文字サイズ
この記事の概要
※「省エネ法」の正式名称は「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」ですが、本稿では「省エネ法」と略して記載させていただきます。
2022年6月の省エネ法と建築基準法の改正によって、2025年4月から新築住宅の省エネ性能について現行の省エネ基準適合が義務化されました。それまで適合を義務づけられていたのは非住宅、かつ300㎡以上の中規模・大規模建築物に限られていましたが、改正によって規模の大小を問わず、すべての新築住宅・非住宅が対象になります。
省エネ基準を示す物差しとして「断熱等性能等級」があり、現在は等級1から7までの7段階に分けられています。「等級4」以上の性能を有することが、現行の基準を満たすことになります。
(表1)住宅の断熱等性能等級(2025年4月現在)
実は、等級5〜7については2022年に新設されたもので、それまでは等級4が最高ランクでした。それが2025年からは最低限のランクとなったわけですから、いかに国が住宅の省エネ性能に力を入れているかが分かるかと思います。
耐震性能と違い、これまで省エネ性能は義務ではなかったので、ハウスメーカーやマンションデベロッパーなどが提供する分譲住宅の省エネ性能はまちまちでした。ただ、国は1980年、92年、99年、2013年、16年、22年と省エネ基準を高めており、それが誘導水準となって建築時期に応じて一定の省エネ性能を有しているかと思います。また、2000年には品確法(「住宅の品質確保の促進等に関する法律」)の施行によって「住宅性能表示制度」が創設され、断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級が必須評価項目に取り入れられ、その建物の省エネ性能について第三者に客観的にチェックされるしくみが整備されました。よって、あまりに省エネ性能の低い物件というのは少ないかと思います。
さて、2025年からの省エネ基準適合義務化によって、これからの新築住宅は価格がアップしていくのでしょうか。
等級4以上の省エネ性能を確保するために、断熱性・気密性を高めたり、給湯器やエアコンなど省エネ性能の高い設備機器を採用するなど、確かにコストはアップします。ただ現状、土地の仕入れに始まり、建材価格や人件費、円安によるエネルギー調達費など、すべての建設コストが高騰しており、近年住宅価格が上昇しているのは皆さんもご承知の通りです。住宅会社やデベロッパーは販売価格が高すぎて売れにくくなることを恐れていますから、省エネ性能のコストアップをそのまま価格に転嫁するということはないかと思います。ただコストダウンのために、設備や内装等の仕様やグレードを下げたり、専有面積をややコンパクトにすることで販売価格上昇を抑えるような対策を取ってくるはずなので、そのあたりの見極めが購入物件の検討や内見の際に重要になっていくかと思います。
今回の省エネ性能の新築の適合義務化によって、中古住宅の価値はどうなっていくと考えられるでしょうか。施行からまだ時間がたっておらず、現時点で中古住宅の物件価格に大きな変化は見られません。
ただ今後5年、10年と時間が経過するとともに、新築と中古住宅の取引価格に差が付くことは考えられます。耐震性能において、新耐震基準が制定された1981年を境に、それ以前の物件は「旧耐震(基準)物件」として人気や価格に大きな差が生じています。旧耐震物件は使えない住宅ローンが出てきたり、使えても住宅ローン減税が適用されないなどのハンデも存在します。売却の際も、旧耐震物件は査定価格が低めになる傾向にあります(築後40年以上たっていることが大きいわけですが…)。
ただ、省エネ性能は、開口部(窓やドア)の交換や室内外の断熱・気密リフォームなどで性能を高めることが可能です。ですので、2024年以前の中古住宅が2025年以降の物件と比べて著しく価値が下がることは少ないだろうと筆者は考えています。むしろ、リフォーム済み物件や買取再販物件などについては、今後リフォームで断熱性能を高めた中古物件が出てくることも考えられます。また、中古住宅購入とリフォームを一体的に行う「ワンストップ・サービス」についても、設備や内装を更新するだけの“お化粧リフォーム”でなく、きちんと省エネ性能を高めた性能向上リフォームが当たり前になっていくことを期待しています。
いずれにせよ、今後、住宅購入を検討する際は、こうした省エネ性能のチェックが欠かせなくなっていきます。そのひとつの確認方法として、「建築物の省エネ性能ラベル」を挙げておきましょう。その住宅または住棟について、エネルギー消費性能と断熱性能について★マークや数字で示されており、省エネ性能の把握や比較に有効です。
「省エネ性能ラベル」の例(既存住宅の住戸、第三者評価の表示例)
「万一の地震への備え」となる耐震性能と違い、省エネ性能は快適性(暑さ・寒さの緩和)、安全性(ヒートショックの防止)、経済性(光熱費の抑制)など、住まい手にとってベネフィットやメリットの大きい住宅性能ですので、資産価値の観点も含め、こうした性能本位での住まい選びを当たり前にしていきたいものです。
谷内 信彦(たにうち・のぶひこ)
建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上を主テーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)
※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※2025年6月26日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。
買主さま
成約インタビューVOL.4 愛知県瀬戸市在住 H様編 —物件・会社・担当者の対応...
2020/02/07
売主さま
成約インタビューVOL.3 大阪府大阪市北区在住 D様編 —直感通り、みずほ不動...
2019/01/17
成約インタビューVOL.3 東京都世田谷区在住 F様編 —相続した不動産の売却か...
2019/09/27