1)10億円以下の不動産売買取引は2020年下期から回復基調であったが、2023年上期は前年同期比で減少
2023年上期に公表された10億円以下の不動産売買取引は、629億円、134件で、前年同期比-10.5%、-15.7%であった。移動制限等の影響で取引活動が停滞した2020年上期からは回復したが、取引金額・取引件数ともに、前年同期比で再び減少に転じた[図表1]。[図表2]は、2019年上期以降の10億円以下の取引を取引価格帯別に集計したものである。これによると、1億円超の取引件数は回復傾向で、特に、5億円超の取引はコロナ前の水準に回復した。一方、給与所得者の投資対象になりうる1億円以下の取引は減少基調で、反転の兆しがみられない。足元の不動産価格の上昇により、1億円以下の出物が減った可能性も考えられる。
[図表1]10億円以下の不動産売買取引金額と取引件数
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
[図表2]取引価格帯別の取引件数
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
2)不動産・建設会社を除く一般事業法人の割合が売主・買主ともに、コロナ下で上昇
[図表3]と[図表4]は、コロナ前の水準まで回復した5億円超10億円以下の不動産売買取引を抽出し、業種別に割合で示したものである。これによると、2013年以降、「不動産・建設」が売主のメインだが、買主は「J-REIT」が占める割合が依然として多いものの、コロナ下で、「不動産・建設」の割合が上昇している。従前は、J-REITがスポンサー企業である不動産会社から物件を取得するケースが大半を占めていたが、足元では、不動産投資クラウドファンディングサイトを通じて出資を募り、投資商品として運用する目的や、建替えを目的とした不動産会社間の取引も目立つ。また、コロナ下で、不動産・建設会社を除いた一般事業法人(図表では「その他事業法人」と表示)が物件を売却する割合の上昇が顕著である。財務内容の健全化や管理コストの削減などを売却理由に挙げている売主も多く、コロナ禍で業況や財務内容が悪化したことも要因と考えられる。
3)コロナ感染拡大以降、賃貸マンションを中心とする住宅取引が活発
[図表5]は、5億円超10億円以下の不動産売買取引を用途別に割合で示したものである。2023年7月末までの取引実績は、賃貸マンションが大半を占める住宅と土地取引が全体の80%を占めた。コロナ前後を通して、この2つのアセットタイプが中心である状況に変わりはない。しかし、土地取引は2017年をピークに概ね下落基調であるのに対して、上昇基調である住宅はコロナ感染拡大以降、上昇ピッチが加速した。コロナ下では、オフィスビルを筆頭に、多くのアセットタイプで稼働率が低下したが、住宅は比較的影響が軽微であったことも、住宅取引が堅調であった要因と考えられる。
エリア別にみると、都心6区※2所在の住宅取引額が占める割合は2019年の6%から2023年は9%の微増にとどまったが、都心6区を除いた東京23区所在の住宅取引が占める割合は、2019年の6%から2023年は38%に急拡大した。
※1:本稿の不動産売買取引に係る実績データは都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」による。不動産売買実態調査は、「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)」に基づき、東京証券取引所に開示された固定資産の譲渡または取得などに関する情報や、新聞などで報道された情報から、譲渡・取得した土地・建物の売主や買主、所在地、面積、売却額、譲渡損益、売却理由などについてデータの集計・分析を行うもの。10億円以下の不動産売買取引を網羅しているわけではない。
※2:都心6区とは、千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区、品川区をいう。
[図表3]売主の業種別の割合
(いずれも取引価格帯:5億円超10億円以下の取引件数)
※不明分を除く割合。また、2023年は7月までの実績値に基づく割合
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
[図表4]買主の業種別の割合
(いずれも取引価格帯:5億円超10億円以下の取引件数)
※不明分を除く割合。また、2023年は7月までの実績値に基づく割合
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
[図表5]用途別の割合
(いずれも取引価格帯:5億円超10億円以下の取引件数)
※不明分を除く割合。また、2023年は7月までの実績値に基づく割合
データ出所:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」
10億円以下の収益不動産としては住宅が好調
取引価格が10億円以下の収益不動産取引を用途別にみると、オフィスビルをはじめとするアセットタイプで取引件数が低迷するなか、賃貸住宅が独り勝ちの様相を呈している。[図表6][図表7]は、J-REITが東京23区内に保有する物件のアセットタイプ別の平均稼働率と賃料単価の推移を示したものである。オフィスビルおよび商業施設が平均稼働率・賃料単価の双方もしくはいずれかでコロナ前の水準まで戻り切れていないことに対して、賃貸住宅は、稼働率こそ一時的に低下したが、他のアセットタイプに比べて影響は軽微であり、賃料単価はコロナ禍においても概ね上昇基調を維持した。
10億円以下の1棟賃貸住宅としては、単身者向けのワンルームタイプの売買取引が多いが、2LDK以上の住戸が含まれる賃貸マンションの取引が少なくとも30%以上を占めている。住宅価格の高騰で購入を当面諦めるファミリー世帯や、コロナ禍で定着したハイブリッドワーク(出社勤務と在宅勤務の併用)の普及で、DINKS世帯でも部屋数が多い住戸を志向しているとみられることから、2LDK以上の住戸の需要は当面底堅いと思われる。
[図表6]アセットタイプ別の平均稼働率(東京23区)
※分析期間において、連続して得られる物件を対象(マスターリース会社が賃料保証していると考えられる物件は除く)とする。()内はサンプル数
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」
[図表7]アセットタイプ別の賃料単価(東京23区)
※分析期間において、連続して得られる物件を対象(マスターリース会社が賃料保証していると考えられる物件は除く)とする。()内はサンプル数
データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」