2024年地価公示に見るこれからの住まい選びの視点

不動産エコノミストが解説 2024年地価公示

この記事の概要

  • 2024年3月26日、国土交通省は「令和6年地価公示」を公表しました。地価公示とは、1月1日時点の1㎡あたりの土地価格を判定するもので、「住宅地」「商業地」など土地の用途別に全国2万6000ヵ所の地価を示し、土地取引の際の価格の目安として使用されるものです。今年の公示地価や住宅にまつわる動向やポイントについて、不動産エコノミストである(一財)日本不動産研究所の吉野薫さんにうかがいました。

2024年地価公示に見るこれからの住まい選びの視点

コロナ禍以前の勢いを取り戻した

2024年の地価公示の概況を整理しておくと、今回の調査地点約2万6000ヵ所のうち1万6660ヵ所、率にして約65%が上昇しました。全国平均では、住宅地・商業地・工業地すべての用途において対前年変動率が2021年以降3年連続で上昇し、上昇率も全用途平均で2.3%と前年度を上回りました。

(表1)地価公示(対前年変動率)の推移

(表1)地価公示(対前年変動率)の推移

出典:国土交通省「令和6年地価公示発表資料」

東京・大阪・名古屋の三大都市圏だけでなく、地方圏(地方四市、その他の地方)においても地価の上昇が見られました。ただし「地方圏(その他)」については上昇・下落のグループに二分されています。

(図1)都道府県別地価変動率(住宅地)

(図1)都道府県別地価変動率(住宅地)

出典:国土交通省「令和6年地価公示発表資料」

住宅地は、変動率プラスの都道府県が24(2023年)から29(2024年)へと増加。一方でマイナスの県も17(2024年)ある

利便性、住環境…多彩になった住まい選びのエリア

さて、ここからは住宅地の動きについて見ていきましょう。前述の通り、住宅地においても都市圏・地方圏ともに全国的に上昇基調の動きを見せました。

−−コロナ禍の中でリモートワークのような新しい働き方が生まれたり、ワークライフバランス(仕事とプライベート双方の充実を目指す動き)などの動きを背景に、よりよい住環境を目指して郊外や地方への人口移転が起きたりもしました。しかしコロナの収束とともに再び通勤主体の企業が増えるなど、都心回帰への呼び戻しも起きているようです。こうしたコロナ禍以降の動きと今回の地価の動きに、何か相関関係のようなものは見て取れますか。

吉野:今回、地価の上昇したエリアが広がっていますが、コロナ禍を経て人々の住まい方がより多様化し、充実しているということの表れなのかと考えています。

住宅のトレンドにおいて、現在は2つの力が働いているように思います。1つは、コロナによってより広い家、環境のいい家を求めたいという動きが生まれ、郊外や地方に住み替えるような需要が顕在化したものです。加えてその地域において、子育て支援を充実させるなどの行政の施策が噛み合うことで、地価上昇につながるといった事例はあるかと思います。東京圏の場合ですと、茅ヶ崎市(神奈川県)だったり、流山市(千葉県)や守谷市(茨城県)などが該当するのはないでしょうか。

その一方で、オフィスに近いエリアに住む“職住近接”を志向し、都心の好立地の住宅に対する需要も非常に根強く、これが都市部の上昇率の高さにつながっています。

(図2)東京圏 市区町村別の変動率【住宅地】

(図2)東京圏 市区町村別の変動率【住宅地】

出典:国土交通省「令和6年地価公示発表資料」

都市部の上昇率が一段と高まっていることと、郊外においても上昇エリアが拡大していることが確認できる。住まい選びの選択肢が広がっている傍証と吉野さんは指摘する

−−コロナ禍以降、住まいにおける「郊外・地方」と「都心」という2つの志向が顕在化しているわけですね。これは消費者=住まい手にとっては、居住エリアが広がることで住まい方の選択肢が広がる、よい傾向であるといえるでしょうか。

吉野:はい。現在都心部のマンション価格が上がり過ぎたために、郊外や地方に流れるといったネガティブな側面もないわけではありませんが、消費者の立場として住宅に多様性があるということは、人々の幸せの増進の意味でも有益なことだと思います。こういった傾向が強まっていること自体は、決して悪いことではないと思います。

新築、中古、さまざまな選択肢からよい買い物をしていこう

−−今回の地価公示では、地方圏でマイナスの県も見られました。

吉野:日本全体が人口減少社会に向かっているので、すべてのエリアが底上げされるということはないでしょう。しかし地方圏においても、新しい住宅需要が掘り起こされることで、地価の上昇が起こっていると思います。

私がとくに注目しているのは、地方都市においてここ10年くらいマンションの需要が顕在化しており、これは過去にはなかった動きです。

−−地方圏というと戸建て志向が強いイメージがありますが、一方で利便性などを求めてマンション住まいを志向する暮らし方が、地方でも一般化していくような現象が出てきているということでしょうか。

吉野:地方都市にクルマは必須と考えがちですが、デパ地下に徒歩で行けるエリアに住むというようなライフスタイルが顕在化しているように思います。人々が新しい住まい方を求めていくことが、地方においても地価を押し上げる要因になっているのだろうと推測できます。これもまさに、先ほどの住まいにおける「消費者の選択肢の拡大」と同じではないかと思います。

−−吉野さんのお話をうかがっていると、地価というのは土地の「価格」という意味だけでなく、「価値」であるとも受け止められ、上昇を許容できる気持ちが湧きました(笑)。ただ、地価の上昇は住宅価格の上昇にもつながるわけで、住宅を取得しようとする方にとっては悩みどころではあります。

吉野:現在の日本は物価上昇のトレンドにあり、住宅に限らずモノの価格が高くなっているのは事実です。しかし、皆さんがなぜ家を求めるのかというと、よりよい住環境の中で生活することで、自分と家族の幸せを実現するためかと思います。

人が家を求めるタイミングは、子育て時期だったり、進学、就職、転職だったりと、ライフステージの変化が大きい時ですから、価格が下がる時期を待つのでなく、必要になった時にいかによい物件と出会えるかどうかだと思っています。多少高くても納得できる家を見つけられれば、それがまさに買い時ということになります。ですので、過去と比べて買い時かといったことにあまり一喜一憂せず、ご自身の幸せの実現に、どんな家がどのタイミングで必要なのかと考えていくことの方がより重要かと思います。

−−そういう意味で、先程からの「住まいの選択肢が広がっていく」ことが重要なわけですね。

吉野:そのあたりを事業者側も消費者の志向をもっと敏感に察知し、さまざまなライフスタイル、さまざまな幸せの形を持った人々に向けてきちんと“刺さる”物件を企画し、現代の暮らし方にマッチした住まいを提供していければ、市場もより活性化していくかと思います。住まい手側も、デベロッパーのお仕着せの物件で満足することなく、どんな家であれば幸せを実現できるのかを突き詰めて考えていくことが、供給側の行動の変化につながっていきます。

中古住宅を事業者が自社で買い取ってリノベーションし、性能向上させる「買取再販」物件もポピュラーになりました。築20年以内程度の分譲マンションなど、現行のスペックと比較してもそう遜色ないものも多数あります。中古は築古だから古臭いといった時代は過ぎ去り、良質のストックとして流通してきている状況があります。

−−新築、中古のこだわりを減らしていくことも、住まい選びの多様化へとつながっていくわけですね。

吉野:時代によって求められる仕様やデザインは変わっていくため、これからも良質の新築住宅が建てられることは大切です。これは賃貸住宅も含めてです。同時に中古住宅も設備更新やリフォームなどによって、住み心地のよいストックとして流通していく、こうした動きが全国的なものとして広がっていくことで、住宅市場がより消費者本位なものとなるとともに、良質のストックを長く使っていくという社会的な使命も果たしていくのではないでしょうか。

解説

吉野薫さんのプロフィール

日系大手シンクタンクを経て一般財団法人 日本不動産研究所で不動産エコノミストを務める。国内外のマクロ経済と不動産市場に関する調査研究に従事するとともに、大妻女子大学、国際基督教大学で非常勤講師を務める。

聞き手

谷内 信彦

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年4月24日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。