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賃貸建物建築に影響する「建築物省エネ法」改正について

「不動産投資」管理の重要なポイント (第52回)

この記事の概要

  • 2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、カーボンニュートラルを実現するために住宅・建築物の省エネ化を図ることを目的として、2022年6月に「建築物省エネ法」を改正しました。この改正は、建築コストや収益性の観点から賃貸経営に大きな影響をもたらすと思われますので、賃貸オーナーが注意すべき点に関して考えてみます。

賃貸建物建築に影響する「建築物省エネ法」改正について

1.2025年から新築住宅の省エネ基準義務化へ

現在の省エネ基準の対応義務は、建築物の規模として延べ床面積が300㎡以上の非住宅が対象となっています。

つまり、個人住宅や規模の小さい(300㎡未満の建築物延べ床面積)アパートなどは適用外となっていますが、2025年4月からは、用途や規模に関係なく適用が義務化されます。カーボンニュートラルを達成するためには、日本のエネルギー消費量の約3割を占める建築物分野について対策をしなければならないという背景があり、建築物省エネ法が改正され、省エネ住宅の義務化が決定したのです。

2.建築物省エネ法の省エネ基準の主な指標

①外皮性能

外皮性能とは、外壁や床・天井・窓など建物の外回りの省エネ性能を指します。
住宅に断熱性能の基準を満たした壁や窓を採用すると外気温が室内温度に与える影響を抑えられるため、無駄なエネルギー消費を押さえる効果が期待できます。省エネ基準では、住宅内の快適な温度の空気を外に逃した量を計測する「外皮平均熱還流率」に気候の地域差に応じて一定基準が設けられています。

②一次エネルギー消費量

一次エネルギー消費量とは、冷暖房や換気、照明、給湯、家電といった住宅設備が消費するエネルギーから太陽光発電などによる再生可能エネルギーを差し引いたものです。住宅の省エネ実現は、各種設備のエネルギー消費量による影響も受けます。そのため、住宅の省エネ基準には「一次エネルギー消費量性能」にも基準が設けられているのです。

3.省エネ基準を満たすことで得られるメリット・デメリット

メリット

①住宅ローン融資において有利

一般的な戸建住宅や賃貸併用住宅を建築するときに利用する住宅ローンや賃貸住宅向けアパートローンでは、省エネ基準を満たしている場合、住宅金融支援機構(フラット35)の住宅ローンでは5年間、金利引き下げの対象となり融資内容で優遇措置を受けられることがあります。

②税金の特別措置が適用される

住宅・建築物省エネ化に関する支援制度として、住宅ローン減税、所得税、登録免許税、不動産取得税などにおけるさまざまな優遇措置が適用されます。

③補助金が受けられる

省エネ基準を満たすと受けられる補助金にはさまざまなものがあります。主なものとして、長期優良住宅化リフォーム推進事業、サステナブル建築物等先導事業、地域型住宅グリーン化事業などが挙げられます。ただし、適用条件がそれぞれ異なり、また、建築する地域の自治体によっても制度内容が異なりますので建築計画の段階で確認しておく必要があります。

④光熱費用が削減できる

省エネ基準を満たしている建築物は、環境への良い影響だけではなく、断熱効果が高いため室内温度を快適に保つことができ、冷暖房費の削減にもつながります。

また、断熱性に優れ、1年を通して快適に過ごすことができるので、ヒートショック防止などの健康リスクをも軽減するという利点もあります。

デメリット

①建築コストの増加

省エネ基準を満たすためには、一定のコストがかかります。一般的な仕様よりも高性能の建材や設備が必要となりますので、施工費用と労力がかかることになります。

②建築業者が指定されることがある

国としては省エネ基準を満たす高性能住宅を標準化する考えで、技術力の高い建築業者やハウスメーカーを増やしたい意向があるために、認定建築業者を対象に補助金制度を設けて支援しています。例えば、ZEH(ゼッチ:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)は、国土交通省が認定したZEH建築業者等に依頼した建物でなければZEHと認められません。そのため、ZEHを対象とした補助金制度を利用するには、認定の建築業者に依頼することになり、信頼のおける建築業者を選定する必要があります。

※ZEHについて詳しくはこちら

4.省エネ性能表示制度に関して

2023年9月に国土交通省は「建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度ガイドライン」を公開しました。このガイドラインは2024年4月に施行される「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」の省エネ表示の望ましいあり方を示すことでその普及拡大を図ることを目的にしています。

新築建築物においては、外皮性能の多段階評価と一次エネルギー消費量の多段階評価が表示すべき事項となっており、これらを指定の表示様式(ラベル)により所定の広告等に告知することとされています。

まとめ

これからの賃貸経営を考えた場合、今まで以上に様々な分野において差別化が進み、まさに「入居者に選ばれる賃貸住宅とはどの様な建築物なのか」が長期にわたる賃貸経営において最大の問題としてクローズアップされつつあります。20年から30年先を見据えたプランニングをし、性能を高めれば建築費用が上がる訳ですが公的補助金制度を利用しながら慎重に進めることが重要です。

さらに、省エネ建築物の差別化は、高い賃料の設定が可能となり、入居募集が有利になります。また、入居者の満足度が高いため稼働率のアップにつながるでしょう。省エネ建築物がスタンダードになる時代の到来が確実となりますので、今から準備していくことをお勧めします。

著者

中村 賢治

多岐にわたる不動産業務経験と投資用不動産仲介支援業務の中でお客さまの様々なニーズにお応えしてきた経験を持つ。現在は、賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントにおいて、オーナーさまからの賃貸管理、土地有効活用、建替えなどのご相談をお受けする業務に従事。金融機関主催のセミナー、営業職向けの不動産勉強会等の講師を多数実施。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年11月24日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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