戸建てとは違う! マンションならではの地震対策とは

マンションを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第11回)

この記事の概要

  • 2023年は関東大震災から100年の節目の年に当たります。その後も、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震をはじめとした大きな地震災害が起きてきました。100年前と近年との大きな違いの1つは、多くの人が集合住宅、いわゆるマンションに住むようになったことでしょう。防災活動を通じて理想の社会の実現を目指す認定NPO法人 かながわ311ネットワークの代表理事・伊藤朋子さんに、マンションと地震の関係についてお聞きしました。

戸建てとは違う!マンションならではの地震対策とは

マンションの視点で考える防災のポイント

——防災の視点で、マンションは戸建てと本質的に違いがありますか。

伊藤:マンションの多くは管理組合を結成しています。そうは言っても、役員は輪番制で回ってきたら渋々引き受け、「何かトラブルがあれば管理会社に電話すれば解決する」といった状況です。「自分たちのマンションで何をするべきか」という問題意識は薄いと言えます。

しかし、地震などの災害時にはそうはいきません。熊本地震で実際に被災された方のお話を伺うと、マンションの防災は戸建てとは異なるとおっしゃいます。マンションの視点で防災を考えることが必要なのです。

——災害時、マンションではどのような問題が想定されますか。

伊藤:戸建ての場合、トラブルがあったら自分で業者や行政に問い合わせなければなりませんが、マンションでは管理人や管理会社がワンストップで対応してくれます。これはマンション生活の大きなメリットです。ところが、災害が発生するとそのメリットの部分がストップしてしまいます。管理会社は複数のマンションを管理しているので、災害時のリソースが分散しがちです。居住者や管理組合は、自分で対応しなければならないことが増えるのです。

(図1)マンションにおける防災の課題

(図1)マンションにおける防災の課題

出典:かながわ311ネットワーク

分譲マンションの居住者は、日常において「マンションは共有物」ということをあまり意識しません。しかし、災害時には共有物として管理組合で意思決定しなければ、何事も先に進みません。防災も管理組合の仕事なのですが、普段はあまり意識されていないのが現状です。

戸建てとマンションの違いに立ち返ると、戸建ての場合は、被災した家の修繕や建て替えは家族の意思だけで決められます。しかし、マンションでは、数十世帯から大規模マンションになると1000世帯といった居住者の意思を統一しなければ前進できません。管理会社はサービスを提供するだけで、意思決定はしてくれません、意思決定に慣れていない管理組合が、責任者として対応を進めなければならないのです。

在宅避難に必要なのは、安心して眠れる場所と物資の備蓄

——マンション居住者に必要な地震対策を教えてください。

伊藤:近年のマンションは耐震性能が高く、倒壊などのリスクはほぼありません。一方で、「壊れないけれど、とても揺れる」ということを意識する必要があります。

対策は大きく2つあります。1つは「家具を固定する」ことです。タンスなどの家具が倒れるのを防ぐために、家具の固定は戸建て以上にしっかりするといいでしょう。もう1つは「備蓄」です。マンションの場合、建物自体が壊れることはほぼないので、在宅避難が可能です。しかし、電気が止まるとエレベーターは動きませんし、ガスや水道も使えなくなります。エレベーターが止まってしまうと、支援物資が届いたとしても、自分の部屋まで持って上がるのが大変です。特に高層階の居住者は、できるだけの備蓄を心掛けてください。

管理組合には、マンションの共有スペースを、揺れの大きい高層階の住人や災害時要介護者用の避難場所として提供するといった準備も有効です。

(図2)管理組合と居住者の役割分担

(図2)管理組合と居住者の役割分担

出典:かながわ311ネットワーク

——マンションの居住者同士で準備しておくべきことはありますか。

伊藤:被災後は誰もが不安な環境におかれるので、居住者同士が助け合える関係性をつくっておくことが大切です。安否確認をし合ったり、備蓄を持ち寄ったりできれば、避難生活の安心感が増します。何といっても、戸建てと違い、マンションは隣のドアがとても近いです。日頃からお互いに顔見知りとして、挨拶できる程度の付き合いをしておくことは大切です。

大災害が起きた時には、普段は平和な日本でも窃盗などの被害が多くなります。マンションの居住者が顔見知りならば、不審な人に声を掛けることができます。例えば、エントランスホールに災害対策本部を設置して出入りする人に声掛けすれば、泥棒は入りにくくなります。被災した上に泥棒に入られるという二重の被害を防ぐためにも、顔見知りであることの必要性を再考していただきたいです。

——災害時と被災後の行動について教えてください。

伊藤:マンションの中で決めておきたいのは、災害時の連絡のルールです。安否確認をどうするか、管理組合の役員同士の連絡をどうするかといったことです。被災時は、各戸の安否をどう確認し、それをどのように情報として生かすかがとても重要になります。行政などから支援物資や手助けが来てくれても、それを必要とする人がどれだけいて、どのような支援が求められているかを把握できなければ、手を差し伸べることもできません。安否確認から被災状況までを確認して、情報を共有する方法を考えておくべきです。

その上で、管理組合における役員同士の連絡方法をきちんと整理しておく必要があります。普段は理事会などで会うだけなので、大規模マンションの場合など、どの棟のどの部屋に住んでいる人か、互いに知らないこともあります。しかし、被災時には管理組合が率先して意思決定をしないとマンション全体の機能が止まってしまうことを忘れないでください。

(図3)災害時にマンションで想定される被害

(図3)災害時にマンションで想定される被害

出典:かながわ311ネットワーク

マンションを選ぶ際は「ハザードマップの確認」を

——最後に、マンションを選ぶ際のポイントを教えてください。

伊藤:まず、ハザードマップを確認してください。水害をはじめ、さまざまな災害のハザードマップを行政が公開しています。水があふれやすい土地では、地震の際に断水や排水の不具合などで水やトイレが使えなくなることがあります。マンションを選ぶ際は、通勤や通学、買い物の便利さや価格をチェック項目にすると思いますが、これからはぜひ、その土地の災害リスクを加えていただきたいです。

また、マンションを購入する場合は、管理組合がきちんと機能しているマンションを選びましょう。古くてもきちんと管理されて組織ができているマンションが災害に強いマンションだと思います。

マンションを選ぶ時は、その欠点を理解して、どこまで許容できるかを考えください。考えて、知って、暮らしていけば、いざという時にも対応しやすいかと思います。

協力

伊藤朋子(いとう・ともこ)

東日本大震災の支援活動で知り合ったメンバーで2013年、NPO法人かながわ311ネットワークを立ち上げ、代表理事に就任。東北応援の活動から、地域防災に活動を広げてきた。横浜市を中心にマンション、自主防災組織、避難所運営委員会などの防災研修を多く手掛け、特に分譲マンションのオーナーを中心にした啓発活動を展開する。東京防災研修セミナーのマンション防災のテキスト作成や講師も行っている。近著に『災害が来た!どうするマンション!』(2023年2月大木祐吾氏と共著、ロギカ書房)

執筆・編集・監修

日経BPコンサルティング

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年6月28日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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