- 3月に2018年の公示地価が公表されました。今回、注目されるのは地方圏も底打ちして、ほんのわずかですが上昇に転じたことです。商業地と工業地が上昇した影響で、住宅地の変動率はまだマイナスなのですが、全用途平均ではプラスに転じました。地方圏の全用途平均が上昇したのは26年ぶりで、バブル期以来のことです。また、2017年は前半よりも後半の地価上昇が顕著だったことも明らかになりました。
国土交通省が3月に2018年1月1日時点の公示地価を公表しました。住宅業界や不動産流通市場に詳しい、みずほ証券の上級研究員である石澤卓志さんに、2018年の公示地価のポイントについて解説していただきました。
公示地価が3月に公表されました。まずは全体動向のポイントを説明してください。
石澤:今回、一番注目すべきは、地方圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏を除く地域)の全用途平均変動率が1992年以来、26年ぶりにプラスに転じたことです。わずか0.041%でしたが前年より上昇しました。地方圏全用途変動率は、1993年にマイナス2.3%になった後、2004年にマイナス6.5%にまで悪化。その後、改善傾向に転じて2008年にはマイナス1.8%にまで回復しました。しかしリーマンショックで再びマイナス幅が拡大。今回、ようやくわずかですがプラスになりました。
これは、地方圏の商業地と工業地の変動率が26年ぶりにプラスになったことが影響しています。住宅地の変動率はマイナス0.1%でしたが、商業地は0.5%、工業地は0.2%のプラスに転じました。商業地はインバウンド需要の拡大による店舗、ホテルのニーズ、工業地はインターネット通販の普及による物流施設のニーズを反映したものと見られます。
ようやく地方の不動産市場も、大都市圏のように回復しつつあるということですか?
三大都市圏の全用途平均変動率は一足先の2014年にプラスに転じて、2018年はプラス1.5%になりました。現在も変動率を見る限り三大都市圏と地方圏では格差が広がっています。地方の不動産市場はようやく下落が止まったというのが実態です。ただ、地方圏でも人口の集中する地域などは、三大都市圏以上に地価の上昇が続いていますから一括りで語るべきではないでしょう。
その代表が札幌市、仙台市、広島市、福岡市の地方4市です。三大都市圏の住宅地、商業地、工業地、全用途の2018年公示地価の変動率はそれぞれ、プラス0.7%、プラス3.9%、プラス1.5%、プラス1.5%でした。それに対して、地方4市は、プラス3.3%、プラス7.9%、プラス3.3%、プラス4.6%とすべてで大きく上回りました。地方4市は変動率がマイナスからプラスに転じたのも三大都市圏と同じ2014年です。その後もずっと三大都市圏以上の上昇率となっているのですから、日本でもっとも不動産市場が活況となっているエリアといえるでしょう。
三大都市圏の動向で注目すべきポイントはありますか。
石澤:三大都市圏には天井感が出て、上昇ペースが鈍るのではないかという見方が一部にあったのですが、そんなことはありませんでした。全用途平均で前年のプラス1.1%からプラス1.5%に上昇率は伸びました。中でも商業地はプラス3.3%からプラス3.9%になっています。しかも、詳細に分析すると年の前半よりも後半の変動率の方が高かったことも分かりました。
公示地価調査には毎年7月1日に実施される都道府県地価調査と共通の調査地点があります。それをチェックすることで年前半と年前半の変動率の傾向が把握できるのです。その分析によると、三大都市圏の前半の変動率は住宅地がプラス0.4%、商業地がプラス2.2%だったのに対して、後半は住宅地がプラス0.5%、商業地がプラス2.4%でした。これを見る限り、三大都市圏の地価上昇は天井感が出るどころか加速していることになります。
地価の上昇が続いている要因はなんでしょうか。
石澤:前にも少し述べましたが、インバウンド需要の拡大の影響は大きいと思います。それがより強く見られるのが商業地の動向です。全国の商業地の上昇率の上位は北海道、大阪、京都、神戸などの観光地が並んでいます。さらにインバウンド需要の影響力の大きさは、大阪圏と東京圏の商業地における公示価格上位地点の変動率にも表れています。
大阪圏の代表的な商業地に、比較的ビジネス色の強い梅田周辺の「キタ」と、それよりは商業色の強い心斎橋などの「ミナミ」があります。これまで大阪でもっとも公示価格が高かったのは「キタ」のグランフロント大阪近辺の調査地点でした。それが2018年は「ミナミ」のクリサス心斎橋近辺の調査地点が22.5%もの上昇を見せてトップになったのです。
東京圏の商業地の公示価格上位地点には、商業色の強い中央区銀座がずらり並びます。その変動率は軒並みプラス9%を超えています。一方、ビジネス色の強い大手町や丸の内にも公示価格上位の地点はあるのですが、その変動率はプラス2%台に過ぎません。このように大阪圏も東京圏もインバウンド需要で賑わう商業色の強いエリアの地価上昇が顕著なのです。
住宅地に関しても、全国の上昇率1~3位は北海道の倶知安町でした。倶知安町では外国人の向けの別荘開発やリゾート施設の従業員向けの住宅建設が盛んに行われています。沖縄県などの住宅地にもインバウンド需要の影響で、上昇したと見られる地点があります。
最後に東京圏の住宅地の動向を解説していただけますか?
石澤:東京都で前年からマイナスだった市区は、青梅市、あきる野市だけでした。神奈川県は横浜市や川崎市はすべて上昇したのですが、南部や西部の市は一部を除いてマイナスが続いています。
埼玉県は、東京に近いエリアやさいたま市の地価は基本的に上昇しました。一方、東京から離れるほど厳しくなっています。千葉県も同様の傾向です。東京に近いエリアは上昇が目立ちます。例外的なのは木更津市と君津市です。周辺市や東京湾アクアラインを介した県外からの需要によって好調でした。
こうした状況を簡単にまとめると、やはり都心へのアクセス、交通利便性の良し悪しで明暗が分かれていると言えそうです。そのことは東京23区の動向からも読み取れます。2018年の公示地価において、23区の中で、もっとも上昇率が高かったのは荒川区で6.1%、続いて北区の5.6%でした。千代田区(3.3%)、中央区(2.2%)、港区(5.3%)といった都心区を上回っています。荒川区や北区の大幅上昇の要因はJR上野東京ラインの開通による交通利便性の向上があると思われます。
交通利便性の良し悪しは路線の有無だけが不動産価格に影響するわけではありません。最寄り駅などからの距離も関係します。それを明確に示すのが、変動率を最寄り駅からの距離別に分類した国土交通省のデータです。
それによると、三大都市圏の住宅地では、最寄り駅からの距離が0.5Km未満の場合は平均1.7%の上昇を見せています。離れるほど変動率は低くなり、1.5~2Km未満ではほとんど横ばいの0.1%になります。さらに離れていくと下落に転じ、5Km以上離れると1.1%の下落になります。こうしたデータを見ても、資産性を考えた住まい選びは交通利便性がカギになるといっていいでしょう。