バブル期よりもはるかに軽い住宅ローンの返済負担

データから見えてくる住宅購入のリアル(第1回)

この記事の概要

  • 昨今の住宅価格は上昇トレンドにあります。新築マンションなど、バブル期に近い価格となっているエリアも存在します。一方で、住宅ローン金利の低下により、物件価格の上昇分の返済負担を大きく減らしているのです。持ち家購入に際しての返済負担の実情について、改めて確認してみましょう。

バブル期よりもはるかに軽い住宅ローンの返済負担

バブル期に近づいた昨今の住宅価格

分譲マンションを筆頭に、近年住宅価格の上昇が続いています。国土交通省は2010年の不動産価格を100とした時の各月の変動値である「不動産価格指数」を公表していますが、本稿作成時点の最新データである2023年10月を見ると、住宅用の土地と戸建て住宅は各115.6、区分所有マンションは193.9となっています。住宅全体でも136.4と、ここ10年ほどの推移を見ると全体的に上昇基調であることが分かります。

(図1)不動産価格指数(住宅)推移 *2010年平均=100

(図1)不動産価格指数(住宅)推移 *2010年平均=100

出典:国土交通省「不動産価格指数(住宅)(令和5年10月分・季節調整値)」

こうした数字はもちろん、エリアや物件などによって差異があります。またマンションの異様な高さは、東京都心のタワーマンションなどの高額物件が平均を押し上げているためで、全国的なものではありません。ただ、こうした住宅価格の上昇に加えて、将来の収入や生活への不安などもあって、持ち家の購入をためらう方が多いようです。

長期的な視点で見ると、1991年のバブル崩壊とともに、住宅を含む不動産価格はいったん下落しており、右肩上がりで価格上昇を続けてきたわけではありません。

(図2)新築マンション平均価格の年次別推移(全国・首都圏・近畿圏)

(図2)新築マンション平均価格の年次別推移(全国・首都圏・近畿圏)

出典:不動産経済研究所「全国マンション市場・50年史」を基に筆者作成

上記のグラフは新築マンションの平均価格の推移ですが、1990年あたりからの現在までの期間で見れば、バブル崩壊とともにいったん下落した不動産価格が再び当時の数字に近似してきたとも位置づけられます。先の「不動産価格指数」は2010年との比較ですが、この基準をバブル期の1990年前後に置き換える(1990年前後を100とする)と、現在の指数は当時とそう大きく変わっておらず、首都圏のマンションなど一部のエリアや物件以外、ほとんどが同程度か100以下(バブル期と比べるとマイナス)に留まっています。

もっと長いスパン、例えば1970年代から見れば、住宅価格の上昇傾向はバブル期を除いて比較的比例的に伸びているともいえます。「最近の住宅価格が数年前より高騰している」のは事実ですが、マクロな視点で見直すと、こうした上昇傾向がさほど特異なものではないともいえるのです。

物件価格上昇を相殺する住宅ローンの低金利

住宅価格の水準はバブル期並みとはなりましたが、昨今、バブル期当時と大きく違っている要素があります。それは、住宅ローンの「金利」です。1999(平成11)年2月から日本銀行のゼロ金利政策が開始され、以来、現在に至るまで、歴史的ともいえる低金利水準が続いています。

(図3)住宅ローン金利の推移(店頭表示金利)

(図3)住宅ローン金利の推移(店頭表示金利)

出典:住宅金融支援機構「金利について」

バブル期には、変動金利で最大8.5%もの高金利で貸し出されていましたが、2009(平成21)年以降、2.475%と大幅に下がっています。いささか乱暴ではありますが、先に述べた不動産価格指数に倣った言い方をすれば、この住宅ローンの変動金利については、2010(平成22)年から変化しておらず、バブル期のピーク時から見れば3分の1以下にまで下がっているともいえるのです。

確かにここ10年で見ると、不動産価格が上昇基調のため持ち家が手に入れにくくなっているようにも感じます。しかし、もっと長い期間で見ると、物件価格は一部を除いてバブル期程度かそれ以下、住宅ローン金利は大幅下落しており、バブル期よりはるかに手に入れやすくなっているともいえるでしょう。

同じ借入額なら返済額や総支払額は大幅に減少

ざっくりとではありますが、金利差がもたらすメリットをイメージしやすくするため、シミュレーションを行ってみました。

(図4)首都圏の中古住宅価格推移(成約ベース) *2023年のみ暦年のため参考数値

(図4)首都圏の中古住宅価格推移(成約ベース) *2023年のみ暦年のため参考数値

出典:財団法人 東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2002年度、2012年度、2022年度、2023年)」

中古住宅(マンション/戸建て)の価格は上記のように推移してきたので、とりあえず4,000万円の中古住宅を購入し、30年かけて返済するとして、バブル期と現在とでは返済内容がどう変化しているのかをざっくりと計算しました。条件を極力シンプルにするために、2024年の住宅ローンは全期間固定金利のフラット35を適用しましたが、バブル期の1990年にはフラット35は未発売のため、当時の住宅金融公庫の最低金利(10年目まで5.50%、11年目以降6.85%)で試算しました。なお、頭金なしでの100%フルローンは金利が違ってきますので、あくまで「住宅ローンで4,000万円を借りた場合の返済額の概算」と捉えてください。

旧公庫融資基準金利の推移

(表1)住宅ローン万円の返済シミュレーション(①毎月返済額、総返済額、利息)

購入年 適用金利 毎月返済額 総返済額 うち利息分
1990年 10年目まで 5.50% 227,115円 87.976.486円 47,976,486円
11年目以降 6.85% 253,011円
2024年 全期間 1.82% 144,273円 51,938,199円 11,938,199円
  • *30年返済、元利均等払い、ボーナス返済なしの場合
  • *端数処理のため、最終返済回の金額には相違が生じる

同じ4,000万円の住宅ローンを組んだ場合でも、1990年当時と現在とでは月々の返済額が8万円以上も違ってきます。バブル期は、現在より1.57倍も多く支払わなくてはならなかったわけです。しかも11年目以降はこの差がさらに広がり、10万円以上も違ってきます。

また、30年分の総返済額で見ると、バブル期と比べると43.600万円以上も利息が少なく済むことが分かります。バブル期は、住宅ローン借入額の2倍以上も支払って住宅を取得していたわけです。

また、支払いの負担を実感するために、年収に対する住宅ローン年間の返済割合=返済負担率についても試算してみました。厚生労働省が毎年発表する「国民生活基礎調査」によると、1990年当時の平均所得金額は1世帯あたり596.6万円だったそうです。2024年の数値は当然出ていませんが、あくまで概算のシミュレーションとして、最新の2021年の数字(545.7万円)を適用して比較してみました。

(表2)住宅ローン4,000万円の返済シミュレーション(②返済負担率)

購入年 平均世帯所得 毎月返済額 年間返済額 うち利息分
1990年 596.6万円 227,115円 2,725,380円 45.7%
2021年 545.7万円 144,273円 1,731,276円 31.7%

なんとバブル期は45.7%という数字になりました!あくまでも概算ではありますが、当時も相当の負担であったことが分かります。2021年の31.7%という数字も大きなものですが、全ての世帯の平均であり、住宅取得者は平均値より年収が高めであると考えられます。例えば「児童のいる世帯」の平均所得は785万円であり、この数字を適用すれば22.1%に下がります。

(表3)2021年の1世帯あたりの平均所得金額

全世帯平均 高齢者世帯 高齢者世帯以外の世帯 児童のいる世帯 母子世帯
545.7万円 318.3万円 665.0万円 785.0万円 328.2万円

出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」

実際の数字として、住宅金融支援機構の「2022年度 フラット35利用者調査」を見ても、返済負担率は平均で23.1%となっており、こうした試算が現実とそう遠くないように思います。

返済負担率出典

物件価格に一喜一憂せず、必要な時に住まいを手に入れたい

今後の住宅価格ですが、確かにバブル期やリーマン・ショックの時のように、社会的なきっかけなどによって住宅価格が下がる可能性はありますが、当面は緩やかに上昇を続けていくというのがプロの見立てです。ただ、住宅ローンが史上最低水準の金利で推移している現在、住宅取得を考えている方にとって今が相当有利な時期であることがイメージできたかと思います。

(表4)住宅取得時に特に重視するもの *3つまで回答可

順位 項目 割合
第1位 価格・費用 70.8%
第2位 間取り 32.6%
第3位 立地(災害などに対する安全性) 30.9%
第4位 耐震性能 21.4%
第5位 耐久性 15.9%

出典:住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査 【住宅ローン利用予定者調査(2023年10月調査)】

テレビCMではありませんが、もちろん“お金は大事”です。しかし子どもの成長期など、皆さんの人生の中で持ち家を必要とする時期があるはずです。
そうなると大切なのは多少の金額差でなく、家族のライフステージで捉えた場合に持ち家が必要かどうかということ。安くなったから買うのでなく、必要だから持ち家を手に入れると考えるべきです。

持ち家を手に入れるべきか迷っていらっしゃる方にとって、この記事が判断材料の1つになれば幸いです。

*返済負担率などについては2024年2月時点のシミュレーションのため、実際の検討に際してはファイナンシャルプランナーなどプロへの相談や助言を得ることをお薦めします。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2024年2月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。