中古マンション購入の必須知識:マンション総合調査から見える重要チェックポイントNew

マンションを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第12回)

この記事の概要

  • マンション管理の実態を把握するため、国土交通省は「マンション総合調査」を5年ごとに行っています。先日2023年度の調査の結果が公表されたので、気になるポイントをピックアップするとともに、中古マンションを購入しようと考えている方が検討の際、チェックすべきポイントについてご紹介します。

中古マンション購入の必須知識:マンション総合調査から見える重要チェックポイント

分譲マンションのオーナーの半数は60歳代以上

1950年代から竣工数を増やし、今や約704.3万戸のストック数を誇る分譲マンション(2023年末時点)。うち、2割近い約136.9万戸が築40年以上の築古マンションですが、10年後の2033年末は274.3万戸と倍増、20年後の2043年末は463.8万戸と約3.4倍にまで増加する見込みです(国土交通省推計)。こうした築古ストックの急伸は、今後、適切な維持管理がマンションの資産価値をいっそう左右していくことを意味します。

1980年より、国土交通省は全国の管理組合や区分所有者を対象として、およそ5年に一度「マンション総合調査」を実施しています(1980年は「中高層共同住宅実態調査」として実施)。その最新調査が2023年に実施され、2024年6月に調査結果が公表されました。その結果をピックアップしていくと、高経年化が進む分譲マンションの管理面におけるさまざまな課題が浮かび上がってきました(以下、数字とグラフデータは原則「令和5年度マンション総合調査」からの引用になります)。

出典元:国土交通省 マンション総合調査

まず分譲マンションの世帯主の年齢ですが、60歳代以上が約53.7%と半数を超えています。20年前の2003年度の調査では31.7%でしたが、マンションの高経年化と共にマンションオーナーの年齢平均もスライドしている状況です。

(表1)世帯主の年齢

(表1)世帯主の年齢

(単位:%)

これを建物の完成年次別(築10年未満、築10年〜20年未満、築20年〜30年未満、築30年〜40年未満、築40年以上)の内訳でみると、竣工時期が古いマンションほどオーナーの高齢化が目立ちます。

(図1)世帯主の年齢(完成年次別)

(図1)世帯主の年齢(完成年次別)

世帯主が70歳以上の割合は、築10年以内のマンションでは7.4%ですが、築40年超のマンションだと55.9%にもなり、その差は一目瞭然です。20〜30歳代の頃に新築で購入した方が住み替えず、引き続き居住している状況がうかがえます。

こうした世帯主の高齢化は、加齢や病気などによって管理組合理事や役員のなり手が少なくなるだけでなく、将来世帯主の死去によって空室になる、相続などによる適切な承継が行われなくなる可能性があるなど、管理上のリスクにつながる恐れがあります。また、一部の方でしょうが、シニアの中には「自分が生きている間に問題なければそれでいい」と考える方もおり、マンション住人間の合意形成の支障の一要因になる可能性があります。例えば老朽化が進んだことで若い世代がマンションの建替えの検討を起案しても、「まだ使える」などと、意見の集約が難しくなる恐れがあります。

外からは見えにくいマンションの「空き家問題」

分譲マンションは世帯主が自己居住するだけでなく、いわゆる「分譲賃貸」として第三者に賃貸するケースもあります。賃貸住戸のあるマンションの割合は調査ごとに増加しており、今回77.8%となっています。うち、戸数割合が0%超~20%のマンションの割合は62.3%、20%超のマンションも15.5%あります。

(図2)賃貸戸数割合

(図2)賃貸戸数割合

これを築年別にみると、完成年次が古いマンションほど賃貸住戸がある割合が大きくなる傾向があることが分かります。

(図3)賃貸戸数割合(完成年次別)

(図3)賃貸戸数割合(完成年次別)

分譲マンションを賃貸物件として使用することは原則合法(管理組合規約などによる制約もあります)ですが、賃貸居住者がマンション内のルールをきちんと守らない、マンション内のコミュニティーが醸成されにくい(中には挨拶さえしない賃借人がいる恐れも)、世帯主が外部オーナーとなるため管理組合役員になりたがらない、管理組合総会の参加が減るなどのリスクもあります。少し前、空き部屋を旅行者に貸し出す「民泊問題」がクローズアップしたのは、皆さんもご存じかと思います。

また、区分所有部を3ヶ月以上空室にしている割合は今回34.0%と、約3分の1のマンションで空き室が発生しています。これも、築年が古いマンションほど割合が高くなることが分かっています。

(図4)空室戸数(3ヶ月以上)割合

(図4)空室戸数(3ヶ月以上)割合

(図5)空室戸数(3ヶ月以上)割合(完成年次別)

(図5)空室戸数(3ヶ月以上)割合(完成年次別)

空き室として長年放置し続けると、通風面や換気されないなどの理由から室内が荒れていくうえ、バルコニーが鳥のフンなどで汚れる、落ち葉が溜まって排水管が詰まるなど、他の住戸や共用部にまでマイナスの影響を及ぼしかねません。また、オーナーが管理費や修繕積立金を滞納する(誰しも使っていない費用を支払うことには抵抗があるものです)ケースもあり、健全な管理組合活動の阻害要因になりかねません。

それでも所有者と連絡がつけばまだ対処のしようもありますが、近年は空室のうち、所有者が不明・未連絡の戸数割合が増えている実態があります。今回のマンション総合調査では、所在不明・連絡先不通住戸のあるマンションが3.3%ありましたが、「回答なし」を除外しての割合であり、実際はもっと高い数値と考えられます。また、この割合は築年が古いマンションほど高くなっていきます。

(図6)空室のうち、所有者が不明・未連絡の戸数割合

(図6)空室のうち、所有者が不明・未連絡の戸数割合

(図7)空室のうち、所有者が不明・未連絡の戸数割合(完成年次別)

(図7)空室のうち、所有者が不明・未連絡の戸数割合(完成年次別)

一戸建てと違い、コンクリート造の集合住宅であるマンションは、外からでは空き家かどうかが判断しづらいものです。それだけに中古マンション購入の際は、こうした目に見えにくい点についても念入りにチェックしていく必要があるといえます。

将来の管理費や修繕積立金の値上げに要注意!

さて、マンションの性能と価値の維持のために欠かせないのが日頃の維持管理と定期的に実施する大規模修繕です。こうした維持管理のグランドデザインを司るのが「長期修繕計画」といえます。この長期修繕計画を作成しているマンションは88.4%と高いものの、決して全マンションではありません。

(図8)長期修繕計画の作成状況

(図8)長期修繕計画の作成状況

また、長期修繕計画に基づき、通常は修繕積立金が設定されますが、計画期間が25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定しているのは59.8%と約6割程度に留まっており、将来の大規模修繕の際に費用が不足する可能性が出てきます。

(図9)25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定している割合

(図9)25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定している割合

今回調査によると、月/戸当たりの修繕積立金の額の平均は1万3054円(駐車場使用料などからの充当額を含む総額平均は1万3378円)ですが、建物の築年によって設定された修繕積立金の額に差があることが分かりました。

(図10)月/戸当たり修繕積立金の額

(図10)月/戸当たり修繕積立金の額

(図11)月/戸当たり修繕積立金の額(完成年次別)

(図11)月/戸当たり修繕積立金の額(完成年次別)

築10年以内となる2015年以降のマンションの月/戸当たり修繕積立金の平均が、全体の平均を下回っています。これは、分譲時に意図的に修繕積立金を低く設定して販売した物件があるものと考えられ、将来管理費や修繕積立金の値上げが予想されます。築年が新しい物件は何かと安心に思うでしょうが、こうした落とし穴があることに気をつける必要があります。

その裏付けとなるのが、修繕積立金の「積立方式」です。当初から実際の修繕時期まで一定の金額を積み立てていくのが「均等積立方式」、一定期間ごとに段階的に値上げしていくのが「段階増額積立方式」と2つの方式があります。近年の分譲物件は購入者の初期費用を抑えるためか、段階増額積立方式を多く採用しています。

(図12)現在の修繕積立金の積立方式(完成年次別)

(図12)現在の修繕積立金の積立方式(完成年次別)

段階増額積立方式は将来の修繕積立金の増額を織り込んだ計画ともいえますが、実際の値上げに際しては総会での特別決議が必要であり、合意形成や成立に相当の時間がかかることが予想されます。

実際、計画上の修繕積立金の積立額に対し、実際の積立額が不足しているマンションは36.6%もあります。うち、不足の割合が20%超のマンションも11.7%あります。

(図13)長期修繕計画上と実際の修繕積立金積立額の差

(図13)長期修繕計画上と実際の修繕積立金積立額の差

このようなマンションは、将来の大規模修繕の実施時期が近づくと、不足額を補うために、修繕積立金の増額(値上げ)または一時負担金の設定などが必要になっていきます。どのような形になるにせよ、金銭的な負担が増加することは確実なので、住宅ローンなどの返済プランに織り込むなどの心づもりをしておくといいでしょう。

以上、マンション総合調査の注目点をピックアップしてみましたが、ご紹介したような数字は中古マンションの物件案内には通常出てこないものばかりです。長期修繕計画の有無や大規模修繕の実施時期、修繕積立金の現在額などは管理組合を通じて多くの場合、入手・閲覧可能ですが、世帯主の年代や空き室の発生状況、賃貸戸数の割合などはなかなかつかみにくいものです。こうしたリアルな管理状況の捕捉に、近隣の評判やクチコミも重要といえます。

マンション総合調査によると、マンション居住者の永住意識は60.4%。“終の棲家”としても使われる分譲マンションだけに、可能な限りの管理状況の確認を行ってください。

(図14)現在の永住意識

(図14)現在の永住意識

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※2024年10月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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