- 不動産賃貸投資の中でも、「一棟投資」は建物・戸数のスケールメリットを生かせるため、1戸(室)単位の賃貸投資と比べてもより戦略的な運用が可能になります。ただ、一棟マンションと一棟アパートでは投資規模や想定ターゲット等に差異があり、双方に独自のベネフィットを有しています。それぞれの投資的魅力の違いを確認していきましょう。

資産性の高い一棟マンション、調達しやすい一棟アパート
賃貸投資における、一棟投資の対象ストックは、大きくマンションとアパートに大別できます。マンションとアパートとでは建物の工法や共用設備、室内の設備や仕様等に違いがあり、これが建物の建築コストや住宅性能、減価償却期間などの違いとなって、賃料など実際の投資スタイルに反映されていきます。
一棟マンションと一棟アパートの一般的な特性について、簡単に整理してみました。
(表1)一棟マンション/一棟アパート経営の一般的な特性比較
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一棟マンション |
一棟アパート |
建物工法 |
RC造が一般的 |
鉄骨造や木造が一般的 |
物件調達コスト |
アパートより高め |
マンションより安め |
法定耐用年数
(住宅用) |
47年(鉄筋コンクリート造) |
19〜34年(鉄骨造)※1、
22年(木造) |
設定賃料 |
アパートより高めに設定可能 |
マンションより低め |
維持管理費用 |
エレベーターなどの共用設備が多い分、一定コストがかかる |
設備が比較的シンプルな分、マンションより低廉 |
- ※国土交通省資料等を基に筆者作成
- ※1:骨格材の太さによって耐用年数が定められている
このように、一棟投資物件でもRC造(鉄筋コンクリート造)のマンションと木造・鉄骨造のアパートとでは耐久性や住宅性能などに違いがあり、運用方法や収益性も異なります。概要を比較すると、一棟アパートはマンションより調達しやすく、設備がシンプルな分維持管理費用も低いため高めの利回りを期待できる。ただし築年とともに資産価値が大きく低下していくので出口戦略が重要です。対して一棟マンションは耐久性や住宅性能が高いため調達コストがかかりますが、高めの賃料を設定でき、また維持管理やリフォームによって資産価値が低下しにくいため将来の売却時のキャピタルゲインも期待できます。
利回りは一棟アパートが高め、一棟マンションは高額・安定的な収益性が魅力
ではここから、一棟マンションと一棟アパートの投資的魅力の差を具体的に見ていきましょう。
物件調達力:手頃な価格で投資を始めやすい一棟アパート
まず物件価格ですが、一棟マンションの方が価格が高めな分、当然多くのイニシャルコストを必要とします。ただ建物の担保価値が一棟アパートより高く、投資用ローンも活用可能です。対して、数千万〜1億円以下の物件も多い一棟アパートは、一棟マンションより自己資金が少なくて済むため調達しやすく、個人投資家や投資初心者にも手の出しやすいストックといえます。
運用収益性:利回りの高い一棟アパート、インカム・キャピタル両面での収益性が魅力の一棟マンション
次いで賃料ですが、条件が同じであれば、住宅性能が高く共用部が充実した一棟マンションの方が高額の賃料を設定可能です。賃料収入などの月々の運用益をインカムゲインと言いますが、建物の減価償却期間も長いことから、一棟マンションの方が長期にわたって安定的に賃料収入を得られます。ただ物件調達や維持管理などのコストが低い一棟アパートの方が、表面利回りの数字が高く出やすい傾向にあります。
また、将来の売却時の収益をキャピタルゲインと言いますが、こちらは堅牢で耐久性の高い一棟マンションの方が資産価値が落ちにくく、高い売却益が期待できます。将来の相続時にも、資産として次の世代に優位に引き継ぐことができます。
(表2)賃貸投資における2つの収益に関する傾向
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一棟マンション |
一棟アパート |
インカムゲイン
(賃料などの収益) |
アパートよりも高額の賃料を設定可能。またアパート経営よりも長期にわたって得られる |
賃料はマンションに劣るが、イニシャルコストが低めな分利回りは高め |
キャピタルゲイン
(売却収益) |
資産価値が落ちにくく高額での売却も期待できる |
減価償却期間が短いため低下しやすい |
維持管理コスト:バリューアップさせやすい一棟マンション、大胆な改修が可能な一棟アパート
建物の経年とともに内装や設備等の劣化は避けられないため、賃貸経営においては定期的なメンテナンスや設備更新、リフォーム等によるバリューアップが欠かせません。一棟マンションはエレベーターなど共用設備が多い分、維持管理コストが一棟アパートより高めになります。ただし基本的な住宅性能が高い分、更新頻度を一棟アパートより減らしやすいともいえます。一方、一棟アパートは住宅性能が一棟マンションより低めな分、常に新たな魅力付けが大切です。
ただ、一棟アパートはその構造上、大胆なカスタマイズがしやすいという優位性を持っています。例えば、コンパクトな2室を一体化して新たに広い1室に仕上げる「2戸1」でのリノベーションなど、木造ならではのアプローチといえます。また、オーナーがセルフビルドでカスタマイズしたり、DIY賃貸(一定区画・部位について入居者が自由に造作等できるルールの賃貸物件)などの低コストでのバリューアップに向くのも、一棟アパート経営のひとつの魅力です。
想定ターゲット:法人契約や民泊対応など、一棟マンションが断然有利
建物のあるエリアニーズにもよりますが、マンションとアパートとでは想定する入居者像に大きな差異があります。一般的には住宅性能や賃料が低廉な分、アパートは学生やシングル(単身者)、あるいはカップルなど少人数の世帯が中心ターゲットになります。対してマンションは高い住宅性能を武器に、シングルからコンパクト(2〜3人程度)、ファミリー向けと多彩な広さや間取り設定が可能です。
企業の社宅代わりとしてなど、法人契約しやすいこともマンションの持つアドバンテージでしょう。また、1室または全戸をリース会社等に転貸する「サブリース」もマンションの方が圧倒的に優位です。また近年インバウンド需要などから「民泊」による不動産運用も増加していますが、遮音性などの問題から民泊対応はマンションベースが基本といえます。こうした汎用性の高さによりリスクを分散し、より安定的な運営が可能となります。
投資スタイルに合わせた柔軟な選択を
以上、ざっと一棟マンションと一棟アパートの投資スタイルの差について見てきましたが、どちらのストックを選ぶにせよ、最終的には地域ニーズにマッチした賃貸物件であることが重要です。そのエリアに住まう方のニーズや、駅からの距離、公共施設や商業施設などの有無、競合賃貸物件との競争力などによっても、投資すべき一棟物件の種別や規模等は変わっていくからです。高い利回りの維持は、リフォームなど継続的なバリューアップによる、賃料の維持・向上と空室期間の解消が欠かせません。
予算規模をはじめ、安定性と利回りの優先順位、物件保有後の運用の手間のかけ方など、投資家となる皆さまの求める投資スタイルを確認することと、投資する物件のバリューを十分に吟味することの両面から、ぜひ賃貸一棟投資についてご検討ください。
建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上を主テーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)。
※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※2025年7月29日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。