大都市と地方都市とでは投資的魅力に違いが
持ち家と違い、賃貸投資のための不動産物件購入は現在の住まいのあるエリアである必要はありません。地方在住の投資家が東京や大阪など大都市圏の物件を購入するケースは多々ありますし、逆に価格の割安さや高い利回り等を見込んで地方都市を投資対象に選ぶケースもごく当たり前の投資戦略の一つです。
本稿では主として、大都市圏として東京23区、大阪市、名古屋市の3市区と、地方都市として「地方4市」とも呼ばれる札幌市、仙台市、広島市、福岡市を中心に賃貸投資のマーケットや地域事情について確認していきます。
賃貸投資における、大都市圏と地方都市の一般的な市場特性の差異について整理してみました。
(表1)賃貸投資市場としての大都市部と地方部の市場特性の一例
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大都市圏(東京23区・大阪市・名古屋市など) |
地方都市(札幌市・仙台市・広島市・福岡市など) |
賃貸需要面 |
- ・就業・就学ニーズが強いため人口が多く、一定の賃貸ニーズを備える
- ・競合物件が多いため入居者獲得競争が激しく、さまざまな魅力付けや差別化が欠かせない
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- ・大都市ほど新規供給が多くなく、良質な物件であれば長期保有が可能
- ・エリアによっては人口の流出や地域経済停滞により、長期空室リスクが高いところも
- ・需要が企業や学校などへの依存度が高いため、景気変動の影響を受けやすい
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物件価格・資産性 |
- ・新築・中古含め、物件価格が高騰傾向にある
- ・将来の売却時も一定の需要が見込め、価格下落リスクが比較的小さい
- ・地価の上昇や都市再開発により、物件価格が上がる可能性も
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- ・物件価格が比較的安め
- ・戸建て空き家などの中古物件も比較的見つけやすい
- ・物件の流動性が低いため、売却時に値下がりするリスクがある
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利回り |
- ・物件価格が高い分、収益性が低めになる傾向も
- ・ただし賃料単価は地方都市より高め
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- ・物件価格が低めなことと賃料水準が相対的に高いことから、表面利回りが高め
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その他 |
- ・投資物件の担保評価が高く、融資を受けやすい
- ・近年海外投資家の購入対象として取引されており、物件価格の上昇圧力が強くなっている
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- ・1戸当たりの物件価格が低いため初期投資を抑えられ、初めての投資家でも参入しやすい
- ・オーナー数が限られるため、差別化戦略を立てやすい
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エリアや個々の物件特性、景気や社会状況などによって当てはまらない要素も当然あります。ただ一般的には、賃貸投資において「高額だが資産価値が安定している大都市部、初期コストが低くキャッシュフローを得やすい地方都市」といった位置づけや対比がなされています。
都市によってこれだけ違う物件価格や利回り
下図は全国主要都市のタイプ別の平均賃料を示したものです。どこも日本の主要都市でありながら、各都市と部屋の広さ・タイプによって賃料に相当の幅があることが分かるかと思います。
(図1)全国主要都市における賃貸マンション・アパートの平均家賃(面積帯別、2025年3月)

- 出所:アットホーム「2025年3月 全国主要都市における賃貸マンション・アパートの平均家賃(面積帯別)」
30㎡以下の物件については、4万2762円(札幌市)から9万9083円(東京23区)と2倍以上の開きがあります。さらに70㎡超のファミリー物件については、12万4338円(広島市)から37万3202円(東京23区)と、3倍以上に広がります。そうなると当然、賃貸投資用の物件も、地域によって価格の幅が生じます。同じワンルームマンション投資でも、投資スタイルと戦略が違ってくるわけです。
上図とエリア区分が違いますが、地域別の賃貸投資用物件の価格や利回り等について示したものが表2になります。
(表2)地域別 賃貸物件の利回りと価格(2024年平均)

これらの数字はあくまで平均値ですが、区分マンション1室について、長野や金沢といった信州・北陸であればおおむね500万円ほどの予算で賃貸不動産投資が始められ、逆に首都圏の一棟マンションなら2億円以上の出資や融資を見越す必要があります。このように、別の都市にも目を向けることで、同じ不動産投資でありながら選択肢が広がり、より多彩な戦略が検討できるわけです。
ちなみに各都市の人口について示しておくと、大都市圏はもちろん、今回確認している地方4市とも、この5年間の人口増減率がプラスとなっています(表3)。世帯数で見ても、核家族化が進むことで全国でも4.4%増加していますが、広島市を除いてそれより高い数字を示しています。つまり、日本の人口が減少傾向にある中、今なお人口流入・世帯数増加を果たしているわけで、不動産市場においても良好なマーケットとして成立しているエリアといえます。
(表3)全国主要都市の人口・世帯数

地域や都市によってニーズの強いタイプが存在する
先の表2は「区分マンション1室」「一棟アパート」「一棟マンション」による整理でしたが、今度は1室の広さや間取りなど、「タイプ別」に地域性を見ていきましょう。地域によって居住する世代構成は異なるため、求められる賃貸住宅のタイプにも需要の濃淡が存在します。
賃貸マンションについては、主に1室の専有面積を基本に、大きく「シングル(単身者向け、30㎡未満)」「コンパクト(夫婦など2〜3人程度向け、30㎡以上~60㎡未満)」「ファミリー(家族向け、60㎡以上~100㎡未満)」などに分類できます(他の方法もあります)。
地域別の住宅タイプの需要を推測するため、全国主要都市の借家についての延べ面積別の割合を表4にまとめてみました。
(表4)全国主要都市の借家住宅数と延べ面積別割合

数字では読み取りにくいかと思いますので、直感的に視認できるよう、各都市の広さの分布をグラフ化してみました。
(図2)全国主要都市の借家住宅の延べ面積別割合

- 出所:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」から抜粋して作成
札幌市を除いて、29㎡以下の比較的コンパクトな賃貸住宅の割合が全国平均より高く、都市部は全体的にワンルームマンションなどの単身者向け住宅の需要が高いことがうかがえます。札幌市は29㎡以下の割合が極端に低いものの30〜49㎡の住宅数が多く、単身者でも広めの物件に需要があるとも読み取れます。
一方ファミリー向け物件については、50㎡以上(図の黄色より右)の割合が全国平均より大きいのは名古屋市と広島市だけです。ただし、近年大都市圏の持ち家の価格が高騰しており、持ち家を諦めた(または購入の様子見)層からの賃貸ニーズが高まっており、大都市圏は他の都市より比較的狭めの物件もファミリー向けとして取引されていることが考えられます。
さて、最後に主要都市の「マンション賃料インデックス」をご紹介しておきます。これは、2009年の第1四半期の賃料を100とした場合の、その後の賃料変化の指数になります。現時点で最新データとなる24年第4四半期の数字を見ると、エリアだけでなく、タイプによって賃料の上昇幅が相当異なることがうかがえます。
(表5)主要都市「マンション賃料インデックス」(2024年第4四半期)※09年第1四半期=100

部屋タイプ:シングルタイプ18㎡以上30㎡未満、コンパクトタイプ30㎡以上60㎡未満、ファミリータイプ60㎡以上100㎡未満、総合18㎡以上100㎡未満
- 出所:「マンション賃料インデックス(アットホーム株式会社、株式会社三井住友トラスト基礎研究所)
このデータを見る限り、1つのエリアでもシングルよりファミリータイプの方が賃料の上昇率が高いことが分かります。ただし名古屋市だけは例外で、15年前の家賃と大きく変わっていません。とくにファミリー向け物件については15年前より2割近くも賃料がダウンしています。
(図3)東京23区の賃料インデックス推移(2009年〜24年)

- 出所:「マンション賃料インデックス(アットホーム株式会社、株式会社三井住友トラスト基礎研究所)
(図4)名古屋市の賃料インデックス推移(2009年〜24年)

- 出所:「マンション賃料インデックス(アットホーム株式会社、株式会社三井住友トラスト基礎研究所)
こうした名古屋市の賃貸市場における特殊事情として、持ち家志向が強いこと(特に戸建て住宅)、2LDK〜3LDKのファミリー向け賃貸タイプの供給が多いこと、名古屋市郊外の戸建て賃貸物件が広さ・賃料に優れ、都市部の需要を吸収していることなどが挙げられます。ただしこうした数字は、他のエリアよりも割安に投資物件を入手できる可能性も示唆しています。このように、地域需要の正確な捕捉も賃貸投資物件購入時の検討に欠かせません。
地域性を考慮し、広さや物件のタイプ、賃料や価格、利回りなど多彩な視点で検討していくことで、賃貸不動産投資の運用スタイルの幅は格段に広がります。投資物件の購入を検討する際はお住まいのエリアだけでなく、こうした全国の主要都市にも目を向けることで、よりご自分の運用スタイルに見合った投資物件が見つかることと思います。
- ※本稿で引用したデータは調査・公表元が複数あり、取り扱う賃貸物件の母数等に違い(ストック数ベース、成約数ベースなど)があることをお含み置きいただき、詳細については調査元の原典をご確認ください。