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物価上昇が賃貸収支に及ぼす影響New

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 4月号

この記事の概要

  • 物価上昇局面では賃貸費用が増加するため、賃貸収益が増加しなければ、賃貸純収益(NOI)は減少する
  • しかし、賃貸マンションにおける賃貸収益に占める賃貸費用の構成比率を実績値から25%と仮定すると、賃貸費用が10%増加しても賃貸収益が2.5%以上増加すれば、賃貸純収益(NOI)は維持もしくは増加する

物価上昇は賃貸費用の増加要因だが、他方、賃金上昇が賃貸収益の押し上げ要因にも

国内ではコロナ以降、物価上昇が顕著となっている。不動産賃貸事業では設備保守点検、清掃などの管理委託料や工事費(修繕費)の値上げ圧力に加え、電気料金の値上げもあり、賃貸収支を押し下げる要因となっている。他方、収益面では、東京都区部や主な政令指定都市※1では人口の転入超過基調を背景に入居者需要が堅調なことに加え、物価上昇をきっかけとした賃金上昇は賃貸マンション入居者の賃料負担力を向上させ、入居者入替え時の賃料値上げや更新時の増額改定を後押しする。その結果、賃貸収益の増加が費用増加を上回るケースもある。

J-REITが保有する賃貸マンションの運用実績データ※2によると、賃貸収益に占める賃貸費用(減価償却費除く)の構成比率は25%程度(賃貸収益100に対し賃貸費用25)である(コラム参照)。賃貸費用の構成比率が25%の場合、以下の算式のとおり、賃貸費用が10%増加しても賃貸収益が2.5%以上増加すれば、賃貸純収益(賃貸収益-賃貸費用。以下、NOI)は維持もしくは増加すると試算される。

  • ■賃貸収益 100-賃貸費用25=NOI 75
  • ■賃貸収益 102.5(2.5%増)-賃貸費用 27.5(10%増)=NOI 75

東京都心5区所在物件では賃貸費用が10%以上増加する中、賃貸収益も伸び、NOIは約5%増加

東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)、その他東京都(東京都から東京都心5区除く)、政令指定都市の別にJ-REITが保有する賃貸マンションの賃貸収益、賃貸費用、NOIの推移をみると※3[図表1]、賃貸費用の増加率(2018年下期~2024年上期。以下同じ。)はどのエリアも10%以上(11.2%、14.0%、14.4%)となっている。これに対し、賃貸収益の増加率は東京都心5区とその他東京都が6%台(6.3%、6.7%)、政令指定都市は1.0%である。どのエリアも賃貸費用の増加率が賃貸収益の増加率を大きく上回っているが、東京都心5区とその他東京都は、賃貸収益の増加率が相対的に高く、費用増をカバーしてNOIは増加(4.9%、4.2%)している。他方、政令指定都市は賃貸収益の増加率が相対的に低く、費用増をカバーできずNOIは減少(▲3.3%)している。

東京都心5区とその他東京都では、今後5年間において賃貸収益が過去並み(6%程度)※4で増加すれば、賃貸費用が20%増加しても、NOIは増加すると試算される。

  • ※1:東京都区部、札幌、仙台、さいたま、千葉、横浜、川崎、相模原、名古屋、大阪、福岡の各市は2018~2024年で転出超過が1回以下
  • ※2:住宅特化型REITのうち時価総額上位2投資法人を対象とし、賃貸収益、賃貸費用(管理委託料、水道光熱費、修繕費、その他費用(保険料、公租公課、その他))、賃貸純収益(NOI)の各データが分析期間(2018年上期~2024年上期)連続して得られる物件を抽出(学生マンションや高齢者向け住宅など賃料固定物件除く。)。物件数は東京都心5区92、その他東京都142、政令指定都市76
  • ※3:J-REITの決算は年2回のため入居者入替えが多い3月などを含む決算期とそれ以外の決算期で物件収支にばらつきがみられる可能性があり、2区間後方移動平均値を採用し平準化(図表1の2024年上期は2023年下期と2024年上期の平均。図表2、3も同じ。)。
  • ※4:2018年下期~2024年上期の増加率(6.3%、6.7%)は5.5年間の増加率のため、5年間に換算すると5.8%、6.1%となる。

[図表1]J-REITが保有する賃貸マンションにおける賃貸収益、賃貸費用、NOIの推移(2018年下期=100)

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

水道光熱費と修繕費は増加率が高いが賃貸収益に占める構成比率は小さく、NOIに対する影響はそれ程大きくない

賃貸費用変動の内訳をみると[図表2]、管理委託料の増加率(2018年下期~2024年上期。以下同じ。)は東京都心5区とその他東京都が8%台(8.2%、8.5%)、政令指定都市は3.9%となっており、東京都所在物件は管理委託料の値上げが浸透している可能性がある。

水道光熱費はどのエリアも減少→増加→減少のパターンで推移し、増加率は東京都心5区とその他東京都が20%台後半(27.6%、25.9%)、政令指定都市は8.6%となっている※5。変動要因としては、分析期間前半は各投資法人での照明LED化の推進や電気料金単価低下、その後はコロナ下での電気料金単価上昇、直近は電気・ガス価格激変緩和対策による電気料金の値引きが考えられる。

修繕費の増加率は東京都心5区が30.2%、その他東京都が58.0%、政令指定都市が74.9%とばらつきがあるが、工事発注量も影響するため一概に物価上昇(各種工事費の値上げ)の影響とは言えない。

水道光熱費と修繕費は増加率が高いが、コラムのとおり、賃貸収益に占める構成比率はそれぞれ1~2%程度、4~5%程度と小さく、NOIに対する影響はそれ程大きくないと捉えられる。

  • ※5:増加率の較差は電力会社によって単価が異なることが一因の可能性がある。

[図表2]J-REITが保有する賃貸マンションにおける賃貸費用(項目別)の推移(2018年下期=100)

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

賃貸マンションにおける賃貸収益に占める賃貸費用の構成比率

J-REITの賃貸マンション(対象物件は本文に同じ。)における賃貸収益に占める賃貸費用の構成比率※6は、東京都心5区所在物件の場合、22.8%であり[図表3の左]、その内訳は管理委託料9.0%、水道光熱費1.1%、修繕費4.1%、その他費用(保険料、公租公課、その他)8.6%となっている。その他東京都や政令指定都市の賃貸費用の構成比率は東京都心5区所在物件と比べて若干高く、それぞれ25.9%、25.5%であるが[図表3の中央および右]、賃貸費用の構成比率は東京都心5区を含め、どのエリアもおおむね25%程度と捉えられる。したがって、本文で例示したように、賃貸費用が10%程度増加しても、賃貸収益が2.5%程度以上増加すれば、NOIは維持もしくは増加することになる。

  • ※6:各エリアごとに総賃貸費用÷総賃貸収益として算出(内訳も同じ。)

[図表3] J-REITが保有する賃貸マンションにおける賃貸収益に占める賃貸費用の構成比率

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成協力:株式会社都市未来総合研究所 研究部

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