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一棟マンション/アパートは決してベテラン投資家向けの商品ではないNew

投資用不動産トピックス Vol.2

この記事の概要

  • 不動産投資における賃貸住宅の投資手法としては、マンションなどの住戸を一戸(室)単位で運用する「一戸投資」と、建物を一棟単位で購入し、運用する「一棟投資」に大別できます。投資の規模が大きくなるためか、一棟投資は高所得者やベテラン投資家の運用手法と思っている方も多いようですが、実は初めての賃貸不動産の投資対象としてもコンスタントに選ばれています。住宅を賃貸経営している不動産投資家のアンケートを基に、一棟マンション/アパート経営の投資的特性について再確認していきましょう。

一棟マンション/アパートは決してベテラン投資家向けの商品ではない

初めて取得した不動産投資物件、第1位は「一棟アパート」

私の周りで、不動産投資経験のないビジネスマンやそのご家族の方に「身近な賃貸投資といえば?」と尋ねると、「ワンルームマンション投資」など建物の区分所有一戸(室)を購入して賃貸に回す投資方法を挙げる方が大半です。

不動産投資としては費用が低めで手軽に開始できそうなこと、運用の手間が比較的少なそうなこと、利回りが定期預金などよりはるかに高いことなどの理由から、不動産投資に明るくない方でも比較的安心して手掛けられるイメージがあるようです。不動産投資の実用書や専門サイトなどでもワンルームマンション投資情報が多く提供されており、ビジネスマンの副業になどと喧伝されていたりもします。

その認識は決して間違いではありません。ただ、不動産投資ポータルの健美家が2023年に実施した投資家アンケートによると、不動産投資初心者が初めて購入した物件の第1位は「一棟アパート」であり、一室単位の「区分マンション」より上位に位置しているのです。

表1 不動産投資で最初に購入した物件

第1位 一棟アパート 34.4%
第2位 区分マンション 30.2%
第3位 戸建て賃貸 20.8%
第4位 一棟マンション 8.3%
第5位 事業用物件 2.6%
第6位 賃貸併用住宅 1.6%
その他 2.1%

出典:健美家「『不動産投資家』アンケート」(2023年3月、n=192)

「一棟マンション」の8.3%と合わせると、一棟タイプの合計が42.7%と4割以上を占め、賃貸不動産経営のスタンダードな投資スタイルとして支持されていることがうかがえます。さらに、一戸建て住宅をそのまま賃貸として貸し出す「戸建て賃貸」も20.8%と高く、区分マンションという「建物の一部」を購入しての運用でなく、むしろ一棟単位での賃貸投資を実践されている方の方が多いことが分かります。

「一棟投資」と「一戸投資」のメリット・リスクは表裏一体

一戸投資が区分マンションの1〜数戸(室)単位で賃貸経営していくのに対し、一棟投資はマンション/アパートを一棟単位でマネジメントし、管理戸数は数戸〜数十戸と多くなります。また、一戸投資は室内専有部のみが経営の対象になりますが、一棟投資は室内だけでなく、外装やエントランス、廊下など建物の共用部も取り扱う総合的な賃貸経営となります。

ここで今一度、一棟マンション/アパート経営のメリットとリスクについて整理してみましょう。特性は違いますが、一戸経営、一棟経営双方にそれぞれのメリットが存在します。一棟タイプについては、以下のようなメリットやリスク例が挙げられます。

表2 一棟マンション/アパート投資のメリットとリスク(マンション一戸投資との比較における)例

メリット例 リスク例
  • ・運用額が大きい分、一戸投資よりリターンが大きい
  • ・投資計画について、建物一棟全体でコストやリスクをコントロール(規模、費用、時期など)でき、経営上の自由度が高い
  • ・空室率の急激な低下が少なく、安定したキャッシュフローが見込める
  • ・土地も含めての所有となるため資産性が高い
  • ・規模や税務面などから、将来の相続前準備にも有効な不動産ストックといえる
  • ・高額の投資になる(多額の資金が必要、あるいはローン借入額が大きくなる)
  • ・管理が多岐にわたる
  • ・長期的なマネジメントが必要
  • ・建物の売却時、区分所有物件よりも時間がかかる

表2は一棟マンション/アパートの代表的なメリットとリスク例をまとめたものですが、これを裏返すとワンルームマンション投資など一戸経営のメリット/リスクになるといえます。すなわち、一棟マンション/アパート経営のリスクである「高額投資」⇒「比較的手軽に投資開始可能」、「管理が多岐」⇒「最小の管理で運用可能」など、一戸経営は気軽に取り組みやすい投資スタイルであることは確かで、冒頭の一般的な投資イメージとも合致します。

また一棟投資は、アパート/マンションという、建物の種別による特性の違いも存在します。

表3 一棟マンション/アパート経営の特性比較

一棟マンション 一棟アパート
物件調達コスト アパートより高め 比較的安め
住宅性能 アパートより高め 工法上マンションに劣る
維持管理費用 給排水設備やエレベーターなどの
設備があり、概して高め
設備が少ない分
マンションより低廉
設定賃料 アパートより高めに設定可能 マンションより低め
バリューアップ リフォームやデザインなどで
バリューアップさせやすい
建物の耐久上機能回復に限界があり、
一定のバリューアップに留まる
減価償却期間 47年(鉄筋コンクリート造) 22年(木造)
備考
  • ・中古でも資産性が高く、融資が受けられやすい
  • ・築古になっても比較的売却しやすい
  • ・一棟マンションより総投資額を抑えられる
  • ・固定資産税がマンションより低額

同じ一棟投資物件でも、RC造のマンションと木造のマンションとでは耐久性や住宅性能などに違いがあり、運用方法や収益性が違ってきます。簡単に比較すると、一棟アパートはマンションより調達しやすく、設備がシンプルな分維持管理費用も低いため高めの利回りを期待できる、ただし築年と共に資産価値が大きく低下していくので出口戦略が重要。対して一棟マンションは住宅性能が高いため調達コストがかかるが、高めの賃料を設定でき、また維持管理やリフォームによって資産価値が低下しにくい、といった区別ができるかと思います。

一棟マンション/アパートの最大のメリットは「安定的な経営」

このように一戸経営、一棟経営それぞれに独自のメリットが存在するわけですが、一棟マンション/アパート経営ならではのメリットとして「キャッシュフローの安定性」と「運用の自在性」が挙げられるかと思います(もちろん賃貸経営上の努力や工夫、必要な投資が前提になりますが)。

まず「安定性」ですが、一戸経営の場合、入居者が付けば即満室(入居率100%)となりますが、その方が退去すると次の入居者が決まるまで入居率が0になってしまい、その間1円の入金もなくなってしまいます。100か0のわけです。それに対し、一棟経営の場合、入居率100%の維持は難しいものの、1人の賃借人の退去でいきなりキャッシュフローが0になるわけではありません。管理戸数の多いことが投資上、一定のリスクヘッジにつながっていくわけです。

また「運用の自在性」としては、維持管理やバリューアップの時期や規模を自在にコントロールできる点が大きな魅力でありアドバンテージとなります。マンション/アパート問わず、すべての建物や設備は経年とともに劣化や陳腐化は避けられませんが、一棟経営であればそれらの実施時期を自在にコントロールできます。建物の老朽化によって周辺物件との競争力が衰えていくと賃料のダウンなどを迫られたりもしますが、建物の内外装全般のリニューアルによって競争力を回復・向上させることで、賃料アップさえ可能になります。しかも、その実施時期を部屋の稼働状況に応じて変化させたり、実施部位を一部/全部と自在に設定できたりするわけです。一戸経営だと室内のリニューアル期間中は賃料収入がありませんが、一棟経営なら一定のキャッシュフローを確保しつつ、空室が生じた部屋を一室単位でリニューアルさせていくことも可能なわけです。このように、一棟マンション/アパート経営は、一戸経営より戦略的なマネジメントが可能であり、利回りを高める、あるいは安定的に稼働させるなど、ご自身の投資スタイルに合った、より幅広い運用を実現できます。

予算規模やコントロール範囲などの面から、ワンルームマンションなどの一戸経営は不動産投資の入口として取り扱いやすいことは確かです。ただ一方で、物件規模は大きくなるものの、その安定性や運用の自在性に投資上の可能性と魅力を見出し、最初から一棟単位で賃貸経営されるオーナー(投資家)が大勢いることを、これから不動産投資を始めようと考える方にもぜひ知っておいてほしいものです。

一棟マンション/アパート投資を「高所得者やベテラン投資家の経営手法」などと決めつけないことで、不動産投資の選択肢がより幅広く多彩なものになるはずです。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年9月26日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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