三極化するマンションストックを正しく見極める

投資用不動産による資産形成のすすめ(第2回)

この記事の概要

  • 一棟マンションの投資は、一戸単位の区分所有マンション以上に長期視点での投資マネジメントが重要です。高い利回りを維持するためにも、物件購入の際には慎重な検討が必要となります。シリーズ2回目は、一棟マンションの物件選びに欠かせないポイントを紹介します。

三極化するマンションストックを正しく見極める

賃貸ニーズの多様化に伴い、投資に向くエリアが広がっている 

賃貸不動産投資の基本は、所有するストック(賃貸物件)の賃料をいかに高額に、かつ空室率を低く維持するかにあります。それを一戸単位でなく、建物全戸のマネジメントによっていかにアベレージを高めていくかが、一棟マンション投資の特性であり、魅力ともいえます。

賃借人の退去から次の入居までに空室期間が生じるのは仕方ありませんが、長く住んでもらったり、次の入居のために魅力的な物件にしたりすることが、空室率を下げ、利回りの向上へとつながります。投資物件を購入して終わりではなく、その地域の賃貸ニーズにマッチした空間へと最適化させていくための継続的な取り組みが欠かせません。

住まい手の嗜好や住宅ニーズは時代と共に変化していきます。流行り廃りだけでなく、時には社会的な住宅ニーズの変化も見られます。典型的な例が、2020年からのコロナ禍による影響です。

それまで多くのビジネスマンが、通勤の利便性を住まい選びの基準としてきましたが、リモートワークの台頭によって、必ずしも通勤時間に縛られない住まい選びが可能になりました。そのため、都市部郊外のニュータウンの良好な住環境が見直されたり、都市部とリゾート地との二地域居住、地方への移住といった新たな選択肢が生まれました。

不動産・住宅情報ポータルサイト「LIFULL HOME'S」の「借りて住みたい街2023」を見ても、大都市圏における賃貸住まいの人気スポットが、都心部だけでなく郊外や地方都市部にも点在していることがうかがえます。

(表1)「借りて住みたい街2023」ランキング トップ5

首都圏 近畿圏 中部圏
1位 本厚木(神奈川県厚木市) 江坂(大阪府吹田市) 岐阜(岐阜県岐阜市)
2位 大宮(埼玉県さいたま市) 三ノ宮(神戸市中央区) 豊橋(愛知県豊橋市)
3位 八王子(東京都八王子市) 大正(大阪市浪速区) 岡崎(愛知県岡崎市)
4位 柏(千葉県柏市) 出町柳(京都市左京区) 新栄町(名古屋市中区、千種区)
5位 三鷹(東京都三鷹市) 大国町(大阪市浪速区) 藤が丘(名古屋市千種区、名東区)

出典:LIFULL HOME'S みんなが探した! 借りて住みたい街ランキング

コロナが落ち着きを見せた2023年、社会は再びオフィス通勤が主流になりつつありますが、「家時間(おうち時間)の充実」など、住環境への関心と住まい方のリテラシー向上が進み、個人の住まい方や嗜好は多様化しました。それによって、賃貸投資に向いたエリアやストックの選択肢も多彩になってきています。

賃料や入居率によって利回りの高低差が生じる傾向に

とはいえ、すべての賃貸投資物件の利回りが向上しているわけではありません。現時点でもエリアや物件によって需要や人気の差が存在し、賃料や入居率の差から利回りの高低差が生じています。少子高齢化が顕在化し、人口減少社会へと移行していく中、長期的にはこうした傾向がより顕著になっていくでしょう。

一棟マンション投資においては、大きく「価値を維持・上昇させやすいストック」「現状維持、または緩やかに下落していくストック」「下落しやすい(あるいは無価値)なストック」に三極化していくとも言われています。

(表2)賃貸投資物件における三極化の要素例

項目 考え方の一例
将来も価値を
維持〜上昇させやすいストック

・人口の多いエリア、人気エリア、好ロケーションにあるストック

・駅近、周辺施設の充実など、利便性の高いストック

・ハイグレード仕様の高品質なストック

・他の競合物件にない設備、デザインなどを備えたストック

将来の価値が
現状維持〜下落傾向にあるストック

・築年や部屋の仕様、ロケーション、交通利便性など、何らかのウイークポイントを有するストック

・メンテナンスやリフォームの実施が十分でないストック

将来の価値が大きく
下落しやすいストック

・賃貸ニーズの少ない(ない)エリアに建つストック

・ロケーションや利便性などで競争力に劣るストック

・地域ニーズに見合った面積、間取り、設備を備えていないストック

表上段の「将来も価値を維持〜上昇させやすいストック」は、立地のロケーションや賃貸ストック自体のポテンシャルが高く、住まい手が付きやすいストックを指します。都心の一等地に建つ賃貸マンションであれば、適切な維持管理によって高い賃料と稼働率を維持し、将来も高額で売却できることが容易に想像できます。人気エリアの駅近物件であれば、専有面積がコンパクトでも高い稼働率を維持できるでしょう。ロケーション面では不利でも、他にない魅力を付加することで価値を高めることも可能です。

現状、大半の賃貸ストックは、表中段の「将来の価値が現状維持〜下落傾向にあるストック」に属するのではないでしょうか。賃貸ストックは、どうしても経年と共に競争力が低下していくため、何もしないでいると入居率や賃料の低下リスクが高まり、価値が緩やかに下落してしまいます。そこで必要なのが適切なメンテナンスやリフォームですが、投資を惜しんで原状回復止まりのような対応では、価値を維持できても劇的な上昇にはつながりません。逆に、積極的な投資によって競争力を高めることなどで、価値を大幅に向上させることも可能です。

表下段の「将来の価値が大きく下落しやすいストック」は、賃貸ニーズの乏しいエリアに建つストックや、近隣の物件と比較して競争力に激しく劣るようなストックを指します。中にはテコ入れが可能なストックもあるでしょうが、相応のコストがかかるなど投資効果に懸念がつきまとい、その方策や効果も限定的です。物件価格は安くても、こうしたストックの購入はあまりお薦めできません。

購入後に改善できない要素は極力外す

ご留意いただきたいのは、前記の表の「三極化」は固定されているわけではなく、戦略的な投資などによって価値を高めることが可能ということです。ただし、そのアプローチについて、コストが生じることも確かです。

人気エリアの駅近物件は誰もが憧れる賃貸ストックですが、人気の高さゆえ、高額で手が出にくいはずです。安定的な稼働が見込まれる分、価格の割には利回りがあまり高くなかったりします。逆に、一般的な投資物件について、そのストック自身の持つポテンシャルを高めていくことで、長期にわたって高い利回りを維持し続けるプレミアムなストックへと育てることができます。

賃貸ストック自体の性能や仕様は向上できても、ロケーションなどは自力での改善・更新は容易ではありません。自力で改善が難しい要素については、購入段階で慎重に検討し、できるだけ排除していく必要があります。

(表3)投資物件購入後に自力で改善することが難しい要素の一例

項目 概要
立地
(ロケーション)

・自然環境(緑の充実など)

・周辺環境(坂の有無、公園の充実など)

・ハザード状況(地震、洪水など)

・地域の歴史性

・用途地域

・交通利便性(駅からの距離、公共交通機関の有無、駐車施設の有無など)

・周辺施設(役所、銀行、学校、保育所、スーパーなど)

・道路幅、夜間照明

・騒音、悪臭、混雑、危険施設

ストックの
基本構造

・建物構造(RC造、SRC造、S造)

・土地面積、延床面積

・階高

地域ニーズ

・地域内の人口、年代

・その地域における賃貸住宅ニーズ(学生、単身者、ファミリー層、シニアなど)

・地域の人気度、イメージ

その他

・競合物件の数、今後の新規建築予定

・地域の今後の開発予定

築古物件であっても、建物の室内や共用部は相応のコストをかければブラッシュアップできます。しかし、上記に挙げた「ロケーション」や「地域ニーズ」は、自力ではまず変えられません。価格が安くても、そうしたストックは極力選ぶべきではないという理由です。

不動産投資物件選びにおいて、真っ先に提示される情報が「物件価格」と「利回り」でしょう。しかし、そこに示された利回りは、あくまでも満室稼働時における表面利回りに過ぎません。いくら(表面)利回りがよくても、高い入居率/満室にならなければ“絵に描いた餅”になってしまいます。投資物件の購入基準は「住んでもらえる家」にすることです。検討するマンションが、地域のニーズにフィットした投資物件になり得るのか、価格や表面利回りに縛られない多面的な検討が大切です。

執筆・編集・監修

日経BPコンサルティング

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年5月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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