市場に出回る中古マンション数は前年比で27ヵ月連続増加
コロナ禍によって移動の制限を大きく受けたなどの理由から、2020年は中古住宅の不動産市場流通数や成約数は落ち込みましたが、翌年以降、社会の落ち着きとともに再び活性化していきました。とくに新型コロナウイルス感染症が2類から5類へと緩和された2023年5月以降は、人びとの住宅取得意欲も旺盛になり、コロナ前の状況へと戻りつつあります。
(図1)首都圏の中古マンション成約件数推移(2014年〜2023年)

*(公財)東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」データを基に筆者作成
首都圏では、2023年の中古マンションの成約件数は3万5987件で、2年ぶりに前年を上回りました(前年比1.6%増)。本稿作成時点の最新データである2024年4月単月では、中古マンションの成約件数は3251件でしたが、前年比ベースで11ヵ月連続で増加しています。
成約数や成約率がアップすると、市場に出回る中古マンション数(在庫数)が減るようにも思えますが、実は在庫数は増加傾向にあります。
(図2)首都圏の中古マンション在庫数推移(2013年〜2024年3月)

*(公財)東日本不動産流通機構「REINS TOPIC 首都圏中古マンション・中古戸建住宅 長期動向グラフ【2013年4月~2024年3月】」を基に筆者作成
2020年、コロナ禍の影響で在庫数は一時大きく減少しましたが、21年6月あたりから在庫数が回復していき、現在増加傾向にあることが分かります。上のグラフは純粋な在庫数ですが、これを前年比ベースで見ると、実は2022年2月から27ヵ月連続でプラスしているのです。
成約数はアップしつつもまだまだ在庫数は多く、中古マンション市場全体で見ると住まい選びの選択肢は依然広い状況にあるといえます。
どんなエリア・価格帯の物件に在庫が増えているのか
首都圏全体としては在庫数が増加していますが、地域や物件特性によって在庫数の多寡は当然あるはずです。そこでまず、1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の在庫数の推移を個別に確認してみました。
(図3)首都圏1都3県の中古マンション在庫数推移(2013年〜2024年3月)

*(公財)東日本不動産流通機構「月例マーケットウォッチ」データを基に筆者作成
埼玉県と千葉県は微増傾向にありますが、東京都は2023年頃から減少傾向にあり、神奈川県も在庫の伸びが止まっていることがうかがえます。
また、2023年単年で中古マンションの成約率を見ると、成約率の高いエリア・低いエリアと差があることがうかがえます。
(表1)首都圏の中古マンション成約数内訳(2023年)
都県/地域 |
成約件数 |
成約率(前年比) |
首都圏全体 |
35,987 |
1.6% |
東京都 |
19,465 |
3.2% |
|
うち23区部 |
16,154 |
4.6% |
|
うち多摩 |
3,311 |
▲3.0% |
神奈川県 |
8,482 |
2.5% |
|
うち横浜川崎 |
6,141 |
4.1% |
|
神奈川他 |
2,341 |
▲1.4% |
埼玉県 |
3,860 |
▲4.7% |
千葉県 |
4,180 |
▲1.7% |
*(公財)東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2023年)」を基に筆者作成
首都圏全体での成約率は前年比1.6%ですが、東京都23区、神奈川県横浜・川崎はそれ以上の成約率を示しています。反面、東京都でも多摩地区、神奈川県のその他地区(横浜・川崎を除くエリア)、および埼玉県、千葉県は成約率がマイナスとなっています。このことより、交通利便性の高い都市部は購入需要が高く、対して郊外は購入需要が低めであることがうかがえます。
また、成約した中古マンションについて「価格帯別」で整理すると、年を追うごとに高額物件の成約比率が高くなっていくことが分かります。
(表2)首都圏の中古マンション成約数(価格帯別成約比)(2023年)

*(公財)東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2023年)」を基に筆者作成
2023年の青地は前年より成約比が下がった価格帯、赤地は前年度より上昇した価格帯になります。高額物件の成約比率が高まっていることが一目瞭然です。
(図4)首都圏の中古マンション成約数(価格帯別成約比)(2023年)

*(公財)東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2023年)」を基に筆者作成
同じデータを、折れ線グラフで示したのが上の図です。こうしてみると、高額物件の成約比率の高まりは、2022~23年の単年でなく中長期的なトレンドとして現れていることが分かります。
このような傾向の背景としては、新築マンションの分譲価格が高騰している中、当初新築志向だった方が築浅の中古に目を向けていることから、高額物件の成約比率が高まっていることが挙げられます。また、富裕層向け物件を中心に、自己居住でなく賃貸に回して収益化を目指す、投資目的での購入需要があることも要因として考えられます。
在庫増の状況を上手に利用してお値打ちに手に入れたい
こうしてみると、首都圏で中古マンションの在庫数がアップしているといっても、エリアや物件の属性によって濃淡があるようです。では、近く中古マンションを手に入れたいと考えていらっしゃる方は、どのような検討を進めていけば、お値打ちな物件に出会いやすくなるのでしょう。
1つは、購入・居住の検討エリアを拡大するということです。すべての持ち家購入検討者が希望エリアを変えられるわけではないでしょうが、選択肢が広がる可能性があるということです。先に記した通り、都心部は居住・投資含めて購入需要が高いため、価格が高めでも成約率が高く、掘り出し物に出会う確率は低めといえるでしょう。対して郊外には一定の在庫を持つ地域が散在しており、検討エリアを広げることで候補物件が大きく増えていきます。
また、多少築年の古い物件を候補にしていくのも1つの手ではないでしょうか。コンディションのよい築浅の中古マンションに多くの目が向けられる中、築古物件の競争力は相対的に低下しており、在庫として残りやすくなってきます。低価格帯の物件の成約率が低下している中、築年が古くても基本性能やコンディションのよい物件を候補にしていくことで、お値打ちな物件に出会えるかもしれません。価格の安さは、断熱改修などの性能向上リフォームや、自分好みのカスタマイズ費用に充てやすくなります。
一般に在庫増という状況は、売り手側からすると成約までの期間が長くなることを意味します。そのため、価格の抑制や値下げなど弾力的な運用に向かいやすく、買い手にとっては値下げの要請や入居日の相談など、ご自身の要望が通りやすくなるともいえます。
市場に在庫が多く流通している「在庫増」という状況を、お値打ちに持ち家を手に入れる環境として上手に活用してください。