コロナ禍を乗り越えた投資用一棟マンション

データから見えてくる住宅購入のリアル(第2回)

この記事の概要

  • 2020年前半からのコロナ禍によって、賃貸住宅市場も少なからず影響を受けました。人の流動が大きく減少したことなどによって賃貸住宅の需要が急減し、入居率や賃料が全国的に減少しました。こうしたことから不動産投資を手控えた方もいたようですが、約4年を経て現在は市場のムードが大きく好転しています。コロナ禍を乗り越えた賃貸市場の現状と、投資用一棟マンションの動きについて今一度整理してみました。

コロナ禍を乗り越えた投資用一棟マンション

コロナ禍で大きく変動した賃貸需要

皆さまもご承知の通り、日本でも新型コロナウイルス感染症が2020年頃から広まり、同年4月には緊急事態宣言が発出されました。移動や人との接触が大きく制限されたことで、仕事・プライベートともに生活様式が大きく変わり、不動産市場も大きな影響を受けました。

まず働き方としては、オフィスへ通勤せず、自宅や近隣のスポットで仕事を行う「リモートワーク(テレワーク)」が急速に普及していきました。学校においても、大学でリモート講義が一般化するなど、同様の動きが見られました。こうした大きな生活様式の変化に合わせて、自宅に求めるニーズが大きく変化するとともに、賃貸住宅の需要も激変したわけです。

(図1)テレワーク導入率の推移

(図1)テレワーク導入率の推移

出典:総務省「通信利用動向調査」

リモートワークが普及し、オフィスへの移動が手控えられたことで、ビジネスパーソンは必ずしも通勤時間に縛られずに住まいを選べるようになりました。都市部より広さや周辺環境のよいエリアへの居住ニーズが増加し、都心一極集中から郊外や地方への移住や、二地域居住など、新しい動きが見られました。地方圏の学生も、コロナ禍以前は高校卒業と同時に大都市圏に大学進学することで一定の「人口流入=賃貸需要」が発生していましたが、コロナ禍の影響もあって2021年度の大学入試については地方圏では地元の大学に進学するなどの動きが見られ、三大都市圏の大学の志願者数が地方圏の大学より大きく減少しました。

象徴的だったのが、東京23区において転出者数が転入者数を上回る『転出超過』となったこと。一時的な動きだったとはいえ、一極集中であった中での四半世紀ぶりの転出超過は、大きなトピックとして報道されました。

(図2)東京都の転入超過数の推移(2017年1月~2020年12月)

(図2)東京都の転入超過数の推移(2017年1月~2020年12月)

出典:総務省統計局「新型コロナウイルス感染症の流行と東京都の国内移動者数の状況-住民基本台帳人口移動報告2020年の結果から-」

エリアや物件などによって市況に差異がありますが、全体としては、このような都市部への集中から郊外や地方への住宅需要の変化が、主に都市部の賃貸住宅の空室率アップを招き、収益率の低下へとつながっていくといった動きが見られました。

コロナ収束とともに賃料・稼働率が回復・向上

しかし新型コロナワクチンの接種が行き渡るなどの対策が進むなど、時間の経過とともに、社会や私たちの生活は徐々に落ち着いていきます。不要不急の外出自粛や大規模施設などの休業措置が求められた「緊急事態宣言」は2021年9月で終了し、緊急事態宣言期間外でも集中的な対策が取られていた「まん延防止等重点措置」も2022年3月までで終了。新型コロナウイルス感染症の位置づけも、当初2類相当でしたが、2023年5月から「5類感染症」に移行するなど、年とともにコロナ禍以前の生活に戻っていきます。

下記の図は、全国13都道府県14エリアの不動産仲介業者(アットホーム加盟店)への景気動向についてのアンケート調査になりますが、2020年に大きく下がった状況も、年とともに緩やかに回復し、現在はコロナ禍以前の状態にまで戻ってきています。

(図3)首都圏・近畿圏における直近1年間の業況の推移(賃貸)

(図3)首都圏・近畿圏における直近1年間の業況の推移(賃貸)

出典:アットホーム「地場の不動産仲介業における景況感調査」

実際、仲介物件の取引量についても、2022年前半あたりから前年比プラスに転じています。賃貸投資用の一棟マンションについても、同様の動きを見せています。

(図4)居住用賃貸マンション成約件数前年比推移(首都圏)

(図4)居住用賃貸マンション成約件数前年比推移(首都圏)

出典:東日本不動産流通機構「『レインズシステム利用実績報告』首都圏会員登録状況成約数(住宅以外の建物を除く)」

国内最大の不動産投資プラットフォーム「楽待」を運営するファーストロジックによると、同サイト内における投資用一棟マンションの物件価格は、2021年あたりから上昇基調に転じ、2023年からは多少上下するものの2億円台をキープしています。

(図5)一棟マンションの物件価格と表面利回り

(図5)一棟マンションの物件価格と表面利回り

出典:ファーストロジック「2023年10~12月期 投資用不動産の市場動向」

また、物件価格が上昇しているにもかかわらず、表面利回りも微増しているということは、賃料が回復していることの傍証にもなりそうです。

新しい価値観にマッチしたサービスの提供を

このように、コロナ禍を経て賃貸不動産市況は再び回復、上昇傾向にあるといえそうですが、賃貸住宅のニーズがコロナ禍以前とは変化していることには注意が必要です。

コロナ禍における賃貸住宅の稼働率は、広さや間取りなどによって異なりました。都市部においては、ワンルームやコンパクトタイプは需要が激減し空室率が高まりましたが、ファミリー向けは影響が軽微でした。

(図6)タイプ別 賃料インデックスの推移

(東京23区)

(図6)タイプ別 賃料インデックスの推移(東京23区)

(大阪市)

(図6)タイプ別 賃料インデックスの推移(大阪市)

出典:アットホーム「マンション賃料インデックス」

*シングルタイプ:18㎡以上30㎡未満、コンパクトタイプ:30㎡以上60㎡未満、ファミリータイプ:60㎡以上100㎡未満、総合:18㎡以上100㎡未満

地方からの上京や転勤者数の減少、業務や授業などのリモート化による都市部への移動者数の減少は、単身向けシングルタイプの賃貸物件の影響がより大きかったとされます。対するファミリー向け物件は、持ち家の価格が都市部を中心に上昇しており(特に東京都心部の分譲マンション)、購入を見送った層がファミリータイプの賃貸マンションに住み続ける需要が一因とも言われています。一方で、雇用環境の悪化による低額賃貸物件へのシフトといった減少もあり、どのタイプにもプラス面・マイナス面の影響が見られます。

ただ、タイプによって変動率の差はあるものの、全体的に賃料は上昇傾向にあることが図からも分かります。

新型コロナウイルスの影響が落ち着くとともに、多くの企業がオフィス勤務に戻っていったように、再び通勤利便性が重要視されている一方、リモートワークも確実に定着しており、自宅に広さを求める層も増加しています。広さだけでなく、間取り(リモートワークのスペース確保など)、設備(清潔・衛生性ニーズの増加、時短商品、宅配ボックスなど新しい設備)、住宅性能(断熱性、遮音性などへの要望)など、消費者の賃貸住宅に臨む要素はコロナ禍前と大きく変わっています。「人気のエリアだから」「駅から近いから」だけの旧態依然の運用では、高い賃料と稼働率による収益率アップは望めません。

アフターコロナ、ウィズコロナ、ポストコロナなどさまざまな呼ばれ方をされていますが、新しい時代の価値観・最新のニーズに合致した間取りやサービスを確保し提供していくことが、これからの賃貸経営に欠かせないといえるでしょう。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年3月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。