(表1)所有形態や査定面から見たマンションと一戸建ての特性比較
項目 |
分譲マンション |
一戸建て |
土地・建物の 所有形態 |
区分所有者全戸での共同所有 |
原則として単独所有 |
建物の 減価償却期間 |
47年(RC造) |
22年(木造) |
維持管理方法 |
区分所有者全員で構成する 管理組合で実施 |
所有者が単独で実施 |
査定面 |
建物に重きが置かれがち |
土地に重きが置かれがち |
不動産流通面から資産価値を見てみると、マンションの資産価値は、土地が共有であり、また建物としてRC(鉄筋コンクリート)造などの堅牢な建物が建っていることから他の利活用の余地が低く、相対的に建物に重きが置かれます。あるいは土地と建物を一体的に評価するといった方がいいかもしれません。対して一戸建ては、単独所有の上、建物も木造などでマンションほど長寿命でないことから、他の利活用方法も考えやすく、土地と建物を分離して評価し、また土地に重きが置かれる傾向にあります。
マンションと一戸建て、それぞれ中古住宅として売却=不動産流通市場でどう取り扱われていくか、具体的にその特性の差について整理していきましょう。
マンション:取引事例が豊富なため、相場が見えやすく売却もスピーディ
ひとつの建物で数十〜数百戸の戸数があるマンションは流通量が多く、中古住宅としての相場がある程度形成されています。都市部など供給量の多いエリアでは、同じ建物や似た規模の近隣マンションなどの取引事例の蓄積によって相場ができています。
駅からの距離、公共施設や商業施設への利便性のほか、建物の築年や維持管理状況などによって流通価格が決まっていきます。同じマンションでも、階数、広さ、間取り、方角、日当たり、眺望などによって評価が調整されるのが一般的です。
また、マンションはRC造で堅牢な建物であるため、築年がたっても大きく値崩れしにくいストックともいえます。ただし、適切な維持がなされていることが前提になります。「マンションは管理を買え」という格言は、維持管理活動がマンションの評価を上下し、資産価値に直結するためです。
売却のスピードについても、一戸建てより早めに動く傾向があります。その理由としては、
- ・都市部を中心に一定の需要があり、中古住宅としての流動性が高い
- ・広さや間取りによってワンルーム/コンパクト/ファミリーと類型化しやすい
- ・過去の取引実績から一定の相場が確立されている
ことが挙げられます。
そういう意味で、マンションは比較的売却しやすいストックということができるかと思います。
専有部の設備機器や内装は、新しくきれいな方が内見者のイメージは良くなるでしょうが、前所有者の生活感を嫌い、最終的に自分で内装やリフォームなどを行うことが増えているようで、価格アップの要素としては弱くなっているように思います。模様替えやリフォーム、リノベーションによって売却価格を高めることも可能でしょうが、“刺さる”人が出てくる代わり、一般購入者を限定してしまうリスクもあります。また、買取再販を行う不動産会社にとっては、設備機器や内装を自社でリフォームして売り出すのが通常なので、内装や設備、リフォーム状況によって査定額が上がるということはあまりありません。
マンションの売却特性
- ・同じ建物や近隣マンションの成約事例基準に一定の相場が確立されている
- ・駅からの距離や築年数、階数、間取り、眺望、日当たりなどで評価が上下する
- ・都市部においては需要が高く、売却も一戸建てよりスピーディー
一戸建て:土地評価が軸。建物コンディションの見える化で価格が上下
マンションと違い、一戸建て住宅は土地・建物ともに規格化できる要素が少なく、周辺事例との比較が難しいことから取引価格の設定に幅が出やすいストックといえます。また、マンションが管理組合主体である程度の維持管理を実施している安心感があるのに対し、一戸建ては維持管理状況が見えにくいことから、建物の耐久性などに対する不安要因となって売却スピードが遅くなりがちな傾向にあります。
一戸建ての資産価値については、マンションと違って土地と建物を分けて評価するのが一般的です。土地については、立地条件や活用の需要によって一定の評価がなされ、エリア内の市場に変化がなければ価値もそう大きく変動しません。ただ建物については、経年によって大きく査定価格を下げていくというのが実情です。
というのも、一戸建ては木造住宅が多く経年によって劣化しやすいこと、耐用年数がマンションより短めであること、前述の通り維持管理状況が不明なため建物の現状性能を正しく捕捉しにくいなどの要因がネガティブなものとして作用するためです。残念ながら、築20年以上たった一戸建て住宅にはほとんど値が付かないのが実情です。多くの建物はまだまだ使えるはずなのですが、その価値を現状の不動産市場では価格に反映させづらいというわけです。雨漏りなど、万一の劣化事象について売主側が責を負う「契約不適合責任特約(瑕疵担保責任特約)」の存在も、建物評価に値を付けづらくさせているようです。
逆にいえば、建物の維持管理状況や耐久性、暮らしやすさなどを客観的に示すことで、最終的な取引価格を高める余地も生まれます。例えば、
- ・「長期優良住宅」、または「長期優良住宅化リフォーム」の認定通知書の提示
- ・「住宅履歴情報」や「維持管理状況」「リフォーム実施状況」などの記録の提示
- ・「ホームインスペクション(住宅現況検査、建物診断)」を実施し、診断結果の提示
- ・リフォームやリノベーションなどによる内外装のイメージアップ
などによって、建物評価を高めることも考えられます。
これはマンションにもいえることですが、暮らしている間に適切に維持管理していくことは、暮らしの質を高めるだけでなく、将来の売却額を幾ばくかでも高める手段にもなり得ます。築年の古さを補う、建物の価値の維持にもつながります。
一戸建ての売却特性
- ・土地と建物を分けて評価。土地は立地条件、建物は築年数やコンディションで価値が変動
- ・土地の価値が高ければ築古でも売れる一方、建物の価値は減価償却が早めで値が付きにくい
- ・周辺事例との比較が難しいため価格設定に幅が出やすく、売却期間も長めになりがち
持ち家は基本的に自己居住のためのストックですから、資産価値の変動については投資物件のように気にすることなく、ご自分たちの暮らし方にマッチした物件を選んでいけばよいとも考えられます。それでも、購入した家に永住するのでなく、加齢や家族構成などのライフステージに応じて最適な家に移る「住み替え」もポピュラーとなっていますし、不動産を資産として次の世代に承継していくこともできますから、出口戦略として売却時のことも知っておいて損はないかと思います。