なぜ新築分譲マンションの価格は高騰しているのかNew

データから見えてくる住宅購入のリアル(第3回)

この記事の概要

  • 新築分譲マンションの価格高騰が続いています。東京23区において、2023年に発売された新築マンションの平均価格が初めて1億円を突破しました。この先、新築マンションは高収入の家庭しか手に入れられなくなってしまうのでしょうか。首都圏の動きを中心に、分譲マンション価格高騰の要因を探り、エリアを細分化するなど少し丁寧に分析し、現状の再確認と今後のマンション取得環境について考えてみましょう。

なぜ新築分譲マンションの価格は高騰しているのか

もう“億ション”は超高級マンションの代名詞でない!?

不動産経済研究所の調べによると、2023年の新築分譲マンションの平均価格は、全国平均で5,911万円、首都圏平均で8,101万円。対前年比にすると、全国平均で15.4%、首都圏は28.8%と大幅に上昇しています。

(図1)ここ5年のマンション価格推移(2019-2023年)

(図1)ここ5年のマンション価格推移(2019-2023年)

出典:不動産経済研究所「全国 新築分譲マンション市場動向 2023年」2024年1月

とりわけ東京23区内は1億1483万円と過去最高値を大幅に更新し、ニュースなどでも大きく取り上げられました。

首都圏で、ここ3年販売された新築マンションについて、1,000万円単位の販売価格帯別に分類したのが下の図です。年を追うごとに高価格帯物件の比率が高まっており、ボリュームゾーンがじわじわと上昇しているのが分かります。

(図2)マンションの価格帯別供給戸数推移(首都圏、2021-2023年)

(図2)マンションの価格帯別供給戸数推移(首都圏、2021-2023年)

出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」を基に筆者作成

2023年は1億円以上の物件だけで15.5%を占め、半数が6,000万円以上の物件(グラフの白抜き数字部分)で占められていることが分かります。かつて「億ション」といえば超高級マンションの代名詞でしたが、今では一般的なものになりつつあります。

“特殊”なエリア・物件に引っ張られているだけともいえる

今や分譲マンションは全国的に“高嶺の花”になってしまったのでしょうか。そうではないことを確かめるためにも、データをもう少し細分化して整理してみましょう。

首都圏に関していえば、新築マンションの平均価格を大きく引っ張っているのは東京23区の億ション群です。中でも山手線の内側にも位置する港区、千代田区、中央区などの都心エリアの物件については、タワーマンションなどが林立するなど超高額物件が目白押しで、これが平均価格を大きく押し上げています。

(表1)東京23区新築マンション平均価格(1位〜10位)

(表1)東京23区新築マンション平均価格(1位〜10位)

出典:LIFULL HOMES「東京23区新築マンション平均価格(区単位)」2023年6月発表

(表2)東京23区新築マンション平均価格(11位〜23位)

(表2)東京23区新築マンション平均価格(11位〜23位)

出典:LIFULL HOMES「東京23区新築マンション平均価格(区単位)」2023年6月発表

確かにベストテンの10区については平均価格がみな1億円以上ですし、港区や千代田区、新宿区の3区については平均で2億円超えというすさまじさです。しかし11位以下はぐんと平均値が下がり、足立区や墨田区は5,000万円を下回るなど、23区内であってもエリアによって相当に差異があることが確認できます。

実は2023年には、規格外の新築物件がいくつか竣工しているのです。例えばその1つ、「三田ガーデンヒルズ」(東京都港区)は、一番コンパクトな30㎡の物件が1億500万円からで、最高額物件は45億円という超・超・富裕層向け物件です。それらが第1期の分譲で700戸も供給されたわけですから、市場に特異な数字が残され、首都圏のみならず全国的なマンション価格の平均値を押し上げました。

では、首都圏全体ではどうでしょうか。こちらもやはりエリアによってかなり差がついていることが分かります。

(表3)新築マンションの地区別平均価格(首都圏・2023年)

地区 平均価格 平均㎡単価 対前年上昇率
東京都(都区部) 1億1,483万円 172.7万円 39.4%
東京都(都下) 5,427万円 81.5万円 3.7%
神奈川県 6,069万円 93.2万円 12.2%
埼玉県 4,870万円 76.7万円 -7.5%
千葉県 4,786万円 70.2万円 4.0%
首都圏平均 8,101万円 122.6万円 28.8%

出典:不動産経済研究所「全国 新築分譲マンション市場動向 2023年」2024年1月

東京都の都区部(23区)の突出ぶりがよく分かるかと思います。平均価格、㎡単価、対前年上昇率ともに、首都圏の平均を押し上げているため、こうした数字がひとり歩きして「新築マンションはことさらに高額」のイメージをつくり上げているわけですが、他のエリアはさほど上昇しているわけではありません。埼玉県のように対前年上昇率がマイナスのエリアさえあります。

こうしてみると、新築マンシヨンは確かに上昇基調ではあるものの、都心3区の超富裕層向け物件など一部の突出した数字がひとり歩きし、実態としては全国的なバブル期のような急騰を見せているわけではないことが分かります。

購入条件を広げるなどの合理的な検討を

さて、新築マンションの今後の価格動向ですが、地域によって強弱が出てくるものの、全体的には全国的に上昇傾向が続いていくと考えられます。新築物件の価格を上昇させる要因は多数あり、1つ2つ好転するだけでは状況が大きく変わりそうにないためです。

(表3)新築マンションの地区別平均価格(首都圏・2023年)

新築マンションの上昇要因例

  • ・地価の上昇や、マンション建設用地として適地となる土地の不足などからくる、土地取得コストの上昇
  • ・物価上昇や円安などを背景とした、エネルギー調達コストアップ、資材高騰、職人不足などによる、建設コストの上昇
  • ・デベロッパーによる供給数の絞り込みと、適切に資金回収するための価格付けの維持
  • ・住宅ローンの低金利の継続による、消費者の住宅取得意識の旺盛さ
  • ・投資物件としての新築マンション購入意識の高まり など

こうした上昇基調の中、これからマンションを取得しようとする方にとって、どのような物件選びが考えられるでしょう。

1つは、検討エリアの緩和です。全国的に上昇基調とはいっても、その上昇率が地域によって相当の差異があることを先ほど確認しました。富裕層も多く、投資需要が旺盛な都心の中心部を避け、値上がりの影響の比較的少ないエリアに目を向けることで、自分たちの予算に見合った検討物件がぐんと増えるはずです。エリアにこだわるなら、希望する専有面積を下げることで、予算アップを最小化させることも考えられます。

もう1つは、新築より値上がり幅の少ない中古住宅も併せて検討していく方法が挙げられます。値上がりの影響が新築より少ない分コストパフォーマンスが高く、設備機器や内装を入れ替えて自分好みの空間をつくるリフォーム費用も捻出しやすいといえます。

もちろん、将来の売却益を念頭に置いて都心の高額物件を手に入れる手法も考えられ、その場合、超長期ローンを組む(50年以上)、ペアローンを組む、住宅取得資金贈与の非課税特例の利用などによって、高額な物件取得であっても月々の返済額を抑える購入方法も考えられます。

ただ、住宅の取得はご自分たちが幸せになる「手段」であり、所有自体を目的にして無理な購入をしてしまうと生活にゆとりが少なくなってしまいかねません。毎月の返済額など、その後の暮らしに極力影響の少ない方法を見つけるなど、合理的な検討を重ねて最終的に満足できる持ち家を手に入れてください。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年4月24日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。