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コロナ発生以降の東京都における賃貸マンションの運用実態

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 7月号

この記事の概要

  • J-REITが東京都に保有する賃貸マンションの運用実績データによると、
    • 稼働率はコロナ禍で低下したが、おおむね2022年から上昇に転じ、2023年下期はコロナ前の水準に近づく
    • 賃料単価は、ワンルーム、コンパクトタイプ、ファミリータイプのいずれもコロナ前の水準を上回る

コロナ発生以降の東京都における賃貸マンションの運用実態を把握するため、J-REITが東京都に保有する賃貸マンションの運用実績データ※1を用いて、エリア別(都心5区※2および都心5区を除く東京都(以下、その他東京都という。))、住戸タイプ別(ワンルーム、コンパクトタイプ、ファミリータイプ※3)に稼働率と賃料単価(賃貸借契約中の住戸を対象に集計。以下、文中では省略。図表では「稼働ベース」と記載)の動向を概観する。

稼働率は大半のエリア・住戸タイプが2022年から上昇に転じ、2023年下期はコロナ前の水準に近づく

東京都では、コロナ発生の翌期2020年下期から2021年下期にかけて、都心部を中心に賃貸マンションの稼働率が大幅低下した※1[図表1]。大幅低下の要因としては、移動制限とテレワーク進展を背景とした地方からの転勤者の減少、コロナ不況業種(飲食、宿泊、娯楽、小売など外出自粛の影響を受けた業種)を中心とした雇用環境悪化による賃料が安価な物件への転居、オンライン授業進展による学生の上京見合わせや実家に戻る動きなどで需要が大きく減退したことが挙げられる。特に転勤者減少やコロナ不況業種の従業者退去の影響が大きいと考えられる都心部は稼働率が大幅低下した。また、テレワーク進展で都心から郊外へ引っ越す動きが一部に生じたことも都心部の稼働率低下に作用したと考えられる。住戸タイプでは、都心5区、その他東京都を総じてみると、ワンルームの稼働率の低下幅が大きく、学生の需要減退のほか、コロナ不況業種は単身の従業者が相応にいて転居が増えたことなどが要因となった可能性がある。

しかし、これら稼働率の低下要因はコロナ禍からの経済社会活動の正常化に伴い徐々に弱まり、大半の区分で2022年上期以降、稼働率は急回復に転じた。エリア・住戸タイプ別にコロナ禍(コロナ発生以降で最も稼働率が低下した時期)、現在(2023年下期)の稼働率をコロナ前(2019年下期)と比較すると[図表2]、都心5区では、ワンルームとコンパクトタイプはコロナ禍で稼働率が▲3%pt近く低下したが、現在はコロナ前から▲0.4%pt、▲0.6%ptまで低下幅が縮小した。ファミリータイプはコロナ禍で▲2.0%pt低下したが、現在はプラスに転じた。その他東京都では、ワンルームはコロナ禍で稼働率が▲1.9%pt低下したが、現在はコロナ前から▲0.3%ptまで低下幅が縮小、コンパクトタイプはコロナ禍で稼働率が▲1.2%pt低下したが、現在はコロナ前とほぼ同水準(▲0.1%pt)に回復した。ファミリータイプは稼働率の大きな変動はなく、コロナの大きな影響はみられない。なお、ファミリータイプとコンパクトタイプに関しては、都心部を中心とした分譲マンションの供給減少と分譲・中古マンション価格の高騰によって賃貸マンションを選択する層が増加し稼働率を押し上げる要因となっている可能性がある。

  1. ※1:分析期間において稼働率データが連続して得られる物件、賃料単価データが連続して得られる物件対象(マスターリース会社が賃料保証し稼働率が分析期間中100%の物件除く。)。なお、J-REITの保有マンションは一定の競争力を持った物件と考えられる。
  2. ※2:千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区
  3. ※3:タイプはおおよその専有面積で区分(ワンルーム:30㎡以下、コンパクト:30㎡超60㎡以下、ファミリー:60㎡超)

[図表1]J-REITの賃貸マンション稼働率

[図表1]J-REITの賃貸マンション稼働率

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

[図表2]コロナ禍および現在の稼働率とコロナ前の差

[図表2]コロナ禍および現在の稼働率とコロナ前の差

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

賃料単価は、ワンルーム、コンパクトタイプ、ファミリータイプのいずれもコロナ前の水準を上回る

賃料単価に関しては、ワンルームはコロナ禍でやや低下しその後上昇に転じたが、コンパクトタイプとファミリータイプはコロナ発生以降も継続して上昇基調で推移している[図表3、4]。エリア・住戸タイプ別に現在(2023年下期)の賃料単価をコロナ前(2019年下期=100)と比較すると[図表4]、都心5区では、ワンルームが101.0、コンパクトタイプが103.2、ファミリータイプが106.5、その他東京都では、ワンルームが101.2、コンパクトタイプが102.6、ファミリータイプが104.6と、コロナ禍で賃料単価が低下したワンルームを含め、すべてのエリア・住戸タイプでコロナ前を上回る。賃料は入居者の入替えのタイミングと賃貸借契約更新のタイミングで変動し、J-REIT事例では、2023年下期において入替え住戸の6割強で増額、更新住戸の1割程度で増額改定されている事例がみられる※4

  • ※4:住宅特化型REITの賃料増減額実績(2投資法人の例示。2023年下期決算。両投資法人とも東京都以外の物件を保有するが、東京23区の割合は9割程度):事例①入替え時の増額戸数割合64.9%、減額戸数割合22.4%、更新時の増額戸数割合8.8%、減額戸数割合0.0%、事例②入替え時の増額戸数割合67.4%、減額戸数割合19.6%、更新時の増額戸数割合11.8%、減額戸数割合0.0%

[図表3]J-REITの賃貸マンション賃料単価(稼働ベース)

[図表3]J-REITの賃貸マンション賃料単価(稼働ベース)

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

[図表4]2019年下期=100とした場合の賃料単価推移

[図表4]2019年下期=100とした場合の賃料単価推移

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

札幌市、仙台市、名古屋市、大阪市、福岡市におけるコロナ発生以降の賃貸マンションの運用実態

J-REITが東京圏以外の主な政令指定都市(札幌市、仙台市、名古屋市、大阪市、福岡市)に保有する賃貸マンションにおけるコロナ発生以降の稼働率と賃料単価※1の動向は以下のとおり

稼働率

稼働率がコロナ禍で低下し、その後上昇に転じた時期は、仙台市が最も早く2021年上期、札幌市と名古屋市は2021年下期、大阪市は遅れて2022年下期であった。福岡市はコロナ禍で稼働率の低下がほとんどみられず、加えて2022年上期から稼働率が上昇に転じ堅調さが目立つ。現在(2023年下期)の稼働率をコロナ前(2019年下期)と比較すると、札幌市(+1.3%pt)、仙台市(+1.1%pt)、福岡市(+0.9%pt)、名古屋市(+0.3%pt)の4市がコロナ前を上回る。大阪市は▲0.2%ptとコロナ前を下回るが、ほぼ同水準まで回復している。

賃料単価

現在(2023年下期)の賃料単価をコロナ前(2019年下期=100)と比較すると、福岡市(101.9)と札幌市(100.6)はコロナ前を上回り、特に福岡市の堅調さが目立つ。大阪市はコロナ禍での変動が小さく、コロナ前と同水準(100.0)、仙台市(99.1)と名古屋市(98.5)はコロナ前を下回る。仙台市は稼働率が上昇に転じた時期は早いが賃料単価はしばらく低下基調で推移しており、稼働優先で賃料単価を抑制する戦略を取る傾向が強かった可能性が考えられる。

[図表5]J-REITの賃貸マンション稼働率

[図表5]J-REITの賃貸マンション稼働率

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

[図表6]J-REITの賃貸マンション賃料単価(稼働ベース)(2019年下期=100)

[図表6]J-REITの賃貸マンション賃料単価(稼働ベース)(2019年下期=100)

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成協力:株式会社都市未来総合研究所 研究部

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