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東京都心5区における中小オフィスビルの賃貸市況New

みずほ不動産販売 不動産市況レポート 5月号

この記事の概要

  • 中型ビルの平均稼働率は底打ちし、徐々に上昇している。小型ビルの平均稼働率は横ばい傾向。中型ビルと小型ビルの平均募集賃料はほぼ横ばいで推移。他方、大規模ビルと大型ビルは下落が続いている。ワークプレイス見直し等の影響でオフィス床需要の力強さが欠ける中、供給集中で競合ビルが増加しており、稼働率を維持ないし回復させることを目的に募集賃料を下げる動きが続いているとみられる。
  • J-REIT保有物件では、中小ビルのNOI※1は2021年度以降、コロナ禍直前とほぼ同水準で横ばいに推移しており、コロナ禍前よりも低位である大型ビルや大規模ビルと比べて堅調。
  • ただし、今年は景気回復の鈍化が見込まれており、伴って賃借需要が弱含んだ場合には、特に競争優位性が低い物件では更に厳しい環境になる可能性が考えられる。

1)中型ビルの平均稼働率は底打ちし徐々に上昇。平均募集賃料は横ばい傾向

東京都心5区※2の賃貸オフィスビルの平均稼働率(=100%-平均空室率)はすべての規模※3でコロナ禍を機に低下したが、足元では横ばいないし上昇傾向にある。中型ビルは2022年4月と5月の92.63%を底に徐々に上昇し、持ち直しの傾向が見て取れる。小型ビルは2021年5月以降93%台後半で横ばいに推移している[図表1]。

平均募集賃料は、平均稼働率の低下に伴ってすべての規模でコロナ禍を機に下落したが、足元の動きは物件の規模によって差がある。中型ビルと小型ビルは平均稼働率が下げ止まった直後の2022年後半以降、前年同月比は±ゼロ近辺で推移している。他方、大規模ビルと大型ビルは前年同月比マイナスが続いている[図表2]。大規模ビルや大型ビルでは、テレワーク利用が多い大企業※4が入居テナントに占める割合が高い傾向にあってワークプレイスの見直しによるオフィス床需要の減少懸念が未だにあることや、今年から始まった大量供給による競合ビルの増加から、借り手優位の状況であることなどが影響しているとみられる。

※1:賃貸収入から賃貸費用を控除した純収益のこと。ただし、減価償却費や資本的支出等は控除しない。

※2:千代田区と中央区、港区、新宿区、渋谷区をいう。

※3:大規模ビル:1フロア面積200坪以上、大型ビル:同100坪以上200坪未満、中型ビル:同50坪以上100坪未満、小型ビル:同20坪以上50坪未満

※4:東京都「テレワーク実施率調査」によると、2023年3月時点の従業員規模別テレワーク実施率は、300人以上の企業が82.1%、100~299人が61.7%、30~99人が41.4%で、従業員規模が大きい企業ほど高い。

[図表1]東京都心5区の平均稼働率

[図表1]東京都心5区の平均稼働率

データ出所:三幸エステート(株)「オフィスマーケット調査月報」

[図表2]東京都心5区の平均募集賃料(左)と前年同月比(右)

[図表2]東京都心5区の平均募集賃料(左)と前年同月比(右)

データ出所:三幸エステート(株)「オフィスマーケット調査月報」

2)J-REITが保有する中小ビルのNOIは2021年度以降、コロナ禍直前と同水準で横ばいに推移

稼働中物件の賃貸収益の状況をみるため、J-REIT保有物件を対象にNOI(対象物件の平均値)を物件の規模別に集計※5したところ、すべての規模でコロナ禍を機に下落したが、中小ビルについては2021年度上期以降横ばいとなっており、下げ止まりの様相を呈している。また、中小ビルの直近のNOIはコロナ禍直前の2019年度下期とほぼ同水準であり、コロナ禍直前よりも低位にある大型ビルや大規模ビルと比べて堅調である[図表3]。

[図表3]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均NOI

[図表3]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均NOI

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

NOIの変動要素をみるため、賃貸収入への影響が大きい貸室賃料収入単価(実収ベースの賃料単価)※6と稼働率を集計した(いずれも対象物件の平均値)。貸室賃料収入単価に関しては、中小ビルでは2021年度上期を底に僅かに上昇している。大規模ビルは未だに下落が続いており、大型ビルは直近は増加に転じたが中小ビルよりも長い期間下落が続いてきた[図表4]。稼働率に関しては、コロナ禍を機にすべての規模で低下してきたが、中小ビルは先行して下げ止まり、2021年度下期以降は大型ビルや大規模ビルよりも高位で推移している[図表5]。中小ビルは大型ビルや大規模ビルと比べて稼働率が高位の物件の割合が高く、稼働率が9割未満の低稼働の割合は低い[図表6]。

以上のとおり、一定以上の競争優位性を有する物件が多いとみられるJ-REIT保有の中小ビルの賃貸収益は堅調に推移しているが、今年は景気回復の鈍化が見込まれており、伴って賃借需要が弱含んだ場合には、これまで堅調に推移してきた物件でも賃貸収益の悪化に転じる可能性が考えられる。また、競争優位性が低い物件では更に厳しい環境になる可能性が考えられる。

※5:図表3~6では、2019年下期以降連続してデータが取得でき、かつテナント入居状況によって賃料収入が変動する物件のみを対象とした。集計対象数を確保するため、中型ビルと小型ビルは一体で集計。中型ビルと小型ビルの総称として中小ビルという。図表3~6で物件規模名に併記しているカッコ内の数値は集計対象物件数を表す。なお、図表3~5においてそれぞれの対象物件は一部異なる場合がある(図表5と6は同じ)。

※6:貸室賃料収入単価=貸室賃料収入÷(賃貸可能面積×平均稼働率)。すなわち、稼働面積当たりの貸室賃料収入を表す。

[図表4]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均貸室賃料収入単価

[図表4]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均貸室賃料収入単価

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

[図表5]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率

[図表5]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の平均稼働率

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

[図表6]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の稼働率分布状況

[図表6]東京都心5区に所在するJ-REIT保有物件の稼働率分布状況

データ出所:都市未来総合研究所「ReiTREDA」

主要都市の中小ビルの賃貸市況は概ね堅調

主要都市(札幌、仙台、名古屋、大阪、福岡)の平均稼働率について、中型ビルは大阪と福岡が横ばいで、その他は上昇基調にある。小型ビルは仙台で2022年以降低下基調となっているが、その他の都市は横ばいないし上昇基調にある[図表7]。平均募集賃料について、中型ビルは仙台と名古屋で足元やや下落しているが、その他の都市は上昇基調となっている。小型ビルはすべての都市で上昇基調が続いている[図表8]。

[図表7]中型ビルと小型ビルの平均稼働率

[図表7]中型ビルと小型ビルの平均稼働率

データ出所:三幸エステート(株)「オフィスマーケット調査月報」

[図表8]中型ビルと小型ビルの平均募集賃料

[図表8]中型ビルと小型ビルの平均募集賃料

データ出所:三幸エステート(株)「オフィスマーケット調査月報」

発    行:みずほ不動産販売株式会社 営業統括部

〒103–0027 東京都中央区日本橋1–3–13 東京建物日本橋ビル

レポート作成協力:株式会社都市未来総合研究所 研究部

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※2023年5月30日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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