- 社会構造の変化や賃貸不動産に対するニーズの多様化が顕著になり、賃貸不動産を取り巻く環境が大きく変わろうとしています。そのような中で新たな課題を想定しながら、これからの賃貸経営の注意すべき点を考えてみましょう。
1.社会構造の変化
社会構造の変化の一つとして、賃貸経営に大きな影響を及ぼすものに「人口問題」があります。厚生労働省の2023年の推計によると2070年には、日本の人口が約8,700万人に減少し、65歳以上の高齢者の割合が38.7%になると推計されています。さらに10代から30代の若年人口が2030年代に入ると現在の倍の速さで急速に減少し、ますます高齢化が進む傾向が予測されています。
このような若年層(就労人口)の減少予想の一方で、外国人労働者の受け入れ対策や留学生の受け入れ対策によって日本での外国人の居住ニーズ(ルームシェア型の賃貸住宅など)の増加が見込まれます。
そのため、単身世帯の増加予測により求められる社会政策の賃貸住宅における注意点として、孤独リスクを避けるためのネットワークづくりや単身の高齢者や外国人向けにまで幅を広げたニーズ対応を考えた賃貸住宅の設備や機能の変化が求められることになるでしょう。
2.環境問題への対応
近年、増加傾向にある自然災害によるリスクとして、例えば建物破損に伴う修繕工事の負担があります。また、それにより賃借人が住めない状態になれば、賃料の請求ができなくなり、収入が得られなくなる事態になります。さらに、自然災害とはいえ賃貸建物が適切に管理されていなかった場合には、外壁・階段・屋根などの落下等による第三者損害の所有者責任を問われることになります。
環境問題のもう一つの側面として、政府が温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを宣言しました。その実現のため、住宅・建築物の省エネ化を図ることを目的として、2022年6月に「建築物省エネ法」が改正され、省エネ住宅の義務化が決定しています。今後は、省エネ建築物がスタンダードになる時代の到来が確実といえるでしょう。このことは、居住者のより良い快適な生活を追求することではありますが、建築費用の増加につながるという側面もあるため、賃貸経営上注意が必要です。
3.賃貸不動産に対する新たなニーズの顕在化
賃貸住宅への居住が持家取得までの限定的な期間での利用ではなく、終の棲家として居住し続けるケースも増加し、「持家売却後に賃貸住宅へ転居」という新たな住まい方として顕在化しています。さらに、居住形態のニーズ変化として、ルームシェア、DIY住宅、学生専用住宅などの新たな利用条件がみられるようになりました。このような人口構造の変化などに対応することも求められてくるでしょう。
まとめ
今までの賃貸経営のリスクとして①空室リスク②賃料下落リスク③金利上昇リスク④建物老朽化リスクなどが主なものとして捉えられていました。今後は、人口減少、高齢化、外国人の労働者等の増加、障がい者問題、省エネ住宅の義務化、自然災害への減災対策などへの配慮が加わり、賃貸経営における視点が「貸してやる」から「借りてもらう」経営へと変化していくことになるでしょう。
明確な賃借人像を想定し、これらのリスクと対策を十分に検討したうえで建物構造および間取り、設備を決めていき、20年30年先を見据えた経営が可能か多くの専門家と相談しながら進めていくことが重要になります。制約やリスクが多くなるように思われるかもしれませんが、もともと配慮すべきものとして内在していた要件が外的要因で顕在化するにすぎません。より安全で安心して住むことができる住宅提供は、賃借人にとっても満足できる住まいとして選ぶことができるようになります。貸主にとっても、「借りてもらえる」住宅となり双方にとって望ましい環境になるものと思われます。
このように一層複雑化する戦略的賃貸経営において、今まで以上に信頼のおけるパートナーをいかに見つけるかが重要になってきますので、前述した内容を参考に検討いただければ幸いです。
多岐にわたる不動産業務経験と投資用不動産仲介支援業務の中でお客さまの様々なニーズにお応えしてきた経験を持つ。現在は、賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントにおいて、オーナーさまからの賃貸管理、土地有効活用、建替えなどのご相談をお受けする業務に従事。金融機関主催のセミナー、営業職向けの不動産勉強会等の講師を多数実施。
※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。
※ 2023年12月22日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。