テーマ:賃貸管理

賃貸不動産の「オーナー業務」の引き継ぎ問題を考える

「不動産投資」管理の重要なポイント (第44回)

この記事の概要

  • 長生き社会となり、賃貸不動産のオーナー業を後継者へ引き継ぐタイミングが難しくなっています。忙しい子世代に気兼ねして言い出せない、誰に引き継ぐかまだ決められないなどの理由で親世代がオーナー業を抱え込んでしまい、必要な引継ぎができないまま相続発生してしまうケースも増えています。引継ぎがなるべく楽になるよう、そして将来後継者が困ることがないよう、日ごろから整理しておきたい内容をまとめてみます。

賃貸不動産の「オーナー業務」の引き継ぎ問題を考える

1.賃借人関連の情報

賃貸管理会社に管理委託している場合は問題ありませんが、オーナーさまご自身で自主管理されている場合、まずは賃貸借契約の内容が分かるように整理しておくことが重要です。

賃借人の退去や新たな入居に伴って、オーナーさまの手元には多くの書類が届きますが、その整理が出来ていないケースが散見されます。賃貸借契約書用のファイルを用意し、部屋番号ごとに「現在継続中の賃貸借契約に関する書類のみ」を入れるようにしてください。賃貸借契約が解約となり退去が済んだものに関しては、賃貸借契約書類は別のファイルに移し、万が一のトラブルに備えてしばらく保管しておきましょう。

賃貸借契約書用のファイルには、最初の契約時の書類として「入居申込書」「賃貸借契約書」「家賃債務保証会社の契約書」「賃借人の身分証明書等」が揃っているか確認し、契約更新があった場合はそのタイミングで変更点が発生している可能性がありますので、「更新関連書類」も時系列に入れておきましょう。入居中に契約内容に変更が生じた場合は、口頭ではなく必ず書面化し、一緒にファイリングしておいてください。

また、家賃滞納に関する情報や、入居中の設備故障の修繕の情報、クレームの情報なども、その賃借人の賃貸借契約に関する情報と一緒に管理しておくと良いと思います。賃借人と何らかのトラブルが発生した場合、入居してからその賃借人との間で発生した様々なことを理解した上で対応する必要がありますが、それらの情報が整理されていれば、後継者が不利な立場に置かれずに済むはずです。

書類のファイリングイメージ

2.建物や土地に関する情報

入居者との賃貸借契約書用のファイルは退去とともに入れ替えが必要ですが、建物に関する情報はずっと継続した管理が必要となります。

オーナー業の後継者の立場となった方からよく聞くのが、「建築図面が見当たらない」ということです。建物の修繕やリノベーションの際にあると役立ちますので、申請図面や竣工図面は必ず保管しておきましょう。もしそれらが無いのであれば、後継者が無駄に探し続けることがないように、無いという事実が分かるようにしておいてください。もし将来売却する場合にも使いますので、建築確認申請書、検査済証と一緒に保管しておくと良いでしょう。

建物の鍵の管理も重要です。新築時に施工会社から引き渡された複数の鍵がきちんと管理されていないことが非常に多く、管理室やポンプ室の鍵が紛失していたり、入居者入れ替え時に交換済みなのに古い鍵が残っていたり、どこの鍵か分からないものが混じっていたりするケースがあります。必要な時にすぐに使えるように鍵一覧を作成し、鍵にはラベル付きのキーホルダーを付けてきちんと整理しておきましょう。

その他、ケーブルテレビやインターネットなどを契約していたり、防犯カメラや宅配ボックスなどの保守点検を依頼している場合には、設備の取扱説明書と一緒にそれらの契約書も保管しておきましょう。

賃貸不動産経営というと建物ばかりに目が行きがちですが、土地に関する情報も重要です。測量を実施している場合は地積測量図、土地が借地の場合は借地契約に関する書類などをまとめておきましょう。

建物の鍵イメージ

3.建物の点検や修繕の情報

消防設備や給排水設備、エレベータなど点検が法律で義務付けられているものについては、万一の事故の時などに所有者責任を問われないようきちんと点検を実施し、報告書類を専用のファイルで時系列に整理しておく必要があります。点検で指摘事項が上がった場合は修繕や部品交換等の対応を行い、その書類も一緒に保管しておきましょう。法定点検以外に専門業者に依頼した清掃業務等がある場合は、依頼先や依頼内容、実施状況が分かるように整理しておきましょう。点検報告書類は保管していくとかなりの量になりますので、直近数年分のみ手元に保管し、古いものは別ファイルに避けておくなどの自分なりのルールを決めておくとかさばりません。

建物の維持管理には修繕がつきものです。建物の寿命は長いので、同じ箇所の修繕を繰り返し行うこともあります。いつ、どの部分を、どのように修繕したのか、どこに依頼していくら支払ったのかなどの修繕履歴をきちんと整理しておきましょう。修繕には保険対応できるものもあります。保険金の請求漏れが発生しないよう、建物に掛けている火災保険の内容がすぐに分かり、補償対象の修繕が発生した際にすぐに保険会社に連絡できるようにしておきましょう。

居室内のリフォームや修繕の書類は、部屋番号ごとにまとめておくと、過去にどういう修繕を行ったか分かるので便利です。退去があった際には、古い賃貸借契約書は別に保管し、修繕の書類は抜き出して部屋番号ごとにまとめてファイリングしておきましょう。

賃貸不動産のオーナー業は書類が多く、情報も多岐に渡るため、引き継ぐのは簡単ではありません。日ごろから必要な情報が整理されていれば、何かあるごとに短時間で後継者に伝えることができますし、急に万一の事があった場合でも、後継者が慌てずに済みます。相続発生のタイミングで自主管理から管理会社委託に変更する場合でも、情報が整理されていればスムーズですので、少しずつ整理を始めてみてはいかがでしょうか。

著者

伊部尚子

公認不動産コンサルティングマスター、CFP®
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトマネジメントに勤務し、賃貸仲介・管理業に20年従事。現在は不動産の利活用や相続支援業務を行っている。金融機関・業界団体等での講演多数。

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年2月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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