耐震性から見る中古戸建て選びのチェックポイント
では、中古の戸建て住宅を選ぶ場合、耐震性に関してどのように検討していけばよいでしょうか。
まず、旧耐震基準(1981年5月以前以前)の戸建て住宅を候補に入れる場合は、なるべく耐震改修が実施されている物件を選びたいところです。最近流行りの「買取再販物件」「リノベーション物件」はローン設定の関係もあって、耐震改修がなされているはずです。
耐震改修がなされておらず、新築当時の性能のままの物件については、長期使用のためにも耐震診断を行い、必要な耐震改修を行いましょう。耐震診断は、ほぼすべての自治体経由で無料または少額で受けられるので、可能であれば物件購入前に耐震診断を行い、現状の耐震性を確認することが望ましいといえます。
新耐震基準(1981年6月〜2000年5月)の中古物件については、一定の耐震性があるとされていますが、雨漏りや蟻害(シロアリ被害)などによる劣化や性能低下がないかのチェックは必要です。2018年以降、中古住宅の売買時に「インスペクション(建物現況調査)の実施の有無」の説明が義務化(「説明」の義務化であって、「インスペクション実施」の義務化でないことに注意!)されたので、インスペクション実施済みの物件を中心に検討していくのも1つの手です。残念ながら、自治体の耐震診断支援の対象はほとんどが旧耐震基準の建物のみなので、耐震性をチェックするのであれば自費で耐震診断かインスペクションを実施することになりますが、物件によっては自費でも実施する価値があるかと思います。
そして、現行基準(2000年6月以降)の物件については、耐震性については概ね安心ですが、コンディションはきちんと確認しましょう。インスペクションの重要性は新耐震基準の物件と同様です。耐震等級1より2、2より3の方がより安心なのは言うまでもありません。ちなみに現在、「長期優良住宅」は耐震等級2以上であることが必須要件ですが、2030年にこれを耐震等級3以上にアップさせることが検討されており、等級3が決して特別なものではないことをご理解ください。
ところで、親の古い住まいを相続する場合や、既に住んでいる旧耐震基準の建物の耐震性を高めたい場合、どこまで性能アップさせればよいものでしょうか。
(表1)耐震改修工事費の目安(木造2階建ての場合)
建物の延べ面積 |
75㎡ |
100㎡ |
125㎡ |
150㎡ |
175㎡ |
200㎡ |
耐震改修工事費の目安 |
150万円 |
180万円 |
200万円 |
230万円 |
270万円 |
280万円 |
出典:(一財)日本建築防災協会「耐震改修工事費用の目安」(2020)
*耐震改修工事費用は建物の規模や形状、築年数、状態や工事の条件などにより異なるため、費用の目安を知るための参考とお考えください
引き続き長く住み続けていく場合は新耐震基準に合致した耐震性能の獲得を目指しますが、シニアのリフォームなど、あと10〜20年程度安心して暮らせるためであれば、既に築40年以上経っている建物ですから、費用対効果の面からするとそこまでの性能アップは必要ないケースもあるかと思います。ただ、大地震の際、たとえ建物は最終的に倒壊したとしても、家族が建物外部に逃げられる時間を確保するだけの耐震性は確保してください。
(表2)建物の築年別耐震改修の目標性能の考え方(一例)
建物の築年* |
現行の耐震性 |
今後確保したい具体の耐震性能 |
~1981年(5月) |
旧耐震基準であり、
「既存不適格」の状態にある |
(今後長期にわたって住み続ける場合)
耐震リフォームによって「新耐震基準」までの耐震性を確保したい |
(今後の使用予定期間が10~20年程度以内の場合)
現行基準に適合しなくても、予算に応じてできる限り耐震性を高めておきたい |
1981(6月)~
2000年(5月) |
新耐震基準であるが、現行耐震基準を満たしていない |
現行の耐震基準を満たすための耐震リフォームをおすすめ |
2000(6月)~ |
現行耐震基準を満たしている
(耐震等級1~3) |
そのままでも問題ないが、今後長期優良住宅の仕様やZEH化させる場合、耐震等級2~3レベルの耐震性向上を目指したい |
(*)基準となる建物の築年は竣工日でなく、「建築確認の受理日」となります。そのため、1981年竣工であっても、旧耐震基準の建物が存在することに留意ください。
*筆者作成。「今後確保した具体の耐震性能」は、リフォーム事業者へのヒアリングを通じての筆者の提言であり、国の見解ではありません。実際の耐震改修に際しては施工する事業者とよく相談してください。
断熱などの省エネ性と違い、耐震性は「寒さが解消される」「光熱費が安くなる」などのメリットが実感しにくい性能ではあります。しかし建物と家族の命、財産を守るという、安全・安心感が高まることは大きなメリットに違いなく、住まい選びの際に意識していただきたいところです。