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住み替え意向と今後の居住形態の志向の変化New

みずほ不動産販売 不動産市況レポート

この記事の概要

  • 今後住み替えの意向がある世帯の割合に変化が見られ、中・高所得層50代以上上昇が見られる。
  • 住宅価格の高騰や高齢世帯の増加により中間所得層借家志向シフトが進んだ他、単独世帯30歳未満が借家志向シフトを牽引した。
  • 50代以上では老後に向けた資金計画や健康不安から、戦略的な住み替え志向が広がりつつある。

中・高所得層およびミドルやシニア層で住み替え意向が強まる

国土交通省の「住生活総合調査※1」によると、今後住み替え意向がある世帯の割合は10年前の同調査から+0.1%ptとなる19.6%でほぼ横ばいであった。

一方、同指標を世帯年収階級別に比較すると100~300万円の層では低下した一方、500万円以上の層が上昇した結果、世帯年収100万円未満を除けば収入額が高いほど当該世帯の割合が上昇するような形に変化した[図表1上]。家計を主に支える者の年齢別に比較すると、若年層ほど高い傾向は2013年と同様であるが、50~74歳の層で上昇が見られる。2019年に提起された「老後2,000万円問題」により老後資金の確保に関心が高まっていることが、ミドル層やシニア層の戦略的な住み替えの動機になっていると考えられる[図表1下]。

[図表1]今後の住み替え意向のある世帯の割合(左:世帯年収階級別 右:家計を主に支える者の年齢別)

データ出所:国土交通省「住生活総合調査」

  • ※1:今回調査として令和5年住生活総合調査を、比較対象として平成25年住生活総合調査を用いた。なお、平成30年にも同調査は実施されているが調査方法が異なり経年比較が困難なことから今回は用いていない。

“単身世帯”“30歳未満”“年収700万円未満”を中心に借家志向が拡大

住み替えの意向がある世帯のうち住み替え後の居住形態として借家を志向する世帯は全体の37.8%で2013年の調査と比較して+8.7%pt上昇した一方、持家志向は42.6%(-7.3%pt)であり借家志向が拡大した[図表2]。

[図表2]住み替え後居住形態の志向

データ出所:国土交通省「住生活総合調査」

現在の居住している住宅タイプ別に比較すると、持家居住者・借家居住者ともに持家意向は低下し、借家居住者の借家志向は持家志向を上回った[図表3]。ライフステージに合わせて借家から持家に住み替えることを目指すいわゆる“住宅すごろく※2”の流れが弱まっていることが分かる。

[図表3]現在住居タイプ別住み替え後居住形態の志向

データ出所:国土交通省「住生活総合調査」

  • ※2:高度経済成長期の住み替えモデルをすごろく形式で端的に表現したもの。20代には「アパート(木造)」や「社宅・官舎等」、30代には「賃貸マンション(非木造)」、40代以降に「持家マンション」を取得し、最終的には「持家戸建」に住み替えて“あがり”とされる。

世帯年収別に見ると、2013年時点では持家志向が多数派になる年収は「200~300万円未満」以上であったのに対し、現在は「500~700万円未満」以上となった。住宅価格の高騰に加え、世帯年収500万円未満の総世帯数に占める世帯主が70歳以上の世帯数は+16.0%の54.7%と急増しており、低・中間所得層で年金生活世帯が増加していることも要因と考えられる[図表4(上段)]。世帯構成別では夫婦と子供からなる世帯や夫婦のみの世帯では大きな動きはなかったのに対し、単独世帯は借家志向が+12.1%pt増加した[図表4(中段)]。家計を主に支える者の年齢別では50代以下で借家志向シフトがみられ、特に30歳未満で顕著である[図表4(下段)]。住宅価格が高騰する中でも既婚世帯では持家志向が根強い一方、世帯年収が低い傾向にある単独世帯で借家志向シフトが進んだ他、元来借家志向の傾向が強い高齢層の世帯数増加も全体の借家志向シフトの要因になっていると考えられる。

[図表4]世帯年収別(上段)、世帯構成別(中段)、家計を主に支える者の年齢別(下段)住み替え後居住形態の志向

データ出所:国土交通省「住生活総合調査」

「住宅プランの再考は50代から」が一般化

借家志向の世帯について、さらに借家の種類別に比較すると、二つの傾向が見られる。一つは、54歳以下の民営賃貸住宅志向の高まりで、給与住宅の減少に加え、持家との比較で借家志向に流れた世帯の増加が要因と考えられる。

もう一つは55歳以上の志向の多様化である。URや公社賃貸を志向する層が厚みを増しており、住宅費支出を削減しようとする動きが見られる他、60代以上の高齢者住宅・施設志向が増加した。また50代以上に見られる低所得者向けとされる公営住宅を志向している層は、老後資金の行き詰まりや先行き不安を示すものと考えられるがこれは減少している。55歳以上は住み替え意向が増加している層とも重なり、この時期から老後の資金計画や健康不安を念頭に入れて先々までの住宅プランを検討することが一般化しつつあると考えられる。

[図表5]家計を主に支える者の年齢別借家への住み替え後居住形態の志向

データ出所:国土交通省「住生活総合調査」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

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レポート作成協力:株式会社都市未来総合研究所 研究部

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