実家の空家、放置したままだと固定資産税が6倍に!?New

空き家関連トピックス Vol.1

この記事の概要

  •  2023年6月14日に空家等対策の推進に関する特別措置法(以下「空家対策特措法」「特措法」)の一部を改正する法律が可決・成立し、2023年12月から施行されます。国や自治体にとっては、放置されている空家の維持管理状況を向上させ、空家の活用拡大などを推進していくための改正ですが、空家所有者にとっては責務が強化される制度にもなっています。実家や親の建てた住まいを空家として所有している方は、これからどのような対応を取っていくべきでしょうか。

実家の空家、放置したままだと固定資産税が6倍に!?

国は空家の適正管理や積極活用を目指している

使用目的のない空家はこの20年で約1.9倍に増え(国土交通省調べ)、今後ますます増加する見込みです。空家が相続や売買、賃貸などによって再度利活用されれば問題ないのですが、放置されたり管理が行き届かなくなったりすると建物が急速に劣化し、活用しにくくなるだけでなく、外壁や瓦の剥落など周囲に危険を及ぼしかねません。こうした背景から、2015年に空家対策特措法が制定されました。

特措法の制定によって、自治体は放置すると倒壊の恐れがあるなど周囲に著しい悪影響を与える空家を「特定空家」として認定し、修繕や解体など助言や指導、勧告、命令などを行えるようになりました。それまで近隣が危険であることを認識していても、自治体は所有者に解体や保全などを「要請」するに留まっていましたが、特措法の制定によって、度重なる勧告・命令を無視した悪質なケースにおいては、「行政代執行」による解体・除却が行えるようになるなど、自治体の権限が強まっています。しかし、実際にはそうした強行の例は少なく、なかなか改善が見られなかったのも事実です。

このように、施行当初は危険な空家の除却が中心でしたが、2023年12月の改正によって、今後は「特定空家の除却等」に加えて、「活用拡大」「管理の確保」の3本柱で対応を強化していくことになります。危険で利活用できない空家になる前に、良質のストックとして引き続き維持していくことが今回の改正の目的ともいえます。

(図1)「空家等対策の推進に関する特別措置法」改正後の方向性

(図1)「空家等対策の推進に関する特別措置法」改正後の方向性

出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」概要資料から

特定空家に認定されると「住宅用地の特例」が受けられなくなる

筆者の父親の生家

筆者の父親の生家。築年は古いものの古民家のような風合いに乏しく、残念ながら利活用にまで至っていない(撮影:筆者)

恥ずかしながら、筆者も曾祖父が建てた父の実家を現在空家にしたまま、数年が経過しています。生まれ故郷ではありませんが、子供の頃毎年夏休みに家族で帰省し、思い出も愛着もある建物です。しかし、仕事をするには不便な場所で地縁が乏しいこともあり、移住するには難しい状況です。日帰りでは往復できない場所のため、年に何度も訪れることもできず、やむなく近所の空家管理サービス業者に月1回状態をチェックしてもらっています。築100年超の建物ゆえそのままでは使用が難しく、維持だけで精一杯です。売却しようにも買い手はほとんど期待できず、更地にするにも解体費用を捻出できません。そもそも屋内には仏壇もありますし、親戚から解体だけはしないでほしいと懇願されてもいます。

皆さまの中にも、遠方の実家建物など、十分に管理できていない空家をお持ちの方がいらっしゃるかと思います。しかし、放置し続けて建物を荒廃させては、自治体から先の「特定空家」に認定されかねません。認定空家のデメリットは、固定資産税や都市計画税が一挙に跳ね上がることです。土地は建物が建っていることで「住宅用地特例」の適用が受けられ、小規模住宅用地であれば固定資産税が6分の1、都市計画税が3分の1に減額(200㎡まで)されていますが、いったん特定空家に指定されると翌年からこうした減額が受けられなくなってしまうのです。

(表1)固定資産税、都市計画税の「住宅用地の特例」制度概要

土地 固定資産税 都市計画税
小規模住宅用地
(住宅用の敷地で200㎡以下の部分)
課税標準×1/6 課税標準×1/3
一般住宅用地 課税標準×1/3 課税標準×2/3
  • *土地に対する固定資産税が課税される年の1月1日(賦課期日)において、住宅やアパートなど、人が居住するための家屋が現に建っていること(工事中や計画中では適用されない)
  • *店舗、工場、倉庫など住居部分がない家屋や、居住部分の割合が4分の1未満の併用住宅の敷地は住宅用地とならず、適用を受けられない

特定空家の除却についても、これまでは命令から相当の猶予があって初めて代執行がなされましたが、改正された2023年12月以降は、緊急を要する場合には所有者への命令等なしに一気に代執行を行えるようになっています。もちろん行政がタダで更地にしてくれるわけではなく、解体や除却の費用は後に所有者に請求されます。

2024年4月には相続登記も義務化されます。これまで相続人を曖昧にしたままでもペナルティはありませんでしたが、2024年4月以降は、相続が発生した時点などから3年以内の相続登記が必須=義務となります。もはや空家の放置はデメリットしかなく、維持管理や利活用に向けて待ったなしの状況です。

利活用のための支援制度も用意

国は自治体への支援も強化しており、今後、自治体の空家対策に対するサポートが強化されていくことになります。地方には空家活用のプレーヤーがまだまだ少ないのが実情です。相談先が多様になったり、自治体の空家バンクの充実などによって、新たな利活用方法が広がったり、利活用者が広がっていくことが期待されます。

(表2)空家の利活用方法例

利活用方法 概要
住む
  • ・移住や二地域居住など自己居住する
  • ・別荘やセカンドハウス的に不定期で使う
貸す
  • ・賃貸住宅として貸し出す(有償・無償)
  • ・用途を変えて貸し出す(事務所、店舗、集会所、倉庫など)
売る
  • ・現状のまま新たな買い主を見つける
  • ・リフォームを実施した後に新たな買い主を見つける
壊す
  • ・更地にした後、新たな用途で使用する(駐車場、賃貸住宅、賃貸店舗等)
  • ・更地にして土地として売却する
その他
  • ・地元自治体への貸与(有償・無償)
  • ・地元自治体への寄付 *自治体が必要とする場合に限る

空家は持ち主にとっては使い道のない困ったストックであっても、地域にとっては貴重な地域資源になる場合もあります。実家の行方について、筆者も近く墓参りの際、市役所の担当者と相談したり、空家活用の団体とコンタクトを取るなどして、重い腰を上げていこうかと思っています。

執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター / 編集者。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマに展開している。近年は空家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年11月24日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

※ 参考資料:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律 第50号)について」