今改めて考えたい、住まいの耐震性

住まいのかたち Vol.6

この記事の概要

  • 「地震大国」といわれるように、日本では定期的に大きな地震に見舞われています。今年(2024年)も元旦に「令和6年能登半島地震」が発生し、今後も数年は余震が続くとされています。万一の災害への備えとして、住宅の耐震性はどの程度あれば安全・安心に暮らせるのでしょうか。中古の戸建て住宅を選ぶ際の検討方法も交えて、これからの住まいに欠かせない耐震性についてご紹介しましょう。

今改めて考えたい、住まいの耐震性

日本に安全なエリアは存在しない!?

1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災を例に出すまでもなく、日本各地で定期的に大型地震が発生しています。2024年に入っても、元旦にマグニチュード7.6、最大震度7の「令和6年能登半島地震」が発生し、6月には同じエリアで余震と見られる最大震度5の地震が発生しました。

(図1)1872年から2019年までに発生した主な被害地震の震央と陸域の活断層

(図1)1872年から2019年までに発生した主な被害地震の震央と陸域の活断層

出典:国土地理院「1:25,000 活断層図(都市圏活断層図)利用の手引」

北海道から九州まで、まさに全国各地で震災は発生します。地震が怖いのは、家族の命と財産が直接的に脅かされるためでしょう。いつ起きるか事前に予測できないことも、不安に駆られる一因です。これまで築いてきた生活を一瞬にして失わないためにも、安全性を担保する建物の耐震性は不可欠な住宅性能といえます。

「新耐震基準」の建物でも決して安心できない

その耐震性ですが、国の基準は大きな震災が発生する度に見直され、基準が強化されていきました。とくに大きな見直しが1981年と2000年に行われましたが、1981年の見直しは宮城県沖地震(1978年)を、2000年の見直しは阪神・淡路大震災(1995)を契機に新たな基準が制定されたものです。

こうした経緯から、現在の住宅を耐震性で見ると大きく、以下の3つに分類できます。

(図2)住宅の築年別による耐震性の分類

(図2)住宅の築年別による耐震性の分類

*日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)資料を基に筆者作成

建築基準法上では、1981年の改正以前の住宅は「旧耐震基準」、1981年から2000年までの木造住宅は「新耐震基準」、2000年以降は「現行耐震基準」と呼んで区別しています。現状、旧耐震基準の住宅は大地震で倒壊する危険性が高く、新耐震基準も倒壊などのリスクがあり注意が必要なレベルとされています。

ただ、不動産仲介市場では、中古住宅について、「1981年以前か、以降か」を大きな基準として売買されています。というのも、旧耐震基準の中古物件については、耐震性が十分でないことから、住宅ローンの審査が通らない、住宅ローン控除などの優遇措置を受けられないなど、デメリットが存在するためです。新耐震基準と現行耐震基準については、売買時の価格差となって現れることがありますが、優遇措置などについて現状明確な取り扱い上の差はなく、こうした実用性から2つの区分で運用されています。

また、建築基準法の基準とは別に、2000年に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づき、「耐震等級」が新たに制定されました。耐震等級は「等級1」から「等級3」までの3ランクに分類されています。

(図3)品確法に基づく3つの耐震等級

(図3)品確法に基づく3つの耐震等級

*国土交通省資料を基に筆者作成

「等級1」は、建築基準法で2000年に改定された、現行耐震基準を満たすレベルです。「震度6強から7程度の、数百年に一度程度の地震に対しても即時倒壊や崩壊はしない」強さとされていますが、大地震の際には大きな損傷が出ることもあり、最低限命を守るレベルともいえます。「等級2」は、等級1の1.25倍の強さ、「等級3」は等級1の1.5倍の耐震性を持つものとされています。

この等級の取得は義務ではありませんが、等級が高いと住宅ローン金利や地震保険が割安になる等メリットがあります。なによりご家族の安全・安心が大きなものになります。等級が高いほど建物は強固になり、地震被害のリスクも減少していきますから、予算の許す限り2000年以降の物件を選んだ方がよいということになります。2000年に制定された基準のため、1981から2000年の新耐震基準の建物についてはほぼ認定されていませんが、概ね耐震等級1か、それ未満の耐震性と考えられます。

ただ、築年が古い住宅でも、基礎や構造部などを強化する耐震リフォームによって、耐震性能を高めることができます。国も住宅の耐震化を積極支援しており、耐震改修の実施による所得税の控除や固定資産税の減額など、さまざまな減税制度が用意されています。

耐震性から見る中古戸建て選びのチェックポイント

では、中古の戸建て住宅を選ぶ場合、耐震性に関してどのように検討していけばよいでしょうか。

まず、旧耐震基準(1981年5月以前以前)の戸建て住宅を候補に入れる場合は、なるべく耐震改修が実施されている物件を選びたいところです。最近流行りの「買取再販物件」「リノベーション物件」はローン設定の関係もあって、耐震改修がなされているはずです。

耐震改修がなされておらず、新築当時の性能のままの物件については、長期使用のためにも耐震診断を行い、必要な耐震改修を行いましょう。耐震診断は、ほぼすべての自治体経由で無料または少額で受けられるので、可能であれば物件購入前に耐震診断を行い、現状の耐震性を確認することが望ましいといえます。

新耐震基準(1981年6月〜2000年5月)の中古物件については、一定の耐震性があるとされていますが、雨漏りや蟻害(シロアリ被害)などによる劣化や性能低下がないかのチェックは必要です。2018年以降、中古住宅の売買時に「インスペクション(建物現況調査)の実施の有無」の説明が義務化(「説明」の義務化であって、「インスペクション実施」の義務化でないことに注意!)されたので、インスペクション実施済みの物件を中心に検討していくのも1つの手です。残念ながら、自治体の耐震診断支援の対象はほとんどが旧耐震基準の建物のみなので、耐震性をチェックするのであれば自費で耐震診断かインスペクションを実施することになりますが、物件によっては自費でも実施する価値があるかと思います。

そして、現行基準(2000年6月以降)の物件については、耐震性については概ね安心ですが、コンディションはきちんと確認しましょう。インスペクションの重要性は新耐震基準の物件と同様です。耐震等級1より2、2より3の方がより安心なのは言うまでもありません。ちなみに現在、「長期優良住宅」は耐震等級2以上であることが必須要件ですが、2030年にこれを耐震等級3以上にアップさせることが検討されており、等級3が決して特別なものではないことをご理解ください。

ところで、親の古い住まいを相続する場合や、既に住んでいる旧耐震基準の建物の耐震性を高めたい場合、どこまで性能アップさせればよいものでしょうか。

(表1)耐震改修工事費の目安(木造2階建ての場合)

建物の延べ面積 75㎡ 100㎡ 125㎡ 150㎡ 175㎡ 200㎡
耐震改修工事費の目安 150万円 180万円 200万円 230万円 270万円 280万円

出典:(一財)日本建築防災協会「耐震改修工事費用の目安」(2020)

*耐震改修工事費用は建物の規模や形状、築年数、状態や工事の条件などにより異なるため、費用の目安を知るための参考とお考えください

引き続き長く住み続けていく場合は新耐震基準に合致した耐震性能の獲得を目指しますが、シニアのリフォームなど、あと10〜20年程度安心して暮らせるためであれば、既に築40年以上経っている建物ですから、費用対効果の面からするとそこまでの性能アップは必要ないケースもあるかと思います。ただ、大地震の際、たとえ建物は最終的に倒壊したとしても、家族が建物外部に逃げられる時間を確保するだけの耐震性は確保してください。

(表2)建物の築年別耐震改修の目標性能の考え方(一例)

建物の築年* 現行の耐震性 今後確保したい具体の耐震性能
~1981年(5月) 旧耐震基準であり、
「既存不適格」の状態にある
(今後長期にわたって住み続ける場合)
耐震リフォームによって「新耐震基準」までの耐震性を確保したい
(今後の使用予定期間が10~20年程度以内の場合)
現行基準に適合しなくても、予算に応じてできる限り耐震性を高めておきたい
1981(6月)~
2000年(5月)
新耐震基準であるが、現行耐震基準を満たしていない 現行の耐震基準を満たすための耐震リフォームをおすすめ
2000(6月)~ 現行耐震基準を満たしている
(耐震等級1~3)
そのままでも問題ないが、今後長期優良住宅の仕様やZEH化させる場合、耐震等級2~3レベルの耐震性向上を目指したい

(*)基準となる建物の築年は竣工日でなく、「建築確認の受理日」となります。そのため、1981年竣工であっても、旧耐震基準の建物が存在することに留意ください。

*筆者作成。「今後確保した具体の耐震性能」は、リフォーム事業者へのヒアリングを通じての筆者の提言であり、国の見解ではありません。実際の耐震改修に際しては施工する事業者とよく相談してください。

断熱などの省エネ性と違い、耐震性は「寒さが解消される」「光熱費が安くなる」などのメリットが実感しにくい性能ではあります。しかし建物と家族の命、財産を守るという、安全・安心感が高まることは大きなメリットに違いなく、住まい選びの際に意識していただきたいところです。

執筆

谷内 信彦(たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年6月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。