毎月の光熱費を下げる、断熱性能の強化【マンション編】

マンションを購入する際に、絶対に知っておくべきこと(第10回)

この記事の概要

  • 昨今の社会情勢などを背景に、電気代やガス代などの光熱費が急騰しています。さまざまな節約術も見られますが、抜本的な光熱費の低減方法としては、断熱性能を中心とした省エネ性能の強化が挙げられます。今回は、マンションにおける光熱費対策のポイントとともに、中古マンションの購入を検討される方に向けて、光熱費にフォーカスしたマンションのチェック方法を紹介します。

毎月の光熱費を下げる、断熱性能の強化【マンション編】

既存住宅のウイークポイントは開口部

光熱費の高騰による消費者の悲鳴が、連日ニュースを賑わせています。地域や家庭にもよりますが、この冬の光熱費は、前年度より概ね3割以上も上昇しているそうです。あまりにも急激な高騰に、国は2023年2月検針分から電気やガス料金の補助を打ち出しましたが、値上がり幅の方がはるかに上回っている状況です。

光熱費を下げる=エネルギー消費量を抑える為には、住宅の断熱性能を高めることが抜本的な対策です。断熱性能を高めると外気の影響を受けにくくなり、夏の暑さ・冬の寒さに対して冷暖房機器の使用を最小限に抑え、月々の光熱費を下げられるというわけです。

現行の住宅における熱ロスは、なんといっても「開口部」が一番のウイークポイントです。下の図をご覧ください。住宅の熱ロスの原因は、圧倒的に開口部であることがお分かりいただけると思います。

(図)住宅の熱損失は開口部が一番大きい

住宅の熱損失は開口部が一番大きい

出典:経済産業省資源エネルギー庁「省エネポータルサイト」

多くの分譲マンションは、管理規約で窓枠や窓ガラス、玄関扉などの開口部を「共用部分」として定めており、区分所有者は勝手に変更できません。「各区分所有者の責任と負担において実施することについて、細則を定める」とする管理組合もあるようですが、そのようなマンションはまだまだ少ないのが実情です。

マンションの断熱性能向上にはインナーサッシの追加が手軽で効果的

窓の断熱性能を強化するには、大きく①窓のみ交換、②窓枠と窓の更新、③内窓の追加という3つの方法があります。

①は、従来の単板の窓を複層ガラス窓に更新する方法です。複層ガラス窓は、2~3枚のガラスの間にガスや乾燥空気を閉じ込めることで断熱効果を高めます。既存のサッシを流用するので、②より断熱性能がやや劣ります。

②は、サッシ部分も含めて開口部全体をグレードアップさせる方法です。築年の古い住宅の多くはアルミサッシですが、アルミサッシは断熱性能が低いので、これを樹脂や木製サッシなど熱伝導率の低い素材のものに交換します。構造や防水性への配慮から、既存の窓枠を残し、その上に新しい窓をかぶせる工法(「カバー工法」といいます)があります。壁を壊す必要がないためこちらの方が一般的です。

③は、既存の窓の内側に、もう1枚窓を取り付ける改修方法です。内窓は「インナーサッシ」などと呼ばれます。既存の窓と合わせて二重窓になるため、間の空気層も断熱性能の向上に寄与します。

①~③のうち、マンションで一般的なのは、③の内窓を追加する方法です。既存の窓を触らないため、管理組合規約に抵触することもありません。断熱性能のほか、二重窓による防犯性や防音性の向上にもつながります。他の工法よりも施工が簡単で、1カ所あたりの工事時間が1~数時間程度と短期で済むというメリットもあります。

費用はサッシやガラスのタイプやサイズ等によって違いますが、居室の腰窓なら概ね10万円程度からとなります。リビングの掃き出し窓でも十数万円程度からラインナップされているようです。

省エネ性能の高い設備機器や家電品も光熱費削減に効果的

マンション専有部の断熱性能を高める方法としては、内壁や天井裏、床下に断熱材を充塡する方法もありますが、既存の壁や天井などを解体する分、どうしても工事が大がかりになってしまいます。比較的手軽な方法として、設備機器や家電品の交換で省エネ性能を向上させることも可能です。

住宅の設備機器としては、給湯器を高効率タイプに交換する、キッチンやバスルームの水栓金具やトイレの腰掛便器を節水タイプに替える、照明機器をLEDタイプに替えるなどの方法が比較的手軽です。

使用電力の高い家電品を省エネタイプの製品に替えることも、光熱費の削減には効果的です。省エネ家電の代表としては、エアコン、洗濯機、冷蔵庫、テレビなどがあります。1つの製品を丁寧に長く使っていくことも大切ですが、家電品に関しては数年で省エネ性能が格段に向上するため、ランニングコストも意識して買い換え時期を検討してはいかがでしょうか。

(図)家庭でのエネルギー消費量は増加している

家庭でのエネルギー消費量は増加している

出典:経済産業省資源エネルギー庁「省エネポータルサイト」

既存住宅を選ぶ際には省エネ性能のチェックが必須!

さて、ここまでは持ち家として既にマンションにお住まいの方向けに、自宅の省エネルギー対策等級を高める方法を紹介してきました。最後に、現在中古マンションの購入を検討している方のために、光熱費低減に注目した物件選びのポイントをお伝えします。

住宅(マンション・戸建て)には省エネ性能が規定され、時代とともに省エネ基準が強化されてきました。現在、省エネルギー対策等級は等級1~7まで規定されており、新築住宅については2025年から、等級4以上の性能付与が義務化されます。

(表)住宅における主な省エネ性能に関する規定

制定された基準 現行の住宅性能表示制度における
省エネルギー対策等級
1980年 旧省エネ基準(昭和55年基準) 等級2
(昭和55年基準を満たさないものが等級1)
1992年 新省エネ基準(平成4年基準) 等級3
1999年 次世代省エネ基準(平成11年基準) 等級4
2013年 改正省エネ基準(平成25年基準) 等級4(+気密性能の適用開始)
2016年 改正省エネ基準(平成28年基準) 等級4(+1次エネルギー消費基準の導入)
2022年 建築物省エネ法改定 等級5~7の新設

省エネルギー対策等級は耐震基準などと違って義務ではなく、築年によって一定の省エネ性能が担保されていません。2000年4月に「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が制定され、それ以降に建てられた住宅については、「住宅性能表示制度」によって省エネルギー対策等級で示されています。そのため、2000年以降の既存住宅については、検討の際に住宅性能評価書の写しを見せてもらい、新築当時の省エネ性能をチェックしましょう。

2000年以前の中古マンションについては、開口部の仕様について念入りに確認しましょう。サッシが樹脂製で、ガラスが複層になっていれば、一定の断熱性能が期待できます。窓の鍵をかけてもすきま風が見られるような場合は、高い省エネ性能は期待できません。購入後の光熱費が高額になることを覚悟するか、インナーサッシの追加などの検討が必要です。

これからの住まい選びに、断熱性能を中心とした省エネ性能のチェックは欠かせません。これまでお話ししてきたように、省エネ性能は光熱費の低減という経済性だけでなく、快適性や家族の健康面でも、暮らしに欠かせない住宅性能といえるからです。

(表)省エネ性能のメリット例

メリット 概要
快適・健康
  • ・外気の影響を受けにくいため、最少の冷暖房機器で夏涼しく冬暖かな温熱環境が実現する
  • ・結露やカビなどの発生を防止する
  • ・居室ごとの温度差が少なく、冬場のヒートショックなどのリスクが軽減する
経済性の向上 ランニングコストが低減し、光熱費の削減に有効
資産価値の保持 高い省エネ性能は将来の売却度に有利
執筆

谷内 信彦 (たにうち・のぶひこ)

建築・不動産ライター。主に住宅を中心に、事業者や住まい手に向けて暮らしや住宅性能、資産価値の向上をテーマとして執筆活動を展開している。近年は空き家活用や地域コミュニティーにも領域を広げる。著書に『中古住宅を宝の山に変える』『実家の片付け 活かし方』(共に日経BP社・共著)

※ 本コンテンツは、不動産購入および不動産売却をご検討頂く際の考え方の一例です。

※ 2023年2月27日本編公開時の情報に基づき作成しております。情報更新により本編の内容が変更となる場合がございます。

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