- コロナ禍もあって、日々の生活をより質の高いものにするために、よりよい住環境を目指す動きが強まっているようです。では今、持ち家を手に入れたいと考える方は、どのような住まいを志向しているのでしょうか。リクルートが実施した「『住宅購入・建築検討者』調査」を基に、現在の住まい手がどのような家を求めているのかについて探ってみました。
*今回紹介の図表はすべてリクルート「『住宅購入・建築検討者』調査」(2023年12月調査)の公表データを基に作成しています。
若い世代は子どもや家族のため、シニア層は自分たちのために
住宅の物件価格が上昇傾向にある一方で、住宅ローンの金利は今なお低めであり、国の住宅支援制度もいろいろ用意されています。そんな中、持ち家取得を検討している方は現在の状況をどう捉えているのでしょう。リクルート系の「SUUMOリサーチセンター」は2019年から毎年「住宅購入・建築検討者」調査を実施しており、この公表結果をもとに、現在持ち家を検討している方のイメージ像を探っていきたいと思います。まずは、持ち家を手に入れたいと考える動機から探っていきましょう。
(図1)購入、建築、リフォームしようと思った理由 *複数回答、全体で10%以上の項目のみ抽出
持ち家を購入、建築、あるいは既に所有している持ち家をリフォームしようと思った理由については、「子どもや家族のため」「もっと広い家に住みたかった」「持ち家の方が自由に使えて気兼ねがない」がベスト3でした。これらが持ち家の入手または住み替えを希望する方の大きな動機となっています。
ただ、この結果は一次取得層(初めて持ち家を手に入れる方)と二次取得層(持ち家所有者の住み替え)とでは大きく違っています。一次取得層が「広さ」「自由で気兼ねない」「現在の家賃がもったいない」などの理由をより重視しているのに対し、二次取得層は「もっと新しい家に」「利便性の高さ」の意向がより強く、所有が目的というより、生活利便性のいっそうの向上を目指しての住み替えが中心となっているようです。
グラフには出ていませんが、他の目立った数字としては、年収が高い世帯ほど「新しい家」への志向が強い傾向がうかがえました。とくに年収が1200万円以上の世帯について、それ以下の世帯の倍近いポイント差がついており、高い年収を背景に、利便性の高い、新しく上質な空間に住みたいという意向がうかがえました。
世代別の傾向を見ると、20代や30代の若い世帯は「結婚を機に」(20代)だったり、「子どもや家族のため」(20代、30代とも)として持ち家を志向するなど、ライフステージや家族構成の変化に合わせて持ち家の取得を考えているようです。対して50代、60代のシニア層については、「老後の安心のため」が突出して高く、快適で健康的なシニアライフを目指しての住み替えの意識が高いようです。
不満や課題は住まいのタイプ別で異なる結果に
では、住まい手は現在の住宅にどのような不満を感じているのでしょうか。現在持ち家か賃貸かで回答に差異はありますが、共通していえることとして、住まい手は住宅性能やランニングコストに対するこだわりがあり、それらが現在の住まいの不満の要因になりやすいということです。
(図2)新居で解決したい元の住まいの課題 *複数回答、全体で10%以上の項目のみ抽出
現在の住まいに対する不満があり、新居で解決させたい課題としては、「住宅費がもったいない」「遮音性が低い」「収納が狭い」「間取りがよくない」が多くに挙げられました。他も併せて見てみると、住まいの不満は大きく「費用」「住宅性能・設備」「広さ・間取り」「生活利便性」「資産性」などに大別できるようです。持ち家を手に入れるにあたっては、こうした現状の不満を解決するとともに、生活合理性の向上を強く期待していることがうかがえます。
また、上記の調査結果を、現在の住まいのタイプ別で分類したのが下の表になります。
(表1)新居で解決したい元の住まいの課題(現在の住まい別) *複数回答
色帯の入ったセルは、全体の数値より5%以上プラスまたはマイナスの差異のある項目です。
こうしてみると、賃貸住まいの方は住宅費に対する意識がより強く、資産性へのこだわりが見て取れます。家賃として消費してしまうのはもったいなく、できれば持ち家という資産形成の手段として活かしたいという気持ちが強いようです。
ただ同じ賃貸でも、会社の寮や社宅、官舎の場合は、住宅手当や補助などが支給されているためか、費用面に対する不満はほとんど出ていません(ただし間取りや設備に対する不満は大きいようです)。また賃貸一戸建て住まいの方は狭さや間取り、庭のなさを課題と考えており、一戸建てといっても持ち家戸建てとはずいぶんと生活環境が違うことがうかがえます。
中古への抵抗感は薄れつつある模様
さて、では持ち家検討者はどのような住宅を志向しているのでしょう。建物の種別について、新築・中古別に分類し、検討した住宅のタイプをうかがった回答が下記の図3になります(複数回答)。
(図3)検討した住宅の種別 *複数回答
全体では「注文住宅」が一番多く、次いで「新築一戸建て」と「中古一戸建て」、「中古マンション」と「新築マンション」がほぼ同数という状況でした。持ち家の検討に際しては、まず一戸建てに着目する方がマンションより高い状況を示しています。
ただこれを一次取得層(初めての住宅購入)/二次取得層(住み替えなど)別に見ると、一次取得者層が新築志向が強いのに対し、二次取得者層は「注文住宅」「中古一戸建て」「中古マンション」「持ち家のリフォーム」の割合が高く、住み続け/住み替えの両面で検討していたり、戸建ては注文住宅、マンションは中古と志向が異なるなど、“終の棲家”を求めて各人の意向が多様化していることがうかがえます。
(図4)新築・中古意向 *単一回答
また、2023年の結果を見ると新築・中古へのこだわりについては、新築希望(「ぜったい」と「どちらかといえば」の合計)が63%、中古希望(同)が9%となりましたが、前年よりその割合がやや減少し、代わって「どちらでもよい」が増加していることがうかがえます。平均年収の低下や物件価格の高騰もあってか新築志向がやや薄れ、中古住宅についても以前ほど抵抗感が薄れているようです。ここには、リフォームやリノベーションで性能向上や自分たちの目指す空間を実現できることが認知されてきたことも大きいように思います。
ただ、こうした傾向には地域性もあるようです。例えば東海地方は「ぜったい新築」の割合が高く、首都圏と比べて12ポイントも高い数値を示しています。(図5)
(図5)新築・中古意向(エリア別) *単一回答
住宅の代表的な形態である一戸建てや集合住宅(マンション)へのこだわりはどうでしょうか。(図6)
「どちらかというと」も含めると、一戸建てを志向する方が58%、集合住宅希望は22%という結果となり、昔からの戸建て志向の強さがうかがえます。ただし2022年と比べるとその割合が減少しており、代わって「どちらでもよい」が増加しています。
(図6)一戸建て・集合住宅意向 *単一回答
今は住宅の買い時?
昨今、資材調達費や人件費高騰などの理由から住宅価格が上昇傾向にありますが、持ち家探しをしている方にとって、現在を買い時であるかどうか、どう捉えているのでしょう。
(図7)住宅購入検討者の考える住宅の買い時感の推移
2023年は住宅の買い時であると考えている割合は48%と、ほぼ半数になりました。2019年調査の54%には及びませんが、2020年以降微増傾向にあり、コロナ禍によっていったんしぼんだ住宅取得意欲が再び上昇していることの反映のように見えます。
(図8)現在を買い時だと思った理由
また、買い時だと思った理由については、一番は「これからは、住宅価格が上昇しそう」だからということで、45%と半数近くの住宅検討者が今後住宅価格が上昇していくと考えているようです。ただ現状の住宅価格については、28%と1/4強の方が「いまは、住宅価格がお手頃」とも捉えているようです。
また、「住宅ローンの金利が安い」(33%)、「いい物件が出ていそう」(30%)など、持ち家を手に入れる社会や市場環境も現在は揃っていると考えている方が多いようです。また、「住宅ローン減税が有利」(14%)、「相続税が有利」(7%)など、国の住宅取得支援についての政策を一定評価されているようにうかがえます。
また、住宅購入検討者の属性による意識の差について、回答者の年代や世帯年収別に確認しました。
(図9)住宅購入検討者の考える住宅の買い時感(年代別)
年代別で見ると、若い世代ほど現在を買い時だと考えており、20代で57%、30代で51%と過半数に達している反面、50代は39%、60代は37%と低い数字と結果が分かれました。
また、世帯年収別で見ると、買い時だと考える割合が50%以上だったのは、「400〜600万円未満」「600〜800万円未満」「800~1000万円未満」「1000〜1200万円未満」「2000万円以上」で、400万円未満の世帯は概して低めでした。一方、2000万円以上の世帯は、「とてもそう(買い時だと)思う」が27%と飛び抜けて高く、高額所得者ほど現況を買い時だと考えているようです。
(図10)住宅購入検討者の考える住宅の買い時感(年収別)
住まい方が多様化することで選択肢も広がる
アンケート全体を通じて感じることは、新築志向は依然強いものの、中古への抵抗感も薄れてきたことと、一戸建て/マンションのボーダーも曖昧になってきており、その結果、住まいの選択肢が多様になっているということです。かつて「賃貸住まい⇒中古マンション⇒新築一戸建て」といった“住宅すごろく”なるものが存在しましたが、マンションを終の棲家にする方も増え、こうしたストーリーは当てはまらなくなりました。
また、以前より「住み替え」の動きが強まっていることも本調査からも感じられました。持ち家を手に入れたらにそこに一生住み続けるのでなく、年齢や家族数などライフステージの変化に応じて柔軟に住まいを替える事も、これからもっとポピュラーになっていくように思います。そのためには所有して終わりでなく、しっかりとメンテナンスしていくことで資産価値を維持・向上させていく意識も必要でしょう。
以上、調査データから現在の持ち家を手に入れたいと考える住まい手の意識についてかいつまんで紹介しましたが、参考になりましたでしょうか。より詳しく知りたいという方は、下記のサイトをご参照ください。
リクルート「住宅購入・建築検討者」調査(2023年)