住宅・土地統計調査の調査員としてわが街を歩き回ったNew

住まいに関する調査の分析 vol.2

この記事の概要

  •  「国勢調査」は私たちになじみがありますが、では「住宅・土地統計調査」はいかがでしょう。私たちがどのような建物に住まい、どのような暮らしをしているかを調べる、いわば建物の国勢調査に近いものです。2023年は5年ごとに実施される「住宅・土地統計調査」の調査実施年。私はこの調査員として、自分の住んでいる市のいくつかを担当しました。長年住み慣れた街を改めて歩き、改めて気づいたことについてレポート風にご紹介します。
    *調査員にはみなし公務員としての守秘義務があるため、一定範囲内の実感に限ってのご紹介になることをご容赦ください。

住宅・土地統計調査の調査員としてわが街を歩き回った

住宅・土地統計調査ってなに?

総務省統計局は5年に一度、全国規模で「住宅・土地統計調査」(「住調」とも呼ばれます)を実施します。これは、人が居住する建物、つまり住宅について、土地と併せてその使われ方や保有状況等の実態を調査し、国の住生活関連の諸施策のための基礎資料を得ることを目的としたものです。1948年から5年ごとに行われており、2023年は16回目となります(公表は2024〜25年)。
似た調査として国勢調査がありますが、国勢調査が日本に住むすべての人と世帯を対象としているのに対し、住調は一部の建物と世帯に限っての調査になります。戸建て住宅やマンション約50戸(棟)を1つの調査単位区として整理し、選ばれた調査単位区の約3分の1に当たる17住戸が調査対象となります。今回は市区町村別に必要な調査区数を算定した上で、約20万調査区を抽出し、全国の約340万住戸・世帯が対象となりました。

調査内容ですが、住宅について、建物の構造や築年、広さ、部屋数、所有関係などの建物のスペックに関する事項のほか、設備やリフォーム、建て替えなどの実施状況や意向を回答していただきます。土地については所有関係や敷地面積、取得方法などを確認。また自宅以外に所有する住宅についての所有関係や利用の実際などについても調べます。近年は相続した親の実家を空き家にしている方も多く、空き家対策のための基礎資料としても活用されているようです。

調査票の一例(総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 調査の概要」より)

調査票の一例(総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 調査の概要」より)

統計の実施者は国になりますが、実際の調査は地方自治体が中心になって行っていきます。私は、自分の住む市の統計調査員として初登録し、今回いくつかの調査区を受け持って街を回ったというわけです。

調査はどのように進められていく?

調査は、決められたお宅にうかがい、調査票を渡すというだけの作業ではありません。まず事前調査として、地図を基に、調査区内に現在どのような建物が建っているか、という確認から始まるのです。定期的な調査なので、事前にリストが完備されているように思いますが、5年のうちに建物の解体や新築現場も多く、最初にリストの更新作業が必要なのです。これらは目視で実施する必要があり、現場に出向いての調査となります。

調査に当たって提供されたツール類の一部。防犯ブザーの提供に時代性を感じる。

調査に当たって提供されたツール類の一部。防犯ブザーの提供に時代性を感じる。

1調査区あたり、だいたい建物50戸(棟)規模の広さになるわけですが、このチェックだけで自転車を使っても優に2、3時間から半日はかかります。というのも、碁盤の目のように整備された行き交いやすい道ばかりでなく、行き止まりの道にぶつかるなど、対象地域の端から順につぶしていくことができないのです。隣の建物に移動するのに迂回して5分、といったケースも多く、広さの割に時間がかかってしまいます。
アパートやマンションなど集合住宅については、1棟あたりの戸数も確認する必要があります。また、建物全戸について、(この時でなくても構わないのですが)建物の工法と階数、さらには建物が面する道幅のチェックまでもが必要なのです。加えて、建物チェックと同時に、今回調査を実施する旨を記した案内チラシを全戸に投函していく必要もあります。

この事前調査は9月に行ったのですが、折からの残暑で汗だくになり、何度も水分補給の時間を要しました。自宅近くでの短時間の軽作業と甘く見ていたところ、思わぬ重労働に、先行きの不安を覚えたものです。

これを自宅に戻って整理し、市役所に提出します。市で機械的に1調査区あたり17戸を割り振って対象となる住戸や世帯が確定し、「調査対象名簿」ができあがりました。いよいよ調査票の配付となります。事前調査から約2週間後からの作業です。
調査票の配付は基本、対面で行います。インターホンを押して名乗り、主旨を説明したうえで調査票を受け取ってもらうかたちになります。不在の場合は後日再訪問し、それでも不在だった場合に限り調査票をポストに投函できます。
事前に案内チラシを投函していたとはいえ、予告なしの訪問はそう効率のよいものではありません。平日の日中は不在のお宅も多く、曜日と時間を変えて再訪問することになります。またどなたかが在宅であっても、すべての方が対面で受け取ってくれるわけではありません。インターホン越しの会話だけで「ポストに投函しておいて」とやりとりが打ち切られたり、「うちはいいです(受け取りません)」と頭ごなしに拒否されたり、中には居留守を使われたりもします(エアコンの室外機がフル回転なので分かるのです)。もちろん対面で調査の主旨を説明しても、「うちは協力しない」「一応調査票を受け取るけど回答するかは分からない」といったこともありますが、平身低頭して理解に努めます。

このご時世、見知らぬ人に対して簡単にドアを開けてもらえないだろうとは予測していましたが、実際は想像以上の警戒ぶりでした。公的な訪問であることを示すために「市役所から委託されてうかがいました」などと呼びかけるのですが、訪問販売などかえって怪しいトークにも聞こえてしまっただろうなと、思わず苦笑してしまったりも。
ただ、以前は調査票の回収の必要性もあったのですが、現在は郵送やインターネット経由で回答でき、改めての回収のための訪問はほとんどなくなりました。あとで分かったことですが、スマホ経由での回答も多いようで、現代ならではの調査・回答方法が必要であるなと実感しました。

回答の締め切り日があるのですが、未回答のお宅には再訪問して改めて調査への協力をお願いします。不在の場合は再度協力のお願いチラシを投函して終わりとなり、再訪問する必要がないのが救いです。
結局、事前調査から再度のお願いまで、その調査区に4回訪問することになりました。最後の訪問時も残暑が続いていたものの、秋の気配が見え、多少はしのぎやすくなってきたのが救いでした。

見知った街でも思いがけない発見がある

以下は、調査員を務めた約1カ月、街を歩き回って気づいたことや実感についてお伝えします。

まず、長く暮らしている地元の街であっても、大通りからそれてちょっと中に入っていくと、ふだん気づかなかった新しい顔があることに気づきました。
住宅地であっても、道路はまっすぐに伸びているものだけでなく、カーブやクランクを伴った小径が随所にあるものです。私道の中には砂利道も点在していますし、行き止まりの道もそこそこあり、まるで毛細血管のように敷地の奥へ奥へと入り込んでいるのを実感しました。消防車が入れない狭い路地もあり、改めて建築基準法の必要性を実感した次第です。都市計画や用途地域の指定など、良質な住環境を整備していこうとする国や自治体の意思によって、街並みや景観が維持されていることを改めて感じました。

土地も、そうした道に接するわけですから、長方形の敷地ばかりでなく、台形や三角形などの変形した形状も多く見られました。なかには明らかに他者の敷地内を横断しないと自分の土地に入れない、袋地と呼ばれる土地や建物も見られました。戦後に整備された地であっても、土地という私権はなかなか調整が難しいようで、交通アクセス的には不合理なまま現在に至っているようなところもあります。
このように、同じエリアの住宅街であっても、接道や土地の形状は全く違ってきますから、地価や建物の取引価格も相当の幅が出てきそうです。

建物も、私が担当したエリアは住宅街であり、戸建て住宅の多くは木造在来工法の2階建てですが、古い住宅が瓦屋根かトタン屋根なのに対し、近年ハウスメーカーが建てたような戸建てはスレート葺きが主流になっています。また、豪邸とは言わないまでも大邸宅の隣に3階建ての建売住宅が数棟並び、「これは土地を分筆して狭小住宅を建てたものだな」と推測できたりします。
お屋敷街の脇に築古の木造アパートが現存していたり、新しい木造住宅が並ぶ新興住宅街の真ん中に保存樹林が威風堂々そびえていたりと、いろいろ歴史性を感じさせてくれる発見が随所にありました。また、邸宅でありながら、長年空き家として放置されているような、ちょっともったいないストックも時折見受けられました。

余談ですが、今回表札のない家も多くあり、調査は結構難渋しました。とくに賃貸のアパートやマンションは表札のない割合が格段に高く、お名前の確認ができないケースも多かったです。私は今回単発の調査だったわけですが、郵便や宅配便などの配達員は日常的にこうした現状に直面しているわけで、エッセンシャルワーカーの皆さんのご苦労が忍ばれました。

長く暮らしている地元の街でも、少しの距離の差で住環境が大きく変わることがあることを再認識しました。道を1つ挟むだけで建物群や居住者層が大きく変わるなど、歩くことで見えてくるものです。家探しをしている方は、物件と駅までの最短距離の道だけでなく、脇に1本入って移動するなど、丹念に地域内を見て回ることで新たな気づきを得られるように思います。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年12月22日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

※ 「令和5年 住宅・土地統計調査」は2024〜25年にかけて公表されますが、前回(平成30年)の調査概要は下記などから確認できます。

(住宅及び世帯に関する基本集計)