売却のタイミングを気にかけておくことが重要

投資用不動産による資産形成のすすめ(第8回)

この記事の概要

  • 不動産投資による収益は、月々の賃料という「インカムゲイン」と、保有する投資物件の売却による「キャピタルゲイン」とに大別できます。一棟マンション投資は1戸単位の投資物件と比べて最終的な売却価格が大きくなるため、とりわけ出口戦略が重要になってきます。投資を続けている方も、これから始める方も、自分なりの売り時を常に気にかけておくといいでしょう。

売却のタイミングを気にかけておくことが重要

人それぞれに売却のタイミングが存在する

一棟投資マンション運用の基本は、まめなメンテナンスや専有部・共用部の魅力付けによって毎月の賃料を維持・向上させつつ、空室期間を極力減らすことで、賃料収入を向上させていくことです。そうした取り組みは、最終的な物件の売却価格の向上にもつながっていきます。不動産投資は売却して初めて最終的な利益が確定するため、出口戦略が重要になっていきます。

では、一棟投資マンションの“売り時”はいつなのでしょう。これは投資状況に応じたタイミングのほか、投資家本人の事情など、さまざまな要因に基づきます。売却の大きなタイミングについては、以下のように整理できます。

(表1)一棟投資マンションの売却のタイミング例

タイミングの要因 概要
投資要因
  • ・減価償却終了時、目標利益額達成時など
  • ・低稼働の物件、老朽化した物件などの見切り
社会的要因
  • ・物件価格の大幅な上昇時など、不動産相場での「売り時」から来るタイミング
本人事情
  • ・資産の組み替え、相続時、換金の必要性など、投資家本人や家族の事情に応じたタイミング

「投資要因」による売却とは、以下の2つのタイミングが考えられます。1つ目は、保有する一棟投資マンションが一定の利益を生み出し、目標利益額が確定した際や減価償却期間の終了など、投資期間中における大きな節目をきっかけとしたタイミングです。2つ目は、利益率が低下し、低稼働の物件や老朽化した物件となり見切りとなるタイミングです。

「社会的要因」による売却とは、急いで売却する必要はないものの、保有する物件の市場価値が高まり、通常の相場以上に売却価格が見込めそうな時期に応じて売却することです。賃貸需要は日本全国一律でなく、エリアや都市によって変動率が上下します。近隣での大型ショッピングセンターの開業、大学の新設、新駅の建設など需要が一気に上がる時を狙って上手に売却すると、通常の投資環境以上のリターンを得られる場合があります。

一番重要なのが、「投資家の本人事情」による売却です。不動産投資によって得られる資産をいかに大きなものにするかだけでなく、いかに将来を見据えてスムーズに承継していくかも大切だからです。ご本人やご家族の年齢、ライフステージなどを考慮して、不動産投資計画に加えて、事業継承者にどうバトンタッチしていくか、マクロの視点を持つことが重要です。

一棟マンションの査定額はどうやって決まるのか?

さて、賃貸不動産投資市場において、既存の一棟マンションはどのように評価されているのでしょうか。収益物件の価格算出方法としては、年間賃料収入と期待する利回りを基に算定する「収益還元法」をはじめ、路線価などの公的な公示価格に基づく「原価積上法」、近隣エリアの類似物件の成約事例に基づく「取引事例比較法」などがあります。

(表2)一棟マンションの売却額に関する要因例

要因 概要
ロケーション
  • ・立地エリアの特性、地形、最寄り駅からの距離
  • ・自然環境、公園などの有無、公共施設・商業施設などの充実度
物件特性
  • ・築年数が新しいほど売却価格は高くなる傾向にある
  • ・築古でもメンテナンス状況によって売却価格の維持・向上が可能
  • ・用途地域、接道、現状の建ぺい率・容積率状況(遵法であること)
年間賃料収入
  • ・各戸の賃料や入居率に基づく1棟全体の「年間賃料収入」が大きいほど売却価格も上昇する
  • ・ランニングコストの多寡
  • ・サブリースなどの有無(他の権利関係)
投資状況
  • ・リフォームなどによる専有部、共用部の価値向上によって売却価格の向上が可能
その他
  • ・土地の「路線価」などの公的評価
  • ・投資マンションに関する図書類の充実が売却に有利に働く
  • ・決済時期、支払いに関する契約条件などの緩和によって売却しやすくできる

ロケーションや築年数はコントロールできませんが、メンテナンスやリフォームなどの行為は運用方法によって価値向上を投資家自身がコントロールできます。賃貸不動産の投資家であれば、各戸の賃料を維持・向上させるための取り組みは必須業務です。その成果はインカムゲインだけでなく、将来売却時のキャピタルゲインの向上にもつながっていくわけです。

不動産仲介業者との二人三脚で売却益を最大化していく

ここで将来の売却に当たっての大まかな流れを説明します。売却にあたり、不動産仲介業者などに「○億○千万円で買ってくれ」と言っても、それが通ることは稀といえます。周辺エリアの相場はあっても売主・買主の需給バランスなどがあり、買主がすぐに見つかるわけではないからです。買い取り業者、投資事業者などが直接買い付けるケースもありますが、売却期間が短くなるメリットがある反面、買い取り価格は相場よりも低くなりがちです。不動産仲介業者を通じて新たな買い主を見つける方法が一般的といえます。

以下は、一棟投資マンションを売却するに当たっての大きな手順です。

(表3)一棟投資マンションの売却の流れ

ステップ 概要 主たる実施者
投資家本人 不動産
仲介業者
希望売却価格の設定
  • ・所有する投資物件の周辺相場のチェック
  • ・希望売却価格の設定
査定
  • ・不動産仲介業者などに物件の査定を依頼
  • ・査定結果を基にした、希望売却価格の再設定
売却活動
  • ・不動産仲介業者への売却活動の依頼(媒介契約の締結)
  • ・仲介業者は買主を見つけるための売却活動を実施
買い付け申込み
  • ・購入検討者の案内、内見など
  • ・購入希望者の申し込み
売買契約・
引き渡し
  • ・売買契約の締結
  • ・決済
  • ・物件の引き渡し
  • ・最終精算(不動産仲介手数料など)

流れとしては、まずご自身で希望売却価格を仮設定し、次いで業者の査定によって、希望売却価格が妥当なものかプロに判断してもらうことになります。この査定額は「いくらで買い取る」という具体の数字でなく、「このくらいの数字でなら買い主を見つけられそう」というメドになります。

こうした市場の相場を基に売却価格を再設定した後に、不動産仲介業者と売却のための媒介契約を行い、本格的な売却活動を進めます。不動産仲介業者は買主を見つけ、売買契約の締結を進めます。ただし、買主側は物件価格の値引きなど要望を付けてくることもありますから、そこを売主の意向に沿ってどうコントロールできるかが不動産仲介業者の腕の見せ所となります。つまり、多くの見込客を確保しつつ、スピーディーかつ高額に購入してもらえる買主を見つけられる、実力のある不動産仲介業者が重要になります。買い取り業者への依頼はスピーディーですが、前述の通り買い取り価格が相当低くなるため、急な現金調達が必要になった時など緊急対応的なものと割り切るべきでしょう。

保有する物件の売却によって投資マンションの最終損益が確定するわけですから、賃貸投資期間中であっても、常に売り時を意識しておき、出口戦略を考えておくことが、トータルでの収益性を高め、資産価値の向上につながっていきます。

記事制作

日経BPコンサルティング

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年11月24日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。