テーマ:マーケット

4極化へ向かう投資用マンション市場
~関心高まる資産運用~New

みずほ不動産販売 不動産ニュース 9月号

この記事の概要

  • 筆者は1981年から大京で約20年、そして資産運用会社を経て2003年より住宅コンサルタントとして約40年間、東京・名古屋・大阪エリアをメインに不動産業界をウォッチしてきました。経済状況が大きく変動する中、不動産業界もこの40年間で大きく変化を遂げてきました。バブル以降、印象に残っているマンション業界の動きについて述べてみたいと思います。
    (株式会社オフィス野中 代表取締役 野中清志)

都内の供給 バブル期の6割

専有面積が30㎡以下のいわゆるワンルームマンションが都内全体のマンション供給戸数に占める割合は、バブルのピーク時であった1990年、なんと46%もありました。つまり投資用ワンルームマンションの供給割合はファミリーマンションのそれに迫る勢いがあった訳です。

当時、マンション価格が上がり過ぎ、特にファミリー向けマンションがピークアウトする中で、主に節税を目的とする年収1,000万円以上の富裕層をターゲットとする不動産投資業界は依然好調に推移していた訳です。

1990年の東京都のマンション発売戸数

マンション総数 30㎡以下 30㎡以下のシェア
31,142戸 14,405戸 46.3%

データ出所:不動産経済研究所のデータより作成

しかし翌91年には面積が20㎡以下のマンションが都内でなんと2,400戸も供給されました。この背景にはワンルームマンション価格も高騰しつつあった中で面積の狭小化に伴う価格の圧縮→今の時代で言う「ステルス戦略」への転換がありました。

では時代の変遷によりマンションの供給エリアはどのように変化してきたのでしょうか。一般的にマンション業界には景気拡大、地価上昇、マンション価格の上昇に伴い供給エリアは都心から遠ざかり、逆に景気下降・地価下落期には都心回帰の様相を呈する傾向があります。それを踏まえ、投資系ワンルームマンションの20年前と現在を比較してみたいと思います。

都心と下町、シェア逆転

まず03年は年間の東京都における供給棟数は174棟(※)でした。そのうち千代田区、中央区、港区の都心3区の供給割合(棟数ベース)はなんと55棟(※)。つまり都内ワンルームマンションの約31%が都心3区エリアに供給された訳です。一方、下町の江東区、台東区、墨田区の3区の供給棟数はわずか5棟、全体の3%弱でした。

では20年後はどうでしょうか。22年の1~12月においては東京都全体で103棟(※)のワンルームマンションが供給されましたが、都心3区の物件はわずか3棟(※)のみ。逆に下町の江東区、台東区、墨田区の3区においては30棟が供給されました。つまりこの20年間で「都心と下町における供給シェアの逆転現象」が生じたと言えます。

それではワンルームマンション業界はなぜ都心から供給エリアが遠ざかったのでしょうか。その最たる要因はファミリーマンションと異なりワンルームマンション価格の構成要素が、地価・建築費はもとより、その物件からどの程度の収益が見込まれるのかという収益還元法、さらにその中のキャップレート(期待利回り)にあります。

キャップレートの低下は価格上昇を示します。しかしながらキャップレートの低下に(都心に近づく程キャップレートは低下傾向)賃料の上昇がついて来られず必然的に都心から遠くならざるを得ない状況となった訳です。さらにバブル期と違って自治体におけるワンルームマンションの専有面積規制の導入も影響を受けたと考えられます。

(※)不動産経済研究所調べ

コスト上昇し利回りは低下傾向

今から20年程前は、港区の白金辺りでも25㎡程度のワンルームマンションが3,000万円程度で供給できました。しかしこの間に地価・建築費共に2倍近くに上昇、その割に賃料が伸びておらず、必然的に利回りは低下傾向となり、いくら低金利と言っても持ち出し金額も大きく増えていると考えられます。

つまり都心で6,000万円以上のワンルームマンションが供給されるには、金融機関のローン評価、入居率の確保等を勘案すると高いハードルとなっていることが分かります。この水準となると明らかに若いサラリーマンには重い負担となり、資産運用のビジネスとしては成り立たない水準になった訳です。

その結果、借り手の付く一定の利回りで供給するには都心と比べて地価の安い下町エリアに供給をシフトせざるを得ない状況となった訳です。

ファミリーマンション業界においては、20年前も現在も都心エリアにおける供給水準は一定数とどまっています。例えば昨年は坪単価が2,000万円を超えるスーパー億ションで話題を呼んだ三田ガーデンヒルズを筆頭に、都心3区にも34棟供給されました。シェアに置き換えると、都内に供給された245棟のうち34棟と13.8%、一方、遡って03年を見ると794棟中89棟が都心3区の供給数で、シェアに置き換えると約11%でした。

つまりファミリーマンション業界は住宅ローンにおける超低金利、住宅ローン減税の拡充、相続対策層、パワーカップル層の台頭、更に金融・IT系勤務などの富裕層の増加、更に円安による外国人投資家の需要増大などの後押しを受け、大幅な価格上昇にも関わらず都心に供給できた訳です。ちなみに03年の東京都区部ファミリーマンションの平均価格は約4,400万円でした。これが23年には1億円を超えることになりました。

このようにファミリー系マンションと投資系マンションとでは、購入環境・目的・需要層の違いにより供給エリア及び値動きに大きな差異があった訳です。

この傾向は東京だけではなく、名古屋市の中区、東区、中村区、大阪市における北区、西区、中央区など、さらに福岡市の中央区、博多区などの中心エリアなどにおいても言える事です。では今後のマンション業界のマーケットはどのように推移していくかというと、ズバリ4極化の様相を呈していくと考えます。

今後有望な横浜、川口が供給増加か

第1極目は坪単価が1,000万円を優に超えるマンションが供給され、さらに超高級ホテル及び外資系企業が多く集積するまさに超都心エリア(六本木、麻布、赤坂、プラス銀座エリア等のタワーマンション)。この第1極目のエリアは新築のワンルームマンションは供給が極めて困難ですので、当該エリアの中古のワンルームマンションはその希少性から今後ますます「お宝状態化」になることが予想されます。

第2極目が渋谷・新宿・品川も含めた、いわゆる再開発が多くある都心エリア。特に渋谷エリアにおいてはワンルームの供給ハードルはかなり高いと考えられます。

第3極目は依然下町風情の雰囲気は残るものの駅周辺の再開発により不動産価格が上昇した、例えば押上、中野などのエリア。これらの駅近の商業地域における不動産価格はまさに準都心エリアと言っても過言ではありませんが、今後も一定の供給は期待できます。

第4極目がそのさらに周辺で、再開発等を伴わない下町等が該当します。

今後の動向としては、政府による国家戦略特区・都市再生緊急整備地域・MICE、さらに都心以外においても土地区画整理事業(例えば小田急線の登戸周辺エリア)、鉄道の高架事業が推進されるエリア(東上線の大山も含め、約10ヵ所前後のエリアで推進中)などにより街の資産価値のアップが期待されます。

今後安定的に供給が増えるエリアは首都圏では横浜・川崎エリア、西川口、川口エリアなどの可能性が高いです。特に横浜市はワンルームマンショの面積規制要件が比較的ゆるやかですので、供給サイドとしても「管理戸数が増える」というメリットが生まれます。

24年の春闘における賃金アップが顕在化・常態化する事、さらに法人による賃貸契約の需要増大により単身者向けの住宅需要が増大する可能性を秘めています。賃料が上がるという事は、収益還元法の視点からすると分譲価格の押し上げ要因ともなります。

世の中全体におけるNISA・iDeCoなどの後押しもあり、資産運用に対する関心を持つ方が大幅に増え、その入り口としてクラウドファンディングなども人気を博し投資用ワンルームマンションの潜在的顧客が年々増えています。特に20代30代の若年層を中心に販売は極めて好調で、23年3月期の決算状況も私がヒアリングした中でも過去最高益という会社も何社か見受けられました。

24年後半以降も新築・中古ワンルームにおける販売動向においては好調に推移するのではないかと見ています。

著者

株式会社オフィス野中 代表取締役 野中清志

「住宅新報」2024年6月18日号掲載「資産運用ビジネス特集」より転載

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