「安定性」「収益性」のバランスをどう取っていくか

投資用不動産による資産形成のすすめ(第5回)

この記事の概要

  • 投資に関して語られることが多い収益性と安定性。一般的に、収益性が高いということは何らかのリスクを負っていることの裏返しであり、投資運用上の安定性は減少します。そんな相反する2つのバランスや折り合いをどう考えていけばいいのでしょうか。今回は、収益性と安定性の考え方について解説します。

「安定性」「収益性」のバランスをどう取っていくか

一棟マンションはリスクをコントロールしやすい投資スタイル

不動産投資における収益性(利回り)は約束されたものではありません。賃貸物件の魅力付けや維持管理、入居者の確保などといったさまざまな運用がスムーズに進行し、高い利回りが実現するものです。

マンションの一棟投資に限らず、一般的に利回りが高い不動産投資物件ほど賃料収入の安定性は低くなります。利回りが高いということは一定のリスクを抱えることであり、投資運用上の安定性を下げることに繋がります。収益性と安定性は、いわば相反の関係にあります。「一棟中古マンション」による不動産投資は、他の投資手法と比べて比較的リスクをコントロールしやすい投資スタイルといえます。

表1)一棟中古マンションの投資ポジションにおける優位性の比較

比較対象 (一棟中古マンションの)優位性の根拠
他の投資商品との比較 国債
  • ・低金利時代でも一定の利回りが見込める
  • ・融資等によるレバレッジが効く
株式投資
  • ・土地/建物という現物資産であり、元本が消滅することはない
不動産投資における比較 一戸区分所有による
不動産投資
  • ・分母(貸室)が大きい分、利回りが低めでもキャッシュフローが大きい
  • ・入居率が0になるリスクがほぼない
  • ・(多額のコストのかかる)大規模修繕の実施時期を自分でコントロールできる
新築一棟マンションの
不動産投資
  • ・既に入居状況が可視化されている(空室リスクの見える化)
  • ・実情にマッチした家賃で運営されている
    (今後の下落リスクが少なめ)
  • ・販売価格がこなれている分、利回りが下がりにくい
木造一棟アパートの
不動産投資
  • ・(同エリア・同条件において)より高額の賃料を設定可能
  • ・減価償却期間が長い
  • ・資産価値が高く、将来の売却価格低下のリスクが低め
  • ・ローンの借入期間が長く設定可能

国債は、「ローリスク・ローリターン」の金融商品です。安定的ではありますが、低金利の昨今、“ないよりまし”程度のリターンでは、投資というには物足りないはずです。株式投資は「ハイリスク・ハイリターン」の投資商品として位置付けられ、経済環境や企業活動の見直し又は結果次第でリターンが大きく変動することになります。

不動産投資は「ミドルリスク・ミドルリターン」の投資商品に分類されますが、その中でも一棟中古マンション投資は、他の不動産投資スタイルと比較してリスクをコントロールしやすいといえます。

冒頭で「収益性と安定性は相反関係にある」と記しましたが、一棟マンション投資は購入時の物件選びと購入後の運用方法によって、自分の投資哲学に沿った収益性と安定性のバランスを実現しやすいといえます。

購入時の物件選びのポイント

一棟中古マンションの購入の際には、安定性と収益性のどちらを重視するかによって、物件選びや検討方法も違ってきます。安定性重視であれば、賃貸需要の変動要因の少ない物件を中心に、収益性重視であれば、多少リスクを抱えても利回りを高められそうな物件を検討します。

表2)物件購入時の重視点(「安定性」「収益性」)別の検討方法例

重視する項目 検討の視点、ポイント例
安定性を重視した
物件購入時の検討方法例
  • ・比較的築年の浅い物件を中心に検討
  • ・駅近の物件を検討
  • ・購入時点で入居率の高い物件を中心に検討
  • ・(エレベーターなど)大型設備のない物件を中心に検討
  • ・入居者との契約形態が定期借家契約な物件を検討
収益性を重視した
物件購入時の検討方法例
  • ・築年が多少古くても表面利回りの高い物件を中心に検討
  • ・購入後のリフォームを前提に、価格が低めの物件を検討

築年数の浅い建物は、入居者の確保や修繕コストなどの面から、安定的な投資物件といえます。立地面では、最寄り駅からの距離が近い物件は賃貸需要が高く、安定的です。こうした物件は人気が高く、販売価格の高さからどうしても利回りが低くなる傾向にあります。

一方、収益性を重視した物件探しとなると、多少築年が古いものの、リフォームなどのテコ入れによって魅力的な賃貸物件になりそうな建物を中心に検討していく方法が一般的です。

高額の賃料収入が期待できる、入居率が高い高稼働などといった物件は、そもそも投資家の目にとまりやすく、物件価格も上昇する傾向にある分、利回りも落ち着いていきます。そのため、販売時点で収益性の高い物件については、修繕コストがかかるなど何かしらの理由があると考え、自費でインスペクション(建物調査)するなど慎重な検討が必要です。

購入後の運用方法のポイント

一棟中古マンションの購入後、管理や投資など運用の仕方によっても、安定性や収益性をコントロールすることが可能です。

表3)運用時における一棟マンション投資・管理方法例

重視する項目 検討の視点、ポイント例
安定性を重視した
運用方法例
  • ・物件管理などの業務を専門家に委託する
  • ・サブリースなどの家賃保証システムを使用して空室リスクを削減する
  • ・一括借上げ社宅など、長期安定的なテナントを誘致する
収益性を重視した
運用方法例
  • ・建物のメンテナンスや修繕依頼について、極力自分自身が窓口になる
  • ・特定の入居者ニーズを意識した希少性のある設備や仕様を導入し、高賃料を目指す
  • ・共用部のグレードを高めるための新規設備に継続的に投資する

賃貸経営における「安定性」とは、「賃料と入居率の維持によるキャッシュフローの確保」に尽きます。アパートよりも劣化のスピードが緩やかなものの、マンションであっても経年とともに劣化が避けられず、何も手を打たないと家賃の低下や入居率の低下に繋がりかねません。

これらの対策としては、入居者の確保や物件管理などを外部のプロに任せ、適切なメンテナンスの実施によって資産価値を維持する方法があります。ただ、単なる管理や修繕だけでは現状維持に留まってしまうので、コンサルティング力のあるパートナーであることが大切です。もっとも安定的な委託方法は、専門業者とサブリース契約を結ぶことでしょう。家賃保証制度によって契約期間中は月々のキャッシュフローが大きな変動なく確保できますが、収益性はかなり低くなります。

収益性の向上策については、さまざまな実践方法が考えられます。時代や特定のニーズに合わせて内装や設備を常にリフレッシュさせることで、高水準の賃料維持を目指しています。共用部へのてこ入れが可能なのも、一棟マンション所有者ならではの大きなメリットです。例えば、以下のとおり、特定の入居者ニーズに向け差別化を図ることで物件の価値をマンション全体で高められます。

  • ・音楽好きの方 防音設備付き
  • ・バイク好きの方 バイクガレージ付き
  • ・ペットを飼育している方 共同のペット洗い場付き
  • ・シェアハウス
  • ・DIY対応

こうした投資の継続は、入居者の確保だけでなく、将来の建物の売却時の価値向上にも繋がるのです。

リスクのバランスも考慮しつつ、どの程度のリターンを目指していくか。ご自身でものさしを設定できる、すなわちリスクをコントロールしやすい点が、一棟マンション経営の投資的魅力といえるでしょう。

記事制作

日経BPコンサルティング

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年8月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。